半年ほど前、自分の人生でも指折りの辛い出来事がありました。

来る日も来る日も、後悔と反省の日々。
食事も摂れなくて、やるべきことすら手に付かなくて、日々を越えていくだけで精一杯。

「これが前厄ってもんさ」と、シニカルにやり過ごそうと毎日試みたけれど、行き着いた先は、日常生活もままならない、壊れた自分でした。

心を病んでしまったことを認めるしかなくて、そんな弱い自分を恥じつつ、生まれて初めてカウンセリングのお世話になったりしました。

カウンセラーいただいた言葉を杖にして、ヨロヨロと歩き続ける。
それでも地球は回っていて、いつしか前厄を過ぎ、本厄を迎えました。

傷跡に苛まれたり、苛まれていないふりをしたりしながら、ひとまず僕は明日、ハレの日を迎えます。

本厄となってまだ4ヶ月余り。
まだまだ試練が待ち受けているかもしれない。
それでもまずは明日からの二日間、精一杯自分の務めを全うしてやろう。

ここからなんだ。
無事に合格の通知を受け、運転免許証試験場での手続きについて説明を受ける。
受け取った書類を出しさえすれば、晴れて大型自動二輪免許取得となる。

どうせなら一秒でも早く手に入れたい。
受付時間は午前が12時まで、午後は12時45分から15時まで。
教習所を出た時間が11時、試験場までは35km…午前の受付に間に合うか!?

走りに走って受付終了10分前に滑り込んだ(←こんなんばっか)

証紙を買って用紙に必要事項を記入、窓口に提出して視力検査…クリア。
「おめでとうございます」の言葉を受けて、待合所へ。

写真撮影まで45分ほど待機。
その間に髪と身なりを整える。

写真撮影室に入ると、老若男女が50名ほど。
全員二輪免許らしい。
てことは隣の華奢な女の子も!?

バイクブームから四半世紀が過ぎて、街を走るバイクの台も大幅に減った。
だけどまだ、バイクに乗ろうとする人たちはこんなにもいるんだ…それが少し嬉しい。

ほどなくして新しい免許証を受け取った。
去年の12月に運転中のケータイ使用で御用となったため、ゴールド免許とはおさらば。
それでも新たに加わった「大自二」の三文字が嬉しい。

大型二輪への挑戦は、二ヶ月の間ほとんど人に話すこと無く進めていた、言わば自分の中での「極秘プロジェクト」
いち早く知らせたい人がいる。
驚く顔が見たい。

そんなことを考えながらクルマを走らせた。

最後の教習から10日以上経っての受験となった。

操縦には自信あるし、コースも覚えた…けど、いざコースに出たら頭真っ白になりそうで怖い。
あとは確認動作のし忘れでつまらない減点をしないこと。
とにかく頭の中で何度もコースを反芻しながら、久しぶりの教習所へ。

受付を済ませて試験控室へ入ると、四輪受験者に混じってヘルメットを抱えたオジサマ(50歳くらい)が。
今回受検するのは僕とこのオジサマの二名のようだ。

ほどなくして試験官がやってきて、二輪の僕達は別室へ。

試験の概要と注意事項、そしてアドバイスを受ける。
だけど、あまりたくさん説明されると、かえって混乱して失敗するのは教習で実証済みなのでので、申し訳ないけど後半は聞き流してた。

しかし聞き逃せないことが一つ。
「コースを間違えても減点にはなりません。正しい手順で元のコースに復帰してもらえばOKです」
なんだよそれを早く言ってくれ。

コースへ移動。
僕が一番手。
プロテクターを着けてヘルメットを被る。
Dリングにストラップを通し、気合を込めて締める。
視線の先にはNC750L・139号車。
歩み寄り、その白くてファットなタンクの脇に立つ。
無線機から流れた「では始めて下さい」の声で完全に腹をくくった。

周囲の安全確認をして跨り、ミラーを調整…真っ先に注意受けたのがミラー調整し忘れだったなあ。
日常では絶対行わないような、煩雑な「手順」…というかほとんど「作法」
それらをきちんとこなしていざ発進!

試験コースは「Bコース」
急制動へ行かずに、まず波状路へ向かうコース…大丈夫、体が覚えてる(気がする)!

波状路…ちょっと勢いつき過ぎてリズムが良くなかった…落ち着こう!

波状路の後はABコース共通の「エスイチフミクラ」!

S字…なんてことない、むしろ出口周辺、他のクルマが来てないかに意識を!

一本橋…落ちなきゃいい!ここで欲出しても意味が無い、普通でいい!…よし、クリア!

踏切…日常の悪癖を出すな、停止線の手前で止まる!

クランク…前回エンストしたな、回転は気持ち高めで!

クランクを出たらBコースだから急制動だ!…ああっ!バカ!そこは左折だから左車線!
…焦るな、コース間違えは減点じゃない、落ち着け…落ち着け!

急制動…止めることは問題ないはず、停めた後に前ブレーキから手が離れる悪癖を封印!

スラローム…20年前、運転免許試験場で「一発試験」受けた時は、パイロンに引っ掛けて試験終了だった…上手くいかなくとも確実に越えよう!タイムなんかどうでもええわ!

坂道発進…ここも停止線だけ注意すればいい!小回りで左折して、右に合図出して車線変更…そして停止!

最後のターンを終えて発着点に停車。
二ヶ月間世話になったNC750Lを停め、充分に後方確認をしてバイクを降りた。

万感の思いとか、そういうのは無かった。

「まあこれなら大丈夫だろう」とだけ思った。

すぐに二番手・オジサマの試験が始まった。
プロテクターを脱ぎながら様子を見守る。

オジサマ、いきなりコース間違えたよ…。
後方確認、だいぶし忘れてる…。
一本橋ギリギリ越えたけど、あと1m長かったら脱輪じゃね!?足ついちゃってるし…。

「この内容じゃあちとキツいだろうなあ…」

自分のことは棚に上げて、オジサマの心配をしつつ校舎へ戻る。


30分程待機した後、無事合格の通達。
合格の喜びよりも、オジサマがあの内容で合格という驚きが上回った。

正直…補習受けさせろと思った。

なにはともあれ、これで二ヶ月間の教習所通いも終わった。

当初の目標であるストレート合格は達成した。

今となってはそんなことどうでもいい。

開放されただけでも満足だ。


これまで培ってきた自信をぺしゃんこにされた二ヶ月間。

思うように時間が取れなかったり、仕事疲れに加えて炎天下の教習で、体力的にきつかったりと、苦しかった二ヶ月間。
そして、得るものも多い、そんな二ヶ月間だった。


ちなみにこの二ヶ月間、教習所では教官としか会話せず。。

しかも口にした言葉はほぼ全て、

「はい」

「よろしくお願いします」

「ありがとうございました」

の3ワードのみ。


教習所で友達ができるというのは都市伝説だろう。