年金の請求手続きは、単に書類を提出すれば終わり、というものではありません。
ご本人の状況を丁寧に確認していく中で、当初予定していなかった別の年金請求につながることがあります。
※本事例は、個人が特定されないよう、一部の情報を変更・簡略化しています。
以前、ある方から「特別支給の老齢厚生年金」の裁定請求手続きのご依頼を受けたことがありました。
その方は、特別支給の老齢厚生年金を受給できる年代で、長年会社に勤務し、厚生年金に加入されていました。
通常であれば、受給開始の時期に合わせて老齢厚生年金の裁定請求を進めていくことになります。
ところが、請求手続きを進める時期になった頃、一時ご本人と連絡が取れなくなりました。
手続きの時期でもあり、私も心配していました。
その後、ようやくお会いすることができました。
そこでお話を伺うと、その頃、心臓の人工弁を装着する手術を受けていたことが分かりました。
心臓に人工弁を装着した場合、障害厚生年金3級に該当する可能性があります。
また、初診日から1年6か月以内に人工弁を装着した場合には、原則として、その装着日が障害認定日となります。
そのため、私は老齢厚生年金の請求だけでなく、障害厚生年金の請求についてもお話ししました。
すると、その方からさらに別のお話がありました。
以前から精神疾患、具体的にはうつ病で通院を続けており、仕事にも支障が出ているとのことでした。
その結果、次の3つの請求を同時に進めることになりました。
・老齢厚生年金
・心臓人工弁による障害厚生年金
・精神疾患による障害厚生年金
複数の障害がある場合、それぞれの障害を個別に確認するとともに、障害の内容や発生した時期、程度などによっては、「併合認定」や「加重認定」など、複数の障害をあわせて障害の程度を認定する仕組みが適用される場合があります。
ただし、複数の傷病があるからといって、必ず年金額が増えたり、障害等級が上がったりするわけではありません。
初診日、障害認定日、加入していた年金制度、診断書の内容、現在の障害の状態などを、それぞれ確認する必要があります。
今回も、心臓人工弁の障害だけで判断するのではなく、以前から通院していた精神疾患についても確認し、それぞれの請求可能性を整理して進めることになりました。
一見すると、とても複雑で難しい手続きに見えます。
確かに、書類の量はかなり多くなりました。
老齢年金の書類、障害年金の診断書、病歴・就労状況等申立書、初診日や通院状況に関する資料など、確認すべき内容も多岐にわたります。
ただ、手続きそのものは、一つ一つ整理して進めれば対応できます。
大切なのは、最初から「難しそうだから無理」と考えないことです。
今回の手続きでは、年金事務所の窓口担当者にも大変丁寧に対応していただきました。
通常の老齢年金の窓口対応ではなく、障害年金に詳しい職員の方が対応してくださり、必要書類や確認事項についても整理しながら進めることができました。
最終的に、老齢年金と障害年金について、それぞれ受給権が認められました。
そのうえで、年金の併給調整のルールに基づき、ご本人にとって有利となる年金を選択して受給する形になりました。
年金の相談では、最初に依頼された手続きだけを見ていると、重要な請求を見落としてしまうことがあります。
今回も、当初は老齢厚生年金の請求依頼でした。
しかし、ご本人の近況を確認したことで、心臓人工弁による障害年金の可能性が分かりました。
さらに、以前からの精神疾患についても確認でき、障害年金の同時請求につながりました。
年金請求では、加入期間や年齢だけでなく、現在の健康状態、過去の傷病歴、通院状況、仕事への影響などを丁寧に確認することが大切です。
特に障害年金は、ご本人が制度の対象になることに気づいていない場合もあります。
「自分は働いているから無理だろう」
「障害者手帳を持っていないから関係ないだろう」
「老齢年金の請求だけでよいだろう」
そう考えている方も少なくありません。
しかし、実際には状況を確認してみないと分からないことがあります。
年金の手続きは、書類を作るだけの作業ではありません。
ご本人の生活やこれまでの経過を伺い、どの制度に該当する可能性があるのかを確認していく作業でもあります。
今回の事例は、老齢年金の請求相談が、障害年金の請求にもつながったケースでした。
一つ一つ丁寧に確認することの大切さを、改めて感じました。
井草社会保険労務士事務所HP:https://www.igusa-sr-office.com/