夫が彼方へと旅立ってから

もうすぐ丸二年になる。


夫が逝った約1ヶ月後に

私は一人で引っ越しをした。


ふたり暮らした家を出て

ふたり暮らした町を出た。


引っ越し先は

距離的には離れていない。

となり町くらいの距離。


でもふたり暮らしたあの町には

もう、ほとんど行かない。


昨日、

用事があって久しぶりに訪れた。


やっぱりあの町は

夫との思い出ばかりが募る。


夫が亡くなってすぐに離れたので

新しい生活の記憶が更新されないまま

夫との記憶が保管されている町。


スーパーも

コンビニも

駅も

駐輪場も

お蕎麦屋さんも

居酒屋さんもラーメン屋さんも、


どこを見ても

夫の姿が浮かぶ。


歩く姿、

ただいま!って手をあげる姿。

目の前に座る姿。

買い物する姿。

スーパーのカートを引いて

「どこ?」って私を探す姿。

どこにでも夫がいる。


もうすぐ三年目になるなんて

少しも感じないくらい瑞々しい記憶。


私の名前を呼ぶ声。

その呼び方。

手を繋いた時のぬくもり。

手の感触。

指のふれ合う感覚。

指先の温度。


どうしてあの手を離したんだろう。

どうしてあの手は離れたんだろう。


離したくないと

握りしめていたのに

繋ぎ止めていたかったのに


だんだんと冷たくなっていって

だんだんと固くなっていくから

もうそれ以上はだめなんだよ、って

拒絶されてしまったみたいだった。


だから。。。


命は儚い。

人生は夢みたいだ。


あなたの人生は

瞬く間に閉じてしまった。 


私をひとり残したままで。


不自由になった身体で

最期の瞬間まで

精一杯に生きてくれたあなたを思うと

いつも涙が溢れてくる。


「誰に遠慮がいるのか。

堂々と『愛している』と言い合おう。」

別れが近づくあの頃

あなたは私にそう言った。


愛している

愛している

愛している


いくら口にしても

伝えきれない想い。


いつもは照れ屋のあなたは


私が「好き?」と聞いても

「うん」としか言わなくて


「愛してるわ」と言うと

「ありがとう」って答えていた。


「私の片思い?」って笑って聞くと

「いや、好きだよ。」って。


そんな会話をよくしたね。


これからの時期も

たくさん思い出して

たくさん泣くと思う。


そしてひとしきり泣いた後は

たくさんの感謝と

たくさんの愛を

彼方へのあなたに送ろう。


今も私はあなたを

「愛しているよ」って。


またあなたは照れて

「ありがとう」って言うのかな。