著者: 福井 晴敏
タイトル: 亡国のイージス 上 講談社文庫 ふ 59-2







・イラクへの自衛隊派遣
・憲法第9条問題
・集団的自衛権
・北朝鮮の脅威
・アメリカ軍基地問題

昨今、国内にくすぶっている軍事・防衛問題が毎日のように報道され、有識者を交えての議論・討論番組もさかんに見られるようになりました。
また、中国・韓国とのホンネとタテマエからなる微妙な関係。
特に先日のサミットにおける靖国参拝禁止の再三の要求、日本域内への潜水艦による侵犯問題の一方で、高度経済成長の恩恵を存分に受けている中国との関係は、
手段を間違えると深刻な溝を生む可能性もあります。

皮肉なことに
実際問題で起きている状況を映像化することは格好の訴求手段かつ、商業的には
絶好のビジネスチャンスともなります。

そしてその波が、今、福井晴敏氏の作品にきています。
「終戦のローレライ」「亡国のイージス」
が来年それぞれ映画化され、公開の運びとなりました。

「亡国のイージス」

は、著者の日本の防衛に対するアメリカの右にならえの姿勢、そして今の自衛隊のあり方はこのままでいいのかといった不信感を背景に、その気持ちを小説風に
仕上げた力のこもった長篇です。

海上自衛隊のミサイル護衛艦「いそかぜ」に同乗した宮津艦長、
仙石先任伍長、如月一等海士の3人が物語の中心人物。その3人のバックボーンが、序章に触れられますが、この部分がまさに想像を絶するストーリーへの布石の第一手です。それが、「いそかぜ」の暴走につながり、そして日本への反逆といった驚愕の展開を生み出します。そこに北朝鮮の工作員が加わることで、現実に引き戻されそうにもなります。また、「いそかぜ」の日本への叛乱に
現行憲法ゆえの緊急な決断への政府の対応の遅さや、机上での議論や外交的駆け引き、責任のなすりあいなど、なんとももどかしさを感じる部分もあります。
まさに
「事件は会議室でおきてるんじゃない。現場でおきてるんだ!!」
といった心境です。

人間は過去を振り返らず、常に前進あるのみ
とは時々使われる正論ではありますが、
人間は過去があってこそ、今があり、そして未来につながる
もまたしかり。

後者の言葉が、この物語には欠かせません。


軍事や戦艦に関する用語の連発に、難読を思わせて多少気が引ける嫌いを残しつつも、真の狙いは人間同士の微妙な心情の変化や感情のぶつかりあいにあり、その中で日本の防衛問題をうまくからませたバランス感覚のうまさも
楽しみの1つです。

しいていえば、この物語、「いそかぜ」の日本叛乱が7月31日なのです。
だからどうしたって?
この日は、僕のバースデー。誕生日をミサイルや魚雷で祝ってでもくれているのでしょうか??