「調停の時は、私が父の生命保険を使った分を返して欲しいって言ったら、絶対婚姻生活の中で些細な出来事をでっち上げて慰謝料請求してくる事は予想がついていた。そのまま戦っても良いとは思ったんだけど、長期戦になって娘の生活が脅かされるのを避けたかったから、交換条件で相殺してあげたの。…本当は納得なんてしてる訳ない。あのお金は父が私達が困らないように遺してくれたお金だったんだから。」
「些細な事じゃないだろ!」
「何を根拠に些細じゃないって言ってるの?」
「お、俺がそう覚えているからだ。」
「アンタが自分の都合のいいように書き換えた記憶でしょ。私は根拠を示せと言われたらキチンと証拠を出すことができる。毎日記録しておいた日記がその証拠よ。」
「それこそ、でっち上げだろ。」
「見てみる?私はこう見えても細かい人間でね。その日、何時に何が起きたのか箇条書きで記録してあるの。自分の心情は一切書かずに淡々とその時になったことを記録してきた。」
私の手から日記を奪うと、それを見た元夫の顔がだんだん青ざめていく。
「何で、調停で私の意見が通ったのか。アンタと違って証拠能力のある物を提出したからよ。」
家計簿とは別に、レシートや通帳をコピーして一緒に記録に残していた。
クレジットカードの利用に関しては、クレジット会社の利用明細をつけておいた。
一つ一つは弱いカードでしかない。でも、そこにその時にあった出来事を加えておくことで強いカードに生まれ変わる。
元夫たちが用意した形ばかりの見せかけカードではなかったと言う事。
私が記録した日記を見て元夫の手がガタガタと震えている。
「その内容が本当に起こった出来事よ。アンタが自分の頭で都合よく書き換えた事じゃなくてね。それとも、母親に催眠でもかけられていたのかしら。」
「…。」
「今からでも、結婚生活中に私が受けた経済DVに関しての慰謝料と父の保険金を返納して欲しいって訴えることもできるだけど。それだけじゃない。私の実家に怒鳴り込んできた時に壊してくれた門扉の修理料金、離婚してから発覚した不貞行為に関しての慰謝料もあったし、小学校に乗り込んできたりした時の迷惑料を上乗せしてもいいんですけど?」