先日、とある舞台で公演後にトークを実施することが発表された。
 
ブロードウェイの舞台関係者をお招きして
役者さんとトークを行うという。
舞台だけでなく、トークまで楽しめるなんて、
なんてラッキーなんだ!!🙌
と思うところだろう。
 
しかし私は、トークの内容が聞こえない。
今のままでは何も分からず、しょんぼりと
劇場を後にすることになる。
主催者には既に鑑賞中のサポートを依頼して、
台本タブレットを導入頂いていたが、
トークにも情報保障を依頼した。
 
依頼する際は、これらの情報を
メールに書いて送った。
 
・必要な情報保障の内容
・通訳の依頼先
・おおよその費用(通訳依頼先のホームページに書いてあった)
・対応方法
・会場では電波を遮断しているため音声認識アプリが使えないこと
 
 
待つこと数週間。
 
お返事を頂くまで気が詰まるような気持ちで、
SNSでは舞台の話題で大変盛り上がっていたが、
なかなか見る気になれなかった。
 
その後、
無事に、通訳費用、通訳派遣依頼などを主催者側で対応されることになり、やっと舞台のSNSを楽しい気持ちで見ることが出来るようになった。
 
この舞台はプロデューサーさんが、理解のある方だった。
また、主催はマスコミ系の大企業である。
そういった事情もあって無事にご対応いただいたが、正直なところ舞台トークの情報保障について要望をする際は(対応する側も)それなりに注意を払う必要があると思う。
 
理由は複数ある。
 
1つめに、主催者が費用を負担して情報保障を用意できるか、
また通訳の依頼先を知っているか。
 

今回のアフタートークは15分ほどだったので、
通訳者は一名で派遣費用も数千円程度。
依頼先は私から提案した。

時間がもっと長くなれば、通訳の人数も増える。
それでも数万円程度なので、大きな舞台であれば必要経費として予算に組み込んで欲しいところだ。

小劇場の場合は、登壇者がUDトークを使い、制作が修正をしていたりすることもある。
これなら対外的な費用はかからない。

こちらの舞台↓だったが、話者の前にスマホを置いて喋っていた。修正はスムーズだったし、音声認識に興味のある聴者もUDトークを使って字幕を見ていた。
 
 
2つめに、
通訳ができるスペースがあるか、
もしくは通訳できそうな場所まで移動できるか。
 
要約筆記や手話通訳は、通訳者が現場に来て当事者の近くで通訳をすることも多い。
しかし自席の周りは既に、他の観客がチケットを買っていることもある。
私が観に行った舞台も既に満席であった。
劇場の座席表を確認したところ、近くにスペースがあったので移動することを提案した。
 
 席を移動する必要がない対応方法もある。
・音声認識アプリを使って、スマホ端末などに字幕を配信する
・舞台上のスクリーンに文字を投影する
・通訳が舞台上に立つ
等。
ただし、主催者側の理解、事前の入念な準備や打ち合わせが必要だ。
かなり広い会場の場合は、舞台上に手話通訳がいても後ろの席では手話が見えにくいため、前方の見やすい位置にサポート席を設ける必要もある。
 
ロームシアター京都で実施された
『芸能の在る処 〜伝統芸能入門講座 宝塚歌劇編』講座では、ヒアリングループと舞台上の要約筆記があったそうだ。
木ノ下歌舞伎の主宰者がツイートされていた。

 

劇場としても誰もが参加できる場づくりを進めておられるのだと思う。

 
 
3つめは、通訳者のスキル。
できれば、舞台、文化芸術関係に対応できる通訳者を依頼することが望ましい。
 
今回のトークは、舞台上に日英通訳者がいた。通訳者ならだれでもいい、というわけにはいかないだろう。
日本語を文字や手話にする通訳もそれと同じことである。
 
 
4つめは、
登壇者側の情報保障への理解。

 

私が観た舞台では、日英通訳者の声がとても小さく、物凄い早口だった。

人による通訳を頼んで良かったと心底ホッとしたものだ。

もしここで音声認識アプリを使う場合は、事前に“今日は音声認識を使うので、ハキハキと話して下さい“と、登壇者に依頼する必要がある。


つまり登壇者側の理解も必要なのだ。

 

また過去に、とある作品を観に行ったところ、お笑い芸人2人のトークに、

音声認識アプリを使った文字通訳(+修正)と手話通訳があった。
バリアフリーを冠にしたイベントだったので、
参加者としては聞こえなくても内容を理解できると思って観に行った。
 
しかし、芸人は非常に早口で、方言など独特の話し方をしていたため、音声認識アプリは全く認識できず、修正も歯が立たず。
手話通訳も苦戦していて、参加者も通訳者も、何とも言えない時間を過ごすことになった。
 
もし登壇者と通訳で事前の打ち合わせができて、原稿が事前に準備されていれば、文字通訳はそれを使って準備をすることができただろう。
また登壇者も文字通訳や手話通訳が自分の話についていけているか意識して話すことが出来たかもしれない。
 
 
まだ他にもあると思うが、以上の4点が舞台トークへの情報保障の際に、特に注意する必要があると感じるところである。
 
 
 
ブロードウェイの舞台制作者と役者さんのトークは「日本に来て何を食べましたか」という微笑ましい質問もあれば、舞台の内容に踏み込んだお話もあり、
役者さんの人柄や、舞台制作者の苦労などに触れて、よりこの作品が好きになった。
 
何よりも楽しく充実した気持ちで劇場を後にすることができたのは、
舞台に鑑賞サポートがあり、トークに通訳がいたおかげである。
 

 
障害者差別解消法という法律の中に「合理的配慮」という言葉がある。
 
合理的配慮とは、何らかの障害がある人から障害を解消してほしいという要望があった際に過重な負担のない範囲で対応することである。

過重な負担があり、対応ができない場合はその理由を伝えること、代案などを話し合うことが求められている。
 
東京都や大阪府は条例があり、事業者も既に合理的配慮が義務となっている。
2024年4月からは、全国の事業者も合理的配慮が義務となる。
私がトークに情報保障をつけるということも、一つの合理的配慮である。
これからも合理的配慮に対応される場が増えていくことを願っている。

 

 



 また、依頼先や問い合わせ方法がわからない方は、相談ができる窓口もある。 



声を上げていけば、要望を伝えていけば、世界は少しずつ変わっていく、のだと思う。