世間では女性の社会進出も盛んになり、新聞等を拝読する限りは男性社会に揉まれながらも
個性や知性、積極性を存分に出し、大きな仕事も任せられているという記事を見かけます。 
しかし、自分の働き場をくまなく見渡す限り、なかなか紙面も鵜呑みにできないものでして、
まったく縁の遠い話のようです。これは会社の伝統なのか、はたまた経営陣や上司の考え方なのか
はわかりませんが、数においては男性が断然多く、それなりの地位も男ばかりで、
僅かばかりの女性陣の居心地の悪さがひしひしと伝わります。

旅行の仕事などをかつてはしておりましたが、そこではアルバイトも含めると逆に女性が7割を占め、
それはそれで男性の僕にとっては少々ぎこちなく思いました。
それらは、学生時代から男女が同数のクラスに馴染んだ影響もあるのでしょう。大人の社会でも
一部署につき、数においてはまんべんなく散りばめられた方が精神的に楽ではないのかと感じます、
とまあ、どれほど社会にいても学生時代の楽しさはついつい思い出すわけでして、
現状に満足していないことがバレバレな管理人というわけです。
とは言え、女性にはまだまだ門戸が開かれるのはもう少し先になるのかと考えもするのですが、
95年アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀ペイパーバック賞受賞者
リザ・スコットラインさんの作品は、会社で悩める女性にいくらかの
勇気を提供してくれるのではないかと思います。
受賞作品の「最後の訴え」は自分にとっては 「逆転弁護」以来、2度目のリザ作品となります。
しかし、発行時期では「最後の訴え」が先であり、読む順番が逆なのですが、2作品に限定すれば、
とにもかくにも
女性の姿を思う存分描き出し、必死で働き、そして闘い、もがき苦しみ、心も体も目一杯使った
リーガルサスペンスであります。
「逆転弁護」は以前、記事にも書いたのでそちらに任せるとして、
本書においては、主人公の法廷弁護士、グレース・ロッシ「私」として展開する一人称小説。
裁判官で主人公のボスでもある男性と恋仲となるのですが、その裁判官が謎の自殺を遂げてしまいます。
そのに立ち向かう主人公の姿が先述の赤字の部分ということです。
また、この物語は謎にむかって奮闘する主人公を描く一方で、
家族を愛する主人公をも描いています。シングルマザーとしての
主人公の仕事家庭の両立とはこういうものなのかと感じるのは、
自分が男性であることが大いにあるのかもしれません。だからこそ、女性の本書への捉え方は
僕のそれとは全く想像のつかない別なものになるのではという興味を抱かせます。

著者の作品は、比較すると長編でも長い部類に入るでしょう。その理由のひとつは、
人の動作や、風景・物の描かれ方のひとつひとつが
非常に緻密に、時にはそこまでこだわるかというぐらい、さらには
ユーモア満載の表現で読み手を引き込みます。この点においては、著者はもちろんのこと、
翻訳を担当された
高瀬素子さんの存在を見過ごすわけにはいかないでしょう。
翻訳者にも、感謝です。

ユーモア満載の表現に照らし合わせて、ちょっとしたエピソードを。
最近になってようやく通勤電車での読書もできるようになった管理人。
2月末の車内でのこと、混雑を承知で身動きのとれない中、本書文中にて次のような一節に遭遇。


 
「....いささかしゃれにならないくらい近くに立っている.....」
 

満員の精神的にも暑苦しい車内の現状と照らし合わせ、
こらえきれずに一笑
 
それから目的地に到着するまでの

「いささかしゃれにならないくらい近くに立っている」
他の乗客の冷淡な視線の対象にさらされた管理人の四面楚歌ぶりは

「いささかしゃれにならないくらい居心地の悪い境遇」でした。(汗。) 
著者: リザ スコットライン, Lisa Ssottoline, 高瀬 素子  
タイトル: 最後の訴え 
 
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本屋さんが決めた文学賞、
本屋大賞4月5日発表です。

☆★☆ノミネート10作品★☆★

「袋小路の男」 絲山 秋子

「チルドレン」 伊坂 幸太郎

「家守綺譚」 梨木 香歩

「私が語りはじめた彼は」  三浦 しをん

「そのときは彼によろしく」 市川拓司

「夜のピクニック」 恩田 陸

「犯人に告ぐ」 雫井 脩介

「対岸の彼女」 角田光代

「明日の記憶」 荻原 浩

「黄金旅風」 飯嶋 和一