夫は天ぷらが好きだった


駅ビルにある

私たちがお気に入りの天ぷら屋さんに

時々ふたりで出かけた


カウンターに並んで座り

まずはビール

ふたりでビール一本を分け合う


注文はいつもコースで

一品ずつ目の前で揚げてくれる


シメのご飯は

あなたはいつも白ごはん

私はラストのかき揚げをご飯にのせた

ミニかき揚げ丼にするのが好きだった


夫婦で別行動をした休みの日

あなたに

「帰りにあそこの天ぷらを食べてきたよ」

なんて言われると


私の口もあの天ぷらを求めてしまい

めちゃくちゃ食べたくなる

(ひとりで食べてずるいーっという

やきもち?的な思いだ泣き笑い


だからあの天ぷらを食べるまでは

私も行きたい〜と私が言うので

後日一緒にまた行くことになる

(夫は好きなので付き合ってくれる)



夫が体調を崩す少し前に

同じようなことがあった

夫が「あそこに寄って食べてきたよ」と



え〜、私も食べたい〜ひらめきというところで

時はコロナ禍に突入悲しい


外出は制限され

出かけることも激減し

外食もしなくなった


そして夫の体調は急激に悪くなり

一緒に行くことも叶わないまま

旅立ってしまった



夫亡き後、駅ビルの再開発で

お店は取り壊されたと聞いた



そっか


もうひとりでもあの味は

食べられないのね悲しい



あまりにもお気に入りだったので

あなたがお店を連れて行ったのだろうか



だったら今も

あのカウンターに腰を掛けて

好物の天ぷらを食べているのかな



な〜んて想像してみた


そしたら

カウンターに腰掛けたあなたが

振り向いてにっこり笑いながら



「うんと長生きして

おばあちゃんになったら

その時はここに来いよ

となりの席は空けて待っているから」



と言った

(妄想のなかで)



目がうるんで

じわっと涙が溢れる



「うん、いつかそちらに行くから

その時まで隣の席はリザーブしてね


また一緒にあの味を食べようね!」


そう夫に伝えた




また、いつか一緒に・・・



この約束を

大切に覚えておこう


そう思った


そんな

眠れない

まだ暗い朝です

(4時半だあ)