機嫌よく酔っ払った斗真が、何人かを誘って2件目へ繰り出そうとしている。
「先輩も行きましょうよ~」
「生田、お前足元アブネーぞ。
俺は明日も朝から忙しいからいかねーよ。
ほれ、解散!解散!」
「ええ~~。さくらいせんぱ~い」
「もう、生田くん酔っ払いすぎだって~きゃはは」
櫻井先輩は、きっちりけじめをつけるタイプの方だから、自ら「解散」といったらその後だらだらといつまでもしないし、流されて「しょーがない、じゃあ行くか!」という人でもない。
・・・先輩は行かないんだ。
じゃあ、自分が行っても仕方がない。帰るか・・・
「じゃあな、斗真。飲みすぎるなよ!」
「じゅんも行かないの~、え~」
いつまでもぶつぶつと言われているが、こういう時はとっとと帰るに限る。
俺は、最寄りの駅へと歩きだした。
「まつもと!」
歩き出してしばらくしたところで声がかかる。
「!先輩?」
振り向くと櫻井先輩だ。
「え?///あ、先輩も駅、コッチですか?」
追いかけてきてくれた?!と一瞬心が躍ったが、ソンナワケ、ナイデスヨネ。
「や。あの。
・・・ね、もう一杯、飲まない?」
あの日と同じバーの、あの日と同じカウンター席で、二人並んで座っている。
「今日、2年ぶりくらいに会社いったら、風景もずいぶん変わっていて驚いたよ」
「んふふ。あの辺、最近高いビルが建つようになって。
あ、先輩がよく行ってた喫茶店は今でもそのままですよ」
「あ、見た。
あそこのたまごサンド、懐い~」
「なんすか、ナツイって」
わはははと笑う先輩の横で、カクテルを一口飲む。
「松本、変わってなかった・・・
違うな、ますます綺麗になったな」
「え、」
先輩の声に左隣を見ると、先輩と目があった。
「うん、綺麗になった」
あの時の、触れた唇の記憶が蘇る。
・・・そっと回された腕の中、相手の首元にすがるように自分の両腕を回した。
ぎゅぅ・・・・と音がしそうなくらい、つよくつよく抱きしめた。