記事入力 : 2014/09/06 11:43
【コラム】リトルリーグ世界一と韓国人の遺伝子

 韓国人の身体には間違いなく「一騎当千」の遺伝子が存在する。その遺伝子の能力は、一見圧倒的に不利な状況のときに一層発揮される。先日のリトルリーグ・ワールドシリーズで優勝した韓国代表を通じてその事実をあらためて確認した。この夏に映画『鳴梁(ミョンリャン)』を見た時も同じように感じた。
 今大会の準決勝で韓国に敗れた日本には、全国におよそ2000のリトルリーグ・チームがあるが、韓国には158チームしかない。野球の底辺だけを見ると、韓国代表が勝つのは難しい状況だった。ところが韓国代表は日本を破り、その次は日本の10倍、つまり2万のチームを擁する米国にも勝った。スポーツと戦争を単純に比較することはできないが、今大会で韓国代表は映画『鳴梁』で描かれた海戦以上の偉大な結果を残した。わずか12隻の船で133隻の倭軍を破った鳴梁海戦は、1対11で戦って勝った大勝利だった。リトルリーグの決勝ではチーム数で158対2万という圧倒的に不利な状況で勝ったのだが、これは1対126に相当する戦いだったのだ。
 この勝利を可能にした秘訣(ひけつ)は何か。忠武公・李舜臣(イ・スンシン)将軍は敗北を恐れる兵士たちに「必ず死のうと思えば生きるし、生きようと思えば死ぬだろう」と言い、まずは精神面で武装するよう強く命じた。これは「必死則生 必生則死」という言葉で表現できるが、この言葉だけでは勝利を呼び起こす呪文にはなり得ない。忠武公は部下たちを死地に追いやりながら、口で良いことばかり言うような無責任な将軍ではなかった。忠武公は「一字陣」と呼ばれる陣形を敷き、その上で艦砲射撃の必殺技で戦いに臨み、敵を鳴梁の狭い海におびき寄せたのだ。</strong>
 リトルリーグ韓国代表は日本戦と米国戦に「必死則生 必生則死」という覚悟ではなく「心から楽しむ」という姿勢で臨んだ。仲間が本塁打を放てば、チーム全員が駆け寄ってウサイン・ボルトの「ライトニング・ボルト」のポーズを取った。ある選手は優勝の感想を聞かれた際「勝ち負けとは関係なく楽しんでやる」と戦いの秘訣を語ってくれた。最高に楽しむために全力を出すことは、朝鮮水軍が鳴梁で勝つためにあらん限りの力を発揮したのと何ら違いがない。しかも忠武公が必勝の戦略を思い描いたように、韓国選手たちも日本や米国のチームと何度も交流試合を行いながら、本大会に向けて徹底した準備に取り組んだ。もし今回、韓国選手たちに「精神力で体力の劣勢を跳ね返せ」などと注文し、何の対策もなく試合に臨ませていれば、優勝など到底おぼつかなかっただろう。
 歴史を振り返っても、精神力を強調し過ぎて判断を誤り、悲劇を招いたことがよくあった。日本がかつて太平洋戦争で「1億人の日本人全員が玉砕を覚悟して戦力の劣勢を跳ね返せば、米国に勝つことができる」として国民を欺いたのがその典型例だ。慶応大学の片山杜秀教授は著書『未完のファシズム―「持たざる国」日本の運命』の中で、玉砕について「全滅を美化する一種の狂気であり、旧時代的な精神主義」と説明し、歪曲(わいきょく)された精神力の礼賛に警鐘を鳴らした。
 われわれの体内に流れる遺伝子には、精神力ばかりをやたら前面に出す無謀で愚かなものはない。「必死則生」の覚悟を持つときも、また楽しみながら試合に臨むときも、大切なことは合理的な判断と徹底した準備だ。その価値をあらためて知らしめてくれたという点で、今回の優勝は一層価値あるものといえるだろう。

金泰勲(キム・テフン)ニューメディア室次長
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版