■韓国から帰って、二週間ほどたった2010年11月中旬頃です。TVでお馴染みの姜 尚中(カン サンジュン/강 상중・東京大学大学院情報学環教授)さんが、あまり聞き慣れない美術館を女性casterと共に案内するBS放送番組を見る機会がありました。
奈良市にある「大和文華館」という東洋美術の一級品を所蔵する知られざる私設ミュージアムであることが分かると、じっとしとられんようになったわ。

早速11月24日、あおによし奈良へ趣いたのでございます。天は碧空、地は紅葉、申分なし。

沿革:「(財)大和文華館」は、奈良市学園前の閑静な住宅街に位置する美術館です。昭和35年(1960)、近畿日本鉄道の創立50周年を記念して開館したそうな。
今では所蔵品は2000件を超え、その中には国宝4件、重要文化財31件が含まれ。このほか、故中村直勝博士蒐集古文書(雙柏文庫)664件、近藤家旧蔵富岡鉄斎書画143件、鈴鹿文庫(和書)6162冊があるそうです。

皆さんも美術品の数々をご覧になられたら、改めて日本・朝鮮・中国の交流・関わりの深さに驚かれるでしょうね。日本から見た「東アジア」の再発見でございます。

では、「大和文華館」をご案内いたしましょう。所蔵品はごく一部しか紹介できませんが、ご容赦下さい。

「大和文華館」正面

開館50周年を迎えた平成22年(2010)、本館建物の耐震補強やバリアフリー化などの大規模な改修工事を行い、リニューアルオープンしたそうです。コンセプトはよりよい展示空間、鑑賞環境とか。

案内碑によると、「大和文華館」は菅原池(通称:かえるまたいけ 蛙股池)のほとりに位置し、菅原池は『日本書紀』に登場し、日本最古のダムとも言われているそうです。 平城京跡や高円山 、春日山を眺めながら古都の歴史に思いをはせてみて下さい。

「大和文華館」背面

 池の一部と庭園を眺める


◎タカナがセレクトした作品をご覧あれ。

1.日本の美術品

◆江戸時代前期国宝 婦女遊楽図屏風(ふじょゆうらくずびょうぶ)(松浦屏風)の一部。紙本金地著色・六曲一双

遊女と遊里で養われていた童女、禿(カムロ)を金地屏風に大きく描いた作品です。この作品では衣装や調度が入念に描き込まれ、調度にはタバコ、キセル、ガラスなど、当時の人々の羨望を集めていた南蛮からの渡来品が数多く見出せることも特色に上げられます。

まさに贅を極めた遊女たちの世界が、金地の画面に凝縮されています。

松浦屏風という名称は、九州の平戸藩、松浦家に伝えられていたことに由来します。
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◆江戸時代中期、重要文化財 尾形光琳昨:扇面貼交手箱(せんめんはりまぜてばこ

白楽天図(背面)

富士図(懸子表)かけ‐ご【懸子・掛子】他の箱の縁にかけて、その中にはまるように作った箱

◆平安時代後期、
国宝 一字蓮台法華経 普賢菩薩勧発品

銀の罫線の間に記された経文は、一文字一文字が蓮台に載り、金輪が付されている。一文字一文字を仏心に見立てているためであり、究極に洗練され抽象された「ほとけ」の姿といえる。
平安時代後期には華麗に装飾された経巻(貴族の美意識が生み出した、仏教美術の精華)が数多く制作されたのでございます。
贅の限りを尽くしたお経とな、現代人には考えられない平安貴族の信心深さに感心するばかりです。

◆鎌倉時代、
重要文化財 源氏物語浮舟帖(げんじものがたりうきふねじょう)

『源氏物語』第五十一帖「浮舟」の後半部の写本。雲母をひいた光沢のある料紙を用いており、墨流しの装飾が施された頁もある。
浮舟の長い黒髪など限られた部分にのみ用いられた濃墨が白地に美しく映える。


2.中国の美術品

◆中国・北魏時代(472年)石造釈迦如来坐像 

偏袒右肩に袈裟を着し、禅定印を結んだ釈迦如来坐像。

・正式に日本へ仏教伝来する100年ほど前に中国から海を渡ってきていたとは驚きですね。

【偏袒右肩へんたん‐うけん】(比丘(びく)が袈裟(けさ)を着けるとき、右片袖をぬいて右肩をあらわすこと。古代インドの僧の最敬礼の姿。)
【禅定印】「(禅定(ぜんじょう)に入っていることを示す印契(いんげい)。法界定印・阿弥陀定印など。)」


◆中国・唐時代 重要美術品 銅製貼銀鎏金双鳳狻猊文八稜鏡(どうせいちょうぎんりゅうきんそうほうさんげいもんはちりょうきょう、ややこしい名前ですな。
白銅製ですとな。銀板に文様を打ち出し、文様部分に鍍金を施して背面に貼り付けているそうな。

・円盤型の青銅鏡は見慣れていますが、八葉の蓮華の如く珍しい一級品です。


◆中国・北宋時代(1108年頃)の昨 
白掻落牡丹文枕(しろかきおとしぼたんもんまくら)

宋~元時代に最盛期を迎えた磁州窯(河北省磁県を中心とする民窯群の総称)は,掻き落としや鉄絵による白と黒を基調とした装飾が多い。
てつ‐え【鉄絵】 
ベンガラなどの鉄分の多い顔料を用いて陶磁器に文様を施す技法。また、その製品。絵唐津・絵志野などに用いる。

・こんな枕で熟睡できたでしょうかね?堅くて冷たそう・・・


◆中国・南宋時代 
重要文化財 蜀葵遊(しょっきゆうびょうず)

一匹の親猫と、二匹の戯れる仔猫、また蝶を見上げる仔猫が描かれ、克明ながらも愛らしさを失わない描写を持つ本作は宋代動物画の白眉である。韓国や日本の遊猫図に大きな影響与えたといわれる。


3..朝鮮の美術品

◆朝鮮・統一新羅時代
 金銅飛天形飾金具

天人をあらわすと見られる人物は鞍のような物に坐している。人物の体つきは細長く、鳳凰の尾とともに優美な流線形をなす。尾の部分などに鉄心を入れてあり、細部を刻み鍍金を施してある。


◆朝鮮・高麗時代後期 楊柳観音図 

仏像画というよりどこかで見かけたオジサンのような人間くささを感じます。

上半身から腰にかけてわずかに捻って顔を正面に向け、穏やかに水面を見つめる観音の表情や身につける瓔珞(ようらく)と条帛(じょうはく=すじ状の絹)が緩やかに垂れるさまはおっとりとした安心感を与える。
よう‐らく【瓔珞】 
・インドの貴族男女が珠玉や貴金属に糸を通して作った装身具。頭・首胸にかける。また、仏像などの装飾ともなった。瑶珞(ようらく)。
・仏像の天蓋、また建築物の破風(はふ)などに付ける垂れ飾り。


◆朝鮮・高麗時代後期末期~朝鮮王朝時代初期 
螺鈿菊唐草文箱小箱(らでんきくからくさもんこばこ)
唐草文の連続する曲線には金属の細い単線が用いられた。12世紀から13世紀の文様形式を受け継ぎながらも、緻密な造形感覚の中に和らいだ雰囲気を有している。

用途は?「唐物茶箱」という箱書きがあるそうな。となれば、日本で「お茶」というものが受け入れられ始めた初期にあたるのかもしれません。


◆朝鮮・朝鮮王朝時代 
螺鈿蒲萄文衣裳箱

螺鈿物ばかり掲載するのか?と思われるでしょう。朝鮮王朝時代のものは特に優れているとタカナは思ったのです。「韓流時代劇」でも室内装飾でよく見かけました。

東洋では蒲萄文は実を多くつけることから子孫繁栄の吉祥の意味を持ち、朝鮮王朝時代の水墨画や陶磁器の文様にも多く描かれるなど、非常に好まれる題材であった。


以上十数点の作品では物足りないかもしれませんが、タカナも美術品を通して日本・中国・朝鮮の関わりの一端を知ることができました。避けては通れない隣国関係です。暖かい眼差しで向き合い共に交流の輪を広げてまいりたいと存じまする。