雑誌業界には浮き沈みの激しい不安定さがツキモノです。
なにしろ毎年50以上もの雑誌が休刊・廃刊となると同時に創刊されるわけですから。これに出版不況が後押しするなら、将来はさらに休廃刊が進むと予測されます。
おまけに雑誌の売上げに貢献してきた団塊世代といわれる方々の定年が間近に迫っていることに、出版関係者は非常に不安な思いをしていると聞きます。

雑誌では文芸誌が赤字常連誌として堂々と君臨していますが、オピニョン誌といわれる類も書店への入荷のわりには売れ残りの目立つジャンルです。
雑誌「文藝春秋」はオピニョン誌の象徴的な雑誌。発行部数も知名度も他誌の追随を許しませんが、それでも世界の有事や芥川賞受賞作発表時期でなければ、なかなか売り切ることは困難です。
しかしながら、今月発売した同誌の1月号はまさに
ひと月早いお年玉。


新年ということで新たな連載小説が始まりましたが、その作家名にビックリ。
なんと、山崎豊子様ではありませぬか!
1924年生まれで御歳80歳を迎えられ、二次情報では体調がすぐれずに入院もされているとのことでしたので、大変な驚きでした。
著者いわく
「国家権力と闘った新聞記者の悲劇を静かな怒りをこめて書いていきます。」

とは、嵐の前の静けさとでも言いましょうか、現代風に言えば
びみょうなお言葉に「行間を読む」など恐れ多いながらも、そこには新作にかける意気込みが感じられます。

そのタイトル「運命の人」のあらすじはというと
毎朝新聞政治部外務省詰めキャップの弓成亮太が主人公の社会派小説。時代は昭和46年5月、沖縄返還問題に揺れる当時の日本社会をモチーフに、新聞記者の主人公の奮闘を内面からも外面からも描き出す渾身の大作!!

と断言したいところですが、なにせ連載小説。ストーリーは神のみぞ、いや、
山崎豊子様のみぞ知りうること。予測以外のなにものでもありません。ただ、当該連載の最終ページには
「事実を取材し、小説として再構築したもの」
との一節が添えています。
おそらくは、昭和46年から数年間にかけて、著者は綿密な取材を重ね、
何十年も加筆・修正をして文章を寝かせながら、期を待っていたのでしょう。
そう思える理由に
文中にある外務省、駐米大使、沖縄などの語彙があります。現在の日本が抱える自衛隊や日米地位協定を重点とした日米関係のあり方と重ね合わせることができ、日本政府に対するある種の不信感を主人公を通して
「静かな怒り」
というものを最も得意分野である文筆という手段で表現していくということなのでしょうか。いやはや、大変なお年玉であります。
そして、「文藝春秋」誌にとっても、売上げ部数UPという点では
大変なお年玉ではないでしょうか。