松文館裁判を再度考察する(4) | オタクフラクタル次元

松文館裁判を再度考察する(4)

2つの命題さえクリアすれば「わいせつ」ではあるが、成年にまで販売を禁止することは出来ないことが解りました。


それが


・風俗あるいは秩序に対して長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題



・日常生活の質の向上、社会の品格の維持、わいせつ物の未成年者からの隔離などの国民的利益に対しても長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題


です。

前回は「風俗あるいは~」という命題に対して証拠を示し、蓋然性など無いという結論に至りました。

ですので今回は「日常生活の質の~」という蓋然性命題に対してその有無を調べてみます。




日常生活の質の向上、社会の品格の維持、わいせつ物の未成年者からの隔離などの国民的利益に対しても長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題


まずは赤文字に対して調べてみましょう。

エロ本があることで、日常生活の質は向上したか?

エロ本があることで、社会の品格の維持は保たれているか? ということです。


これは額面通りいとらえると、何をもって質が向上したか、品格が維持された判断して良いか全くわからないです。

それこそエロ本を持っている人に対して「その本のおかげでオナニーライフは向上しましたか?」というアンケートをしなければいけないほど、客観的に判断し難い。

さらに深く考えると、エロ本の売り上げによって経済が良くなり結果日常生活の質の向上に繋がるという意味もあります。

また、品格という文言の抽象さ。

goo辞書によれば


その物から感じられるおごそかさ。品位。

【品位で再検索】

(1)見る人が自然に尊敬したくなるような気高さ、おごそかさ。品。

【おごそかで再検索】

いかめしく、近づきにくいさま。威儀正しく威厳があるさま。

【いかめしいで再検索】

(1)近よりにくい感じを与えるほど立派で威厳がある。
「―・い顔つきの将軍」「―・い門がまえ」
(2)厳重である。物々しい。きびしい。
「―・い警戒」
(3)激しい。猛烈だ。
「波いと―・しう立ち来て/源氏(須磨)」
(4)盛んである。盛大だ。すばらしい。

であって、他の辞書でも似たり寄ったりです。

その中で社会の品格と問われると、社会がどう思っているのかということになり、社会とは集合体なのでその通念は流動します。

つまり、社会の品格=社会通念という認識だと思います。

するとどうでしょう。ここでやっと社会通念によって判断するということに繋がりました。


少し話が逸れますが、エロ本のわいせつ性を問う際に社会通念を盛り込むことは正しくもあり、また正しくないのです。

現行ではわいせつ判断を受けると、成年・未成年を問わず販売できず事実上の発禁となります。

しかし、過去の判例では未成年に売ることの是非を社会通念に求める、ないしは判断基準としています(それが命題2)。

つまり、社会通念にはわいせつ性の判断と、成年に頒布発売することの両面があり、一緒くたにしてはいけないわけです。



もう一度四畳半襖の下張事件の最高裁判決文 [13]を書きます。


現時点ではこれらのかなり広く信じられている命題と刑法175条の規定とが合理的関連性を有しないものと断ずるわけにはいかず、それゆえ刑法175条は憲法21条に反するとはいえないものであり、この種文書の入手を欲する成人に頒布販売することを刑法175条により規制しても、これまた憲法21条に反するものではない。


命題とは例の2つのことです。これが合理的関連性を有するかどうかわからないけど、広く民衆に(社会通念として存在を)信じられているから、わいせつ物頒布という刑法は違憲でなく合憲。

成年・未成年問わず販売を禁止ということです。




ここを履き違えてはならない!

松文館裁判では検察官側証人の時もずっと、何度も何度も「青少年に見せられる内容ですか?」という質問をしている。

検察証人尋問 その1

検察証人尋問 その2

検察証人尋問 その3

検察証人尋問 その4

検察証人尋問 その6


成年・未成年問わないはずの「わいせつ」を青少年と限定して、青少年には見せられない=悪影響というミスリードばかりしています。これが最低でなくて何が最低か。



―話は戻りますが、全体としてのわいせつ性と、成年市場に限定した際の二面性のある社会通念が社会の品格とするならば、当然二つの社会通念の流動を調べないといけないわけです。

1.全体としての社会通念

2.成年に限った社会通念


これに関してもやはり無視できないのが「ネットの普及」です。

goo辞書の言葉を借りますと、品格=品位=いかめしいですので、

それを性に当てますと近よりにくい感じを与えるほど立派で威厳があるが最適ではないでしょうか?

立派で威厳があるかどうか知りませんが、性行為非公然が原則の日本では「近寄り難い」というのは共感が得られると思います。

ネット普及以前の四畳半襖の下張事件の昭和55年ならば近寄り難いのは解ります。

ですが現在はどうでしょう? 


内閣府の第5回情報化社会と青少年に関する意識調査について(pdf)


では標本数が合計して1万ながらも、インターネット利用率が

小学生 → 58,3

中学生 → 68,7

高校生 → 74,5


といずれも半数を超えています。

また暴力的、性的、反社会的な内容を含むサイトにはアクセスしないようにしていると答えた青少年は

小学生 → 30,0

中学生 → 43,4

高校生 → 40,7


ですが、フィルタリングソフトで実際にブロックしているかどうかは、どれも3%未満です。


よって、ごくごくシンプルに概算してみますと、サンプル数1万に対して

小学生 → 25,3

中学生 → 22,3

高校生 → 30,8


約1/4が暴力的、性的、反社会的な内容を含むサイトにアクセスしている計算になります。

ポイントは性に対する知識が著しく乏しいであろう小学生でも1/4がアクセスしているという点です。

言わずもがなネット社会は無修正を始めとする過激な内容が、探せば無料で、無条件で観られます。


子供もかなりオープンな性的表現を見られることからかつてのように「近寄り難い」という社会通念はもはや無く、およそ性的なことに関して品格や品位といったものは望めないのではないでしょうか?


よって結論は、社会の品位はネットの普及に従い流動、結果霧散している。


すなわち

「日常生活の質の向上、社会の品格の維持」に対して私は


日常生活の質の向上はそれこそアンケートするしかないと思われるので、述べられない。

ネット社会の現在、維持するべき過去の社会の品格というものは霧散しているので削除すべし。


とします。



日常生活の質の向上、社会の品格の維持わいせつ物の未成年者からの隔離などの国民的利益に対しても長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題


次は赤文字の箇所を調べます。

これは意訳しますと「成年市場限定で販売した際の国民的利益」ということです。


国民的利益の範疇が広いのですが、役に立つ、ためになるという意味の概念的利益は成年市場限定となると、意味として成さないので、経済・犯罪という数値に表せる実質的な国民の利益のことだと思います。


よって、国民的利益を「犯罪」と「経済」に定義します。


犯罪に関しては幾度となく説明しており、隔離しようとしないと、成年でも未成年でも統計上因果関係がないと証明されておりますので省略します。



問題は経済です。

エロ本が成年社会に流通することによって、国民的利益という老若男女問わず社会全体の利益に繋がるか否か。

しかし経済に関しては、どのような状況になれば社会に貢献しているのか私は全然わかりません。

ですので、私は成年コミックの売り上げを他の物と比較して感想を述べるに止まるしかないのですが、ある程度の指標は示せると思います。



総務省情報通信政策研究所 コミック誌販売金額の推移 (pdf)



上の画像を観ていただくと、青年コミック市場は概算して最盛期の1995年で823億円です。

※概算方法 = 青年・レディースコミック市場/2


しかしこのグラフには疑問がありまして、成年ではなく青年としていながら何歳かわからないということです。

少年法では少年が20歳未満ですし、青年は広義に30代も含みます。

レディースも婦人を意味しますし、境界線が曖昧なんですよね。

文中には青年・成人向けへと多様化~と意識して使っているので、思春期の青年という意味が強いのかもしれませんので実はエロ本のデータを取るには不適切かもしれません。


ですので、以下よりかなりの推測を含む確実ではない話として見てください、


―以下かなりの推測を含むエロ本の経済的利益




最大823億円、最低594億円。その間で常に売り上げていたエロ本ですが、その500億円以上1000億以下という売上高は、一体どれほど凄いのか、もしくは頼りない数値なのか比較検証してみます。



任天堂が業績見通しを上方修正 (純利益が1000億)

・iモードコンテンツは既に1000億円市場~夏野氏

今やホワイトデー市場は1000億円にまで成長したと言われています



中でも注目したいのがホワイトデー市場でしょうか。

成年コミック市場と同じく特定の性を対象とし、価格帯が近く、広く国民に知られているという共通点が多いのです。

そんなホワイトデー市場が1000億で騒がれるのであれば、それに近い数字を出すエロ本業界も大したものではないでしょうか?

日本経済を良くするためには、皆がお金を使う必要があると聴きますが、その説で言えば日本の経済に結構なお金を流通させていると思います。

宝くじの売上高


人気を誇る「ロト6」が発売計画額1670億円に対し、販売実績が2550億1400万円で、880億1400万円もの増(52.7%)と大きく伸び、ナンバーズも発売計画の1060億円に対して、販売実績が1179億4500万円で、119億4500万円の増(11.3%)。
ミニロトは、発売計画410億円に対し、販売実績が504億3300万円で、94億3300万円の増(23.0%)。
を観ても日本経済に貢献していないわけではありません。


ですので、国民的利益もそこそこ存在するので成年にまで頒布販売不可というのはやりすぎですね。


―ここまでかなりの推測を含むエロ本の経済的利益―



以上のことから最終的な結論を述べますと、

日常生活の質の向上、社会の品格の維持、わいせつ物の未成年者からの隔離などの国民的利益に対しても長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題



「質の向上、経済の面における国民的実質利益はわからないが、社会の維持する品格は現代に無く、またわいせつ物を未成年から隔離することによって起こる有害な影響はない」


よって、長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題は




蓋 然 性 な し!!



経済の面は例え売上高がどれほど低下しようと、国の経済を潤さないという理由で成年市場まで頒布販売を禁止することは、表現の自由という憲法の保護を受けないエロ本であろうと許されることではありません。


次回【松文館裁判のまとめ】