数ヶ月前に家から車で10分のところにロードサイド書店がOPENしたとの情報を聞きつけ、さっそく都合の良い日にこっそりお邪魔しました。
この堂々と訪問しようとしないこしゃくな考え自体はまったく問題ではあるのですが、第一の目的は、似たり寄ったりの書店なのか、それとも斬新な書店なのかを確認するためです。こっそりとお邪魔するというのは、なにかしらのあら探しをしようという試みのあらわれです。
春休みということもあり、おそらくは学生であろう方達の訪れに大変な商売繁盛を思わせる騒々しいレジカウンター。
「なかなかやるじゃないか。」
とひとりごちながらよくよく彼らが手にする書物を確認すると、
「オーシャンズ11」
「ロードオブザリング」
「サザンオールスターズ」
書物など誰も持っていないじゃないか。
それらは音楽CD、DVDのオンパレードなのです。そう、併設しているレンタルモノの格安期間の真っ最中なのであります。
店内に入る人々のほとんどは入り口から見て右側のレンタルコーナーしか視野に入らない近視眼的な状況。一方の左側を占める本のコーナーには無視を決め込みます。
僕の目的である本のコーナーは、この場で元ジャニーズ系ローラースケート軍団のごとく滑ろうが、客船の2等室のように寝転ぼうが、決して人の迷惑にはならないほどに、閑散とした雰囲気。実際、子供たちが店内鬼ごっこなる遊びをしてくれていたことがせめてもの救い。なんともいえない居心地の悪さは彼らの振る舞いによって気休め程度に解消されたものの、
「書店」という名を使ったレンタルショップがまた一つ産声をあげたという第一印象でありました。
名は体を表すということわざはこの店舗においては死語なのでしょうか。
そんじょそこいらの「延命書店」の棚のモノマネを彷彿させるそれには
ガッカリ。
新しくOPENしたお店というものは、時代を読み、先取りする意味を含め、個人的に大変重要視しており、なんらかの特別な仕掛けに期待しすぎた僕に落ち度があったのか、逆に書店の衰退をまざまざと見せつけられたという結果と同時にどうやら新たな立地を求めての
スクラップ&ビルド的な開店はいささか残念でありました。
お客に最も密接な書店のあり様がこれなのですから、いかにこの業界が病弱であることが想像できます。
前回は委託販売制を責任販売制へとシフトすることと、同時に
値引き販売があってもいいことをちょろっと出しましたが、とりわけ問題にした委託販売制に関する「功」の部分は、本を買う側にとっては
立ち読みが可能であることを利点のひとつと考え、書店にとっては
読書が普及した最大のポイントであることに異論はないかと思います。
しかし、貢献してきたはずの委託販売制は、メーカー側(出版社)にとっては、ある程度のリスクを伴います。責任販売制であれば、商品を小売店に売った時点で、なるべく早くその代金は支払われます。(業界、企業規模の大小によって多少のバラツキはある。)
一方、委託販売制ならば、委託販売期間後に小売店で売れた商品に見合った代金が支払われるのが一般的です。
出版業界においては、よく名前の聞かれる出版社はほとんどが委託販売制と思っていただいて結構ですが、出版業界ではこの制度のことを
「返品条件付販売」とも呼んでいます。書店側の都合のよい解釈ならば、
「一応、一定期間、販売を委託するけれど、売れないのなら返品も許可する。」
というものです。この制度のもとでは、書店は責任販売制ではなく一定期間商品を店頭に陳列し、契約期間終了後の売れた分に対して請求される委託販売制にもかかわらず、「返品条件付販売」という上記太字の解釈により、書店側の都合による返品を容認する一方で、すぐに仕入れた分を請求されます。
もちろん返品したぶんを相殺した請求書です。ここでいう「返品条件付販売」は新刊書籍のジャンルが対象です。雑誌や在庫補充のための注文品については別の機会にお話します。
さて、書店と出版社というものは、両者が本の仕入れ等について話し合うことはありますが、例えば出版社Aの本を書店が仕入れたところで、書店が出版社Aに直接代金を支払っているのではありません。
ほとんどは、中間業者である問屋が代金の回収・支払いの役割をします。
このことを前提として、以下のようなことが起きているとの業界間での噂が絶えません。書店・中小出版関係者の話や、小林一博著「出版大崩壊」などでも述べているのですが、出版点数激増の理由のひとつと考えられますので、記します。なお、3~4年前に耳にした話ですので、これが過去の出来事であることを期待します。正直、支払いの方法は自由であって当然構わないのですが、問題は、支払方法の理由であると考えます。
とても世間に名の知れた出版社Aがあるとします。
出版社Aはある日、新刊として「はやく人間になりたい」という本を1万冊販売します。ここでの販売方法は返品期限付販売です。出版社のほとんどは問屋に本を出荷して、問屋から売れた本の代金を手に入れます。ところが、1万冊分の代金を手にするのは発売から6ヶ月が過ぎてからという業界ルールというものがあります。
この本の問屋への販売価格を1000円とすると、
期間が過ぎるたあと、1000万円を手にすることができます。
ところが、ここがクセモノなのですが、返品期限付販売という妙なルールがあるために、
「はやく人間になりたい」が売れない場合は全国の書店が8000冊、問屋を通じて返品すると仮定します。ならば、8000冊×1000冊 =800万円
の代金を問屋は出版社Aに請求するのですが、この請求については、6ヶ月が過ぎてからといったルールはなく、ただちに行われます。
これじゃあ出版社Aは1000万円を受け取るより前に
800万円の請求に応じるはめになり、冗談ではありません。
そこで、問屋は
「仕方がないなぁ。じゃあ、おたくとは長い付き合いだから、1000万円を6ヶ月先じゃあなく、もっと早く入金してあげる。そしてこれから出すおたくの新刊についてははやく入金するから。」
などと、愛の手を出版社Aに差し伸べます。
とりあえず助けてもらった出版社Aは予想以上早い時期に
1000万円 - 800万円 = 200万円を手に入れます。
このおいしい支払い条件を思う存分に生かすべく、さらに
「いつか人間になりたい」
「どうしても人間になりたい」
をそれぞれ1万冊ずつ販売します。問屋への販売額は2つとも1000円。
1万冊 × 1000円 × 2点 = 2000万円を原則の期間より早めに問屋から受け取ります。ただし、2000万円すべてをまとめて受け取っているのか、そうでないのかは各出版社により違いがあるのかもしれません。
出版社Aは、同時に返品により、問屋からの請求を恐れます。
(実際は販売額から返品額を差し引いた額を支払う、あるいは手にする)
多大な返品により、資金繰りが悪くなる前に、出版社Aは新たに
「もう妖怪でもいい」
という新刊を出版、販売することで、苦しい台所事情をなんとかやりくりします。
こうして、資金を調達するために新刊は次から次へと発行され、これらが積もり積もった結果が、出版点数の激増です。
上記のような場合は、中小・地方の出版社や新規参入出版社にはまずないと考えられます。それらが新刊書籍を発売しても、その代金を手にするのは6ヶ月が過ぎたあとです。
また、いくつかの出版社は、それぞれがある期間を境に妙に出版点数の増えている場合があります。それらに遭遇すると、ついつい資金が苦しいのではないかとうがった見方をしてしまいます。もちろん前向きに出版点数を増加している出版社もあります。まあ機会があれば、数えてみてください。
さて、出版業界の研究をされている
「とある宮城大学生の卒論」というブログをここにご紹介します。
大学生だからこそ、業界経験者より客観的に出版界について述べることができ、さらには有識者などとの意見交換などもされています。本記事に照らし合わせるならば、
2月23日記事をお勧めします。
*以上は新刊の書籍に関する支払いルールの原則です。雑誌や古い書籍に関しては異なります。
1年間の出版点数が3~4万点だった昔が、今では
7万点にのぼります。
その一方で、1点あたりの刷数は減少傾向にあります。
出版点数が増えるのは、選ぶ側にとっては非常にすばらしいことなのですが、
「まがいもの」「類似本」
も多く、以上のような資金繰りが目的で出版点数を過剰にさせているのであるならば、結局は本を選ぶ側にとっては、
「なんじゃそれ?」
となんだか合点がいきません。
選ぶ側は、「まがいもの」「類似本」を見分ける眼を養う必要がありそうです。
ついでにまがいもの書店を見極める眼も。
ただし、まがいもの書店を生み出す環境があることも忘れてはなりません。
つづく....
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
本屋さんが決めた文学賞、
本屋大賞は4月5日発表です。
☆★☆ノミネート10作品★☆★
「袋小路の男」 絲山 秋子
「チルドレン」 伊坂 幸太郎
「家守綺譚」 梨木 香歩
「私が語りはじめた彼は」 三浦 しをん
「そのときは彼によろしく」 市川拓司
「夜のピクニック」 恩田 陸
「犯人に告ぐ」 雫井 脩介
「対岸の彼女」 角田光代
「明日の記憶」 荻原 浩
「黄金旅風」 飯嶋 和一
***無事見つかったようです***
「ウカブ2ばんめ」さんのこちらの記事をクリックして下さい。
管理人様のご親戚の娘さんが
3月16日から行方がわからず、
さまざまな機関を通じ、捜しておられましたが、
どうやら戻ってこられたとの情報が入りました。
詳しくはクリックしてください。
ご協力ありがとうございました。
この堂々と訪問しようとしないこしゃくな考え自体はまったく問題ではあるのですが、第一の目的は、似たり寄ったりの書店なのか、それとも斬新な書店なのかを確認するためです。こっそりとお邪魔するというのは、なにかしらのあら探しをしようという試みのあらわれです。
春休みということもあり、おそらくは学生であろう方達の訪れに大変な商売繁盛を思わせる騒々しいレジカウンター。
「なかなかやるじゃないか。」
とひとりごちながらよくよく彼らが手にする書物を確認すると、
「オーシャンズ11」
「ロードオブザリング」
「サザンオールスターズ」
書物など誰も持っていないじゃないか。
それらは音楽CD、DVDのオンパレードなのです。そう、併設しているレンタルモノの格安期間の真っ最中なのであります。
店内に入る人々のほとんどは入り口から見て右側のレンタルコーナーしか視野に入らない近視眼的な状況。一方の左側を占める本のコーナーには無視を決め込みます。
僕の目的である本のコーナーは、この場で元ジャニーズ系ローラースケート軍団のごとく滑ろうが、客船の2等室のように寝転ぼうが、決して人の迷惑にはならないほどに、閑散とした雰囲気。実際、子供たちが店内鬼ごっこなる遊びをしてくれていたことがせめてもの救い。なんともいえない居心地の悪さは彼らの振る舞いによって気休め程度に解消されたものの、
「書店」という名を使ったレンタルショップがまた一つ産声をあげたという第一印象でありました。
名は体を表すということわざはこの店舗においては死語なのでしょうか。
そんじょそこいらの「延命書店」の棚のモノマネを彷彿させるそれには
ガッカリ。
新しくOPENしたお店というものは、時代を読み、先取りする意味を含め、個人的に大変重要視しており、なんらかの特別な仕掛けに期待しすぎた僕に落ち度があったのか、逆に書店の衰退をまざまざと見せつけられたという結果と同時にどうやら新たな立地を求めての
スクラップ&ビルド的な開店はいささか残念でありました。
お客に最も密接な書店のあり様がこれなのですから、いかにこの業界が病弱であることが想像できます。
前回は委託販売制を責任販売制へとシフトすることと、同時に
値引き販売があってもいいことをちょろっと出しましたが、とりわけ問題にした委託販売制に関する「功」の部分は、本を買う側にとっては
立ち読みが可能であることを利点のひとつと考え、書店にとっては
読書が普及した最大のポイントであることに異論はないかと思います。
しかし、貢献してきたはずの委託販売制は、メーカー側(出版社)にとっては、ある程度のリスクを伴います。責任販売制であれば、商品を小売店に売った時点で、なるべく早くその代金は支払われます。(業界、企業規模の大小によって多少のバラツキはある。)
一方、委託販売制ならば、委託販売期間後に小売店で売れた商品に見合った代金が支払われるのが一般的です。
出版業界においては、よく名前の聞かれる出版社はほとんどが委託販売制と思っていただいて結構ですが、出版業界ではこの制度のことを
「返品条件付販売」とも呼んでいます。書店側の都合のよい解釈ならば、
「一応、一定期間、販売を委託するけれど、売れないのなら返品も許可する。」
というものです。この制度のもとでは、書店は責任販売制ではなく一定期間商品を店頭に陳列し、契約期間終了後の売れた分に対して請求される委託販売制にもかかわらず、「返品条件付販売」という上記太字の解釈により、書店側の都合による返品を容認する一方で、すぐに仕入れた分を請求されます。
もちろん返品したぶんを相殺した請求書です。ここでいう「返品条件付販売」は新刊書籍のジャンルが対象です。雑誌や在庫補充のための注文品については別の機会にお話します。
さて、書店と出版社というものは、両者が本の仕入れ等について話し合うことはありますが、例えば出版社Aの本を書店が仕入れたところで、書店が出版社Aに直接代金を支払っているのではありません。
ほとんどは、中間業者である問屋が代金の回収・支払いの役割をします。
このことを前提として、以下のようなことが起きているとの業界間での噂が絶えません。書店・中小出版関係者の話や、小林一博著「出版大崩壊」などでも述べているのですが、出版点数激増の理由のひとつと考えられますので、記します。なお、3~4年前に耳にした話ですので、これが過去の出来事であることを期待します。正直、支払いの方法は自由であって当然構わないのですが、問題は、支払方法の理由であると考えます。
とても世間に名の知れた出版社Aがあるとします。
出版社Aはある日、新刊として「はやく人間になりたい」という本を1万冊販売します。ここでの販売方法は返品期限付販売です。出版社のほとんどは問屋に本を出荷して、問屋から売れた本の代金を手に入れます。ところが、1万冊分の代金を手にするのは発売から6ヶ月が過ぎてからという業界ルールというものがあります。
この本の問屋への販売価格を1000円とすると、
期間が過ぎるたあと、1000万円を手にすることができます。
ところが、ここがクセモノなのですが、返品期限付販売という妙なルールがあるために、
「はやく人間になりたい」が売れない場合は全国の書店が8000冊、問屋を通じて返品すると仮定します。ならば、8000冊×1000冊 =800万円
の代金を問屋は出版社Aに請求するのですが、この請求については、6ヶ月が過ぎてからといったルールはなく、ただちに行われます。
これじゃあ出版社Aは1000万円を受け取るより前に
800万円の請求に応じるはめになり、冗談ではありません。
そこで、問屋は
「仕方がないなぁ。じゃあ、おたくとは長い付き合いだから、1000万円を6ヶ月先じゃあなく、もっと早く入金してあげる。そしてこれから出すおたくの新刊についてははやく入金するから。」
などと、愛の手を出版社Aに差し伸べます。
とりあえず助けてもらった出版社Aは予想以上早い時期に
1000万円 - 800万円 = 200万円を手に入れます。
このおいしい支払い条件を思う存分に生かすべく、さらに
「いつか人間になりたい」
「どうしても人間になりたい」
をそれぞれ1万冊ずつ販売します。問屋への販売額は2つとも1000円。
1万冊 × 1000円 × 2点 = 2000万円を原則の期間より早めに問屋から受け取ります。ただし、2000万円すべてをまとめて受け取っているのか、そうでないのかは各出版社により違いがあるのかもしれません。
出版社Aは、同時に返品により、問屋からの請求を恐れます。
(実際は販売額から返品額を差し引いた額を支払う、あるいは手にする)
多大な返品により、資金繰りが悪くなる前に、出版社Aは新たに
「もう妖怪でもいい」
という新刊を出版、販売することで、苦しい台所事情をなんとかやりくりします。
こうして、資金を調達するために新刊は次から次へと発行され、これらが積もり積もった結果が、出版点数の激増です。
上記のような場合は、中小・地方の出版社や新規参入出版社にはまずないと考えられます。それらが新刊書籍を発売しても、その代金を手にするのは6ヶ月が過ぎたあとです。
また、いくつかの出版社は、それぞれがある期間を境に妙に出版点数の増えている場合があります。それらに遭遇すると、ついつい資金が苦しいのではないかとうがった見方をしてしまいます。もちろん前向きに出版点数を増加している出版社もあります。まあ機会があれば、数えてみてください。
さて、出版業界の研究をされている
「とある宮城大学生の卒論」というブログをここにご紹介します。
大学生だからこそ、業界経験者より客観的に出版界について述べることができ、さらには有識者などとの意見交換などもされています。本記事に照らし合わせるならば、
2月23日記事をお勧めします。
*以上は新刊の書籍に関する支払いルールの原則です。雑誌や古い書籍に関しては異なります。
1年間の出版点数が3~4万点だった昔が、今では
7万点にのぼります。
その一方で、1点あたりの刷数は減少傾向にあります。
出版点数が増えるのは、選ぶ側にとっては非常にすばらしいことなのですが、
「まがいもの」「類似本」
も多く、以上のような資金繰りが目的で出版点数を過剰にさせているのであるならば、結局は本を選ぶ側にとっては、
「なんじゃそれ?」
となんだか合点がいきません。
選ぶ側は、「まがいもの」「類似本」を見分ける眼を養う必要がありそうです。
ついでにまがいもの書店を見極める眼も。
ただし、まがいもの書店を生み出す環境があることも忘れてはなりません。
つづく....
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
本屋さんが決めた文学賞、
本屋大賞は4月5日発表です。
☆★☆ノミネート10作品★☆★
「袋小路の男」 絲山 秋子
「チルドレン」 伊坂 幸太郎
「家守綺譚」 梨木 香歩
「私が語りはじめた彼は」 三浦 しをん
「そのときは彼によろしく」 市川拓司
「夜のピクニック」 恩田 陸
「犯人に告ぐ」 雫井 脩介
「対岸の彼女」 角田光代
「明日の記憶」 荻原 浩
「黄金旅風」 飯嶋 和一
***無事見つかったようです***
「ウカブ2ばんめ」さんのこちらの記事をクリックして下さい。
管理人様のご親戚の娘さんが
3月16日から行方がわからず、
さまざまな機関を通じ、捜しておられましたが、
どうやら戻ってこられたとの情報が入りました。
詳しくはクリックしてください。
ご協力ありがとうございました。