先日、顧問先から次のような相談を受けました。

 

「今度、年俸制を導入することにしました。年俸制にすれば、時間外手当は支払わなくてよいのですよね」

 

年俸制という言葉には、「成果によって給与が決まり、残業代は支給されない」というイメージがあるようです。

 

しかし、日本で年俸制を導入しただけでは、残業代の支払義務はなくなりません。

 

年俸制とは、基本的には1年間に支払う賃金額をあらかじめ決め、その金額を毎月などに分けて支払う賃金制度です。

 

残業代の有無を決める制度ではありません。

 

今回は、日本で年俸制を導入する場合の、残業代や固定残業代の取扱いについて説明します。

 

 

年俸制でも残業代は必要です

 

日本では、賃金の決め方が月給制、日給制、時給制、年俸制のいずれであっても、労働基準法が適用されます。

 

原則として、1日8時間または1週40時間を超えて働かせた場合には、時間外労働に対する割増賃金を支払わなければなりません。

 

厚生労働省も、年俸制を導入した場合であっても、実際の労働時間が法定労働時間を超えれば、原則として割増賃金を支払う必要があると明記しています。

 

年俸制であることを理由に、残業代の支払いを免れることはできません。

 

割増率は、原則として次のとおりです。

 

・時間外労働:25%以上

・法定休日労働:35%以上

・深夜労働:25%以上

・1か月60時間を超える時間外労働:50%以上

 

つまり、

 

年俸制=残業代なし ではありません。

 

 

年俸の中に残業代を含めることはできるのか

 

年俸額の中に、あらかじめ一定時間分の残業代を含める方法はあります。

 

いわゆる固定残業代です。

 

ただし、「年俸500万円には残業代を含む」と記載するだけでは、適正な固定残業代とはいえません。

 

少なくとも、次の内容を明確にしておく必要があります。

 

・通常の労働時間に対する賃金部分

・固定残業代の金額

・固定残業代が何時間分の時間外労働に相当するか

・設定した時間数を超えた場合には、超過分を追加で支払うこと

 

例えば、年俸480万円のうち、通常の労働時間に対する賃金部分と、月30時間分の固定残業代に相当する部分を明確に区分します。

 

この場合、固定残業代の金額は、通常の賃金から1時間当たりの賃金額を計算し、法律で定められた割増率と固定残業時間数を基に算出します。

 

ただし、固定残業代として設定した金額が、実際の時間外労働について法律上支払うべき割増賃金額を下回った場合には、その差額を支払わなければなりません。

 

年俸制を採用しても、毎月の時間外労働時間を確認し、固定残業代で不足する月には追加精算する必要があります。

 

 

年俸を賞与月に分けて払う場合にも注意が必要です

 

年俸制では、年間の賃金を12分割して毎月支払う方法のほか、14分割や16分割などにして、一部を夏季・冬季の賞与時期に支払う方法があります。

 

ここで注意したいのは、年俸額としてあらかじめ支給額が確定している場合です。

 

名称を「賞与」としていても、支給額が業績などによって後から決まる通常の賞与ではなく、あらかじめ確定した年俸の一部を支払時期だけ分けて支給する場合があります。

 

そのため、厚生労働省は、年俸額の一部を賞与月に支払う場合、その部分も含めた確定年俸額を、割増賃金の算定基礎とする必要があるとの考え方を示しています。

 

年俸制を導入する際には、単に年間金額を決めるだけでなく、割増賃金の計算方法まで確認しておかなければなりません。

 

 

年俸制は労働時間管理を不要にする制度ではありません

 

年俸制は、年間の賃金額を決める制度です。

 

年俸制を導入しても、原則として労働時間を把握し、必要な残業代を計算して支払わなければなりません。

 

また、年俸制と固定残業代、管理監督者、裁量労働制は、それぞれ別の制度です。

 

年俸制を導入しただけで、従業員が管理監督者になるわけでも、裁量労働制が適用されるわけでもありません。

 

「年俸制にすれば残業代を支払わなくてよい」という考え方で制度を導入すると、後から未払い残業代の問題が生じる可能性があります。

 

まずは、年俸額の内訳、労働時間の把握方法、固定残業代を含める場合の時間数、超過分の精算方法を明確にすることが重要です。

 

次回は、米国や欧州の給与制度と日本の年俸制の違いについて説明します。

 

 

参考資料

 

 

・厚生労働省「確かめよう労働条件」