キャサリン・パー
(以下、前回からの続き)
ハント邸に移ったことで、エリザベスの生活には再び平穏が訪れ、勉学により一層邁進するようになった。別れて暮らすようになってからも、キャサリン・パー王妃とエリザベスは、何度か手紙を通じて近況を報告し合っている。
「私の出発に際し、溢れるばかりのご親切をしていただきましたのに、あまりに辛く十分に御礼を述べることが出来ませんでした。お側を離れるのは、特にお継母様の健康が優れない時にお別れをするのは悲しく、胸がいっぱいで言葉になりませんでした。お継母様が私を良い子だと思っておられなければ、あんなにもご親切にして下さらず、反対のことを為されたに違いありません。良き友人をお与えくださり、神に感謝する以外に何と申し上げたら宜しいでしょうか。あの方たちが長生きし、私を豊かにしてくださいますよう神にお祈りし、心からの感謝を込めてお恵みをお受け取りいたします」
これに対してキャサリン・パー王妃も、「あなたが側に居なくてとても寂しい」という内容の手紙を送っている。
「生みの親より育ての親」と言われる。実の母アン・ブーリンの記憶がほとんどないエリザベスにとって、このキャサリン・パーという継母は、まさしく実の母以上の存在であった。この人がいなければ好きな学問も出来ず、王位継承者に戻ることも出来ず、結果として後の「偉大なる女王エリザベス」は歴史に名を残すことがなかったかもしれない。エリザベスを生んだアン・ブーリンが「歴史を作った女性」と呼ばれるならば、エリザベスを育て上げたキャサリン・パーは「歴史を育て演出した女性」と言えるかもしれない。
チェルシー宮での涙の別れから、およそ3か月。1548年9月、本当の別れは突然訪れた。8月30日に女児を出産したキャサリン・パー王妃は産褥のため、その6日後に死去したのである。その知らせを受けたエリザベスは、悲しみに打ちひしがれ、不安に胸が震え、涙が止まらなかった。「これで私はまた孤児になった…」
(以下、次回に続く)
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