『声に出して読みたい日本語』でおなじみの齋藤氏の著作の頻度は中谷彰宏氏と甲乙つけがたい横綱級ですが、そんな著者の【読書力】が発行されたのは2002年9月。出版業界の底の見えない不況もあってか、少々怒りも交えた読書指南といった印象。近年本を読まなくなった若者に対し、現在の自身の立場があるのも若い頃からの読書があったからであるとエピソードと経験則をうまく織り込みながら警告を促すと同時に、日本の将来をも案じている不安が文中に散りばめられています。

著者のエピソードで興味深かったのが、高校時代の地理の授業で先生が三学期をすべて読書の時間に充ててくれたことで、それが大人の読書への境界線だったと語っていた点です。

自分の大人の読書の境界線を思い浮かべると、同じく高校時代ではありますが、市に新しい図書館が誕生し、その知的空間に並べてある膨大な書籍の数々を目のあたりにしたことがきっかけでありました。残念なことに当時は受験生でしたので、蔵書とのかかわりは最小限に押さえられ、ひたすら勉強のために通いました。図書館側としては不愉快な常連と思ったのではないでしょうか。

また、著者は読書力の基準として4年間で文庫100冊新書50冊を読むことと定義し、特に新書に関しては知識体系への入り口として非常に重要視しています。数年前の新書ブームもあって毎月各出版社からさまざまなジャンルの書が手軽にお安く手に入る、かつ要点をつかむ練習にはもってこいとこれば、旬な話題が売りの新書ではあるものの、中規模書店では文庫ほど重宝がられていない点が少し気がかりなのは僕だけでしょうか。