安全後進国:韓国の至る所にある「もう一つのセウォル号」
【特集】安全後進国

今すぐ安全システムを改善しなければ、大規模な人災は続く
年間7000人が人災で死亡、毎日危険にさらされる社会
経済成長ばかり追求し安全は二の次
国家の基盤施設崩壊は全く考慮せず
鉄道車両の窓、規則を無視し17年間普通のガラスを使用

 旅客船「セウォル号」沈没事故が起こる前、多くの人々がそれぞれの持ち場で、偶然かつ致命的な過ちを一つか二つずつ犯してきた。そしてその一人一人が犯した大小のミスが積み重なった結果、大きな災難がもたらされた。
 しかし、これは果たしてセウォル号だけの問題だろうか。セウォル号沈没事故が現在進行形である今このときも、韓国社会のあちこちに「もう一つのセウォル号」が幾らでもある。
 消防防災庁の管理室の勤務日誌を見ると、セウォル号が沈没する前日(4月15日)、全国で144件の火災が発生した。また、救急隊の出動件数は721件で、それによって生命の危機から逃れられた人は190人に達した。セウォル号の事故が起こった後も、この数字はほとんど変わらない。セウォル号が沈没した日やその翌日はもとより、チョン・ホンウォン首相が辞意を表明したとの知らせが伝えられた28日にも、事件や事故の件数は減ってはいない。さして大きくない国土のある場所で大惨事が発生し、人々の慟哭(どうこく)が響く一方で、別の場所では大なり小なりの事件・事故が繰り返されているというわけだ。
 「実際のところ、あらゆる分野に安全上の問題がある。経済成長ばかり追求する一方、安全性の確保をおろそかにした結果、それが積み重なり、何もかもがめちゃくちゃな『安全後進国』になってしまった」(ソウル科学技術大学安全工学科のキム・チャンオ教授)

■人にぶつかっても70メートル走り続けたトラック

 4月27日午後7時20分ごろ、昌原地裁居昌支部のキム・ホンボム所長が、光州市から126キロの地点の高速道路上で交通事故に遭い、即死した。
 キム所長を乗せた乗用車が大雨のためスリップし、ガードレールにぶつかって止まったのが災いの元だった。車の中にいた人たちが降りる前に、後ろを走っていた25トンのダンプトラックがぶつかり、70メートルも引きずって走行した。キム所長のほか、同乗していた海印寺(慶尚南道陜川郡)のソンアン師と、車の運転手も死亡した。
 翌28日午後2時、シャンプーやリンスが山のように積まれていた大田市内のアモーレ・パシフィック社の物流倉庫(広さ1万8082平方メートル)で火災が発生した。消防官322人が消防車53台に分乗して現場に出動したほか、山林庁の消防ヘリコプター3機が空から消火活動を行った。それでも火は秒速5メートル前後の強風にあおられて燃え続け、倉庫内部の約4分の1(4400平方メートル)を焼いてようやく鎮火した。倉庫にあったシャンプーやリンスは、それ自体に引火性はないが、容器はプラスチックでできている。出火から鎮火までの4時間の間、化学物質が燃えることで生じた黒い煙が立ち上り続けた。
 さらに大きな会社でも同じような事態が起こった。4月20日、サムスン・グループの金融機関のデータを集めているサムスンSDSの果川センター(京畿道果川市)で火災が発生し、マンションを20-30棟建てられるほどの空間(2700平方メートル)を焼き尽くして、7時間後に鎮火した。一般の消費者が利用するサービスは1週間後に復旧したが、内部のシステムは現在も修理中だ。21日には蔚山市の現代重工業の液化石油ガス(LPG)運搬船建造現場で火災が発生し、2人が死亡した。

■年間7000人が人災で死亡

 消防防災庁の実務者たちは「現場に出動した経験からいえば、何者かが故意に引き起こした事件や事故は極めてまれだ」と話した。韓国でそのような人災によって死亡する人は年間7000人前後だ。
 必ずしも、大きな過ちによって大惨事が引き起こされるとは限らない。今年2月、京畿道烏山市で、走行中の釜山行き急行ムグンファ号に、大人のこぶしほどの大きさの石が当たり、ガラス窓が割れる事故が発生した。鋭いガラスの破片が客室の中央にまで飛び散り、乗客5人がけがを負い、近くの病院に搬送された。事故の原因を調べた国土交通部(省に相当)の関係者は「人が負傷したことよりも、列車の窓にいまだに普通のガラスが使われていたという事実に驚いた」と話した。政府は乗客の安全を守るため、鉄道車両には全て強化ガラスを使用するよう、1997年に関連規則を改正した。ところが、それから17年もの間、規則を無視し、普通のガラスを使った車両をそのまま走らせ続けてきたというわけだ。
 この列車だけが普通のガラスを使っていたわけではない。国会国土交通委員会の李老根(イ・ノグン)議員が調べたところ、現在運行中の特急セマウル号の車両257両のうち214両(83%)、ムグンファ号の車両896両のうち470両(52%)が、強化ガラスではなく普通のガラスを使用していた。
 政府はようやく、韓国鉄道公社(KORAIL)に対策を講じるよう指示したが、鉄道公社は「予算が足りず、時間もかかる」との理由で、今年7月までに684両のうち426両に保護フィルムを貼るという中途半端な措置で済ませた。ある鉄道専門家は「人が負傷する事故が発生しなければ、セマウル号やムグンファ号の車両が17年もの間、普通のガラスを使い続けていたという事実が発覚しなかったということがもっと恐ろしい。『安全不感症』にかかった鉄道公社も問題だが、規則を作るだけで点検をしなかった政府も言語道断だ」と語った。国土交通部は列車の安全点検に関する大部分の項目を鉄道公社に丸投げしていた。交通安全公団の関係者は「はっきり言って、選手が審判まで兼ねているようなものだ」と指摘した。

■危険な施設もあちこちに

 このような事故が、国家の基盤施設で発生したらどうなるだろうか。延世大学社会環境システム工学部のチョ・ウォンチョル教授は「ダムや道路、港湾など、国家の基盤施設が最も心配だ。自然に崩壊する可能性も、テロによって崩壊する可能性もあるが、韓国社会にはそのようなことが起こり得るという認識自体がない」と指摘した。統合進歩党の李石基(イ・ソッキ)議員が率いる地下革命組織「RO」の構成員らは「石油備蓄施設や鉄道、通信施設など、国家の基幹施設に対する打撃が最も重要だ」として、京畿道平沢市の石油備蓄施設や、ソウル市鍾路区恵化洞と京畿道城南市盆唐区の電話局を破壊することなどを謀議したことが明らかになったが、「その計画が現実のものとなった場合、どのような事態になるか」ということを深く考えた人はほとんどいなかった。
 公州大学建設環境工学部のチョン・サンマン教授は「化学物質による事故も後を絶たない。事故が発生した後も『なぜこのようなことが起こったのか』と深く考察するのではなく、適当に片付けてしまう。なぜこれほどまでに鈍感なのか分からない」と指摘した。韓国では1996年に麗川工業団地(全羅南道)で発生した環境汚染や、2012年に慶尚北道亀尾市で発生したフッ化水素酸(フッ酸)流出事故など、化学物質の流出事故が珍しくない。

■住宅街もカラオケボックスも…

 嘉泉大学都市計画科のホ・オク教授は「全国の修練院(青年の家・少年自然の家に相当)の大部分で、火災を予防する設備や避難路が整っていない。青少年や若者たちが多く利用するカラオケボックスやインターネットカフェ、ビアホールなども、依然として火災に弱い」と指摘した。セウォル号沈没事故の現場で救助要員の指揮に当たった海軍の幹部は「当初、この事件がこれほどまでに大規模化するとは、誰もが予想できなかった」と語った。しかし、あらゆる事件・事故の中で、大規模化することを予想できるケースは極めてまれだ。

金秀恵(キム・スヘ)記者 , 崔鍾錫(チェ・ジョンソク)記者 , キム・ジョンファン記者
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版