ルンルンカンカン キンカン キンカンコン
カンカン 鍛冶屋のおじいさん
肩こり 腰の痛みには
キンカン塗って また塗って
元気に陽気に キンカンコン
ミカン キンカン サケノカン
ヨメゴモタセニャ ハタラカン ルンルン

 

 

 

今年は少し風情が違うコマーシャルですが

キンカンのコマーシャルを目にする季節になりました

 

2020年初夏
 

 

わたしの最初の記憶にはキンカンが出てくる

 

 

 

今もそうだけれど子どものころからかなりの乾燥肌

そしてなにかというと蕁麻疹もできていた

 

 

 

ある夏の日の昼間

蝉の声

あけ放たれている掃き出し窓

真新しい畳

真新しい部屋を仕切る襖

ダラダラと流れ落ちる汗

 

その時のわたしはたぶんせいぜいで2歳

恐らく全身に汗疹ができている

痒かった

 

母がイライラしながら

パンイチのわたしの身体をさすって掻いてくれていた

全身を掻いてくれていた

痒みは痛痒い感じに変化

刺激により少しだけ痒みは薄らぐ

 

 

正確にはわからないけれど

痒い痒いと特に騒いでいた記憶はない

けれど、察してやってくれることなどない母が

わたしの身体を掻いていてくれたってことは、

幼いわたしはきっと痒いことを母に訴えたのだと思う

 

 

歳の離れた姉(長女)が叫びながら何かを手に持ちやってくる

彼女とは10歳ほど離れているので、たぶん中学1年生くらい

 

力まかせに母の前から手を引っ張られ

そのまま押さえつけられる

正に赤子の手をひねる状態

 

 

 

熱い!痛い!熱い!痛い!熱い!痛い!

 

 


何が起こっているのかわからないけれど

ただただ熱くて痛かった

 

「こうすればいいじゃん!」と叫びながら

キンカンをわたしの全身に塗っていた


今とは違っている容器

蓋の裏側にスポンジがついていて

それを容器の中の液体につけて湿らせて再度塗るタイプ

 

 

 

わたしを押さえつけたまま

繰り返し繰り返し
スポンジをキンカンで湿らせては幼子の身体に塗る
キンカンの特徴ある匂いがする

繰り返し繰り返し

 

 

 

あの時はなにが起こっているのか全くわからなかったけれど

成長して熱くて痛い理由はわかった

 

 

 

刺激を与えた後の少し傷のある肌にキンカン

 

 

 

全身炎に包まれたような熱さ

耐えられない熱さと痛み

 

 

 

たぶん泣き叫んだと思う

 

 

 

母はいなくなっていた

熱くて痛くて悲しくて寂しくて
真新しい畳の上に横たわっている
キンカンとい草の香りも

鼻の奥も涙と鼻水でいっぱいになってわからなくなっている

わたしはひとりで泣き続けている

 

わたしはひとりで泣き続けている

 

 

 

行けるのなら、あの瞬間に戻って

幼子のわたしを抱きしめてあげたい

ギュッと

強く強く

優しく強く抱きしめて

髪に頬をつけてスリスリしてあげたい

冷たいシャワーで体を洗ってあげたい

 

 

 

 

これは最初の記憶

思い返すと、家族との関係は全てこんな感じだった

ある時までなにも違和感を覚えていなかった

おまえは拾われてきた子だと姉に言われ続けていたので

戸籍を見るまでは養子なのかも?と思ったことはあるけれど

「わたしはここの家の子どもではないのかも?」なんて疑惑は子どもにはよくあることで

これが普通の家族関係だと思って生きてきていた

 

 

 

けれど成長し

アラサーになったころ、

お互いの子どもの頃の記憶を話していた同僚に指摘されて

初めて普通ではないご家庭だったことを知った