松文館裁判を再度考察する(1) | オタクフラクタル次元

松文館裁判を再度考察する(1)


松文館裁判というものをご存知でしょうか?

初めて成年コミックである「密室」という本が刑法175条


わいせつな文書、図画、その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらを所持した者も、同様とする


という罪を問われて裁判にまで発展した刑事事件です。

この「わいせつ」認定を受けてしまうと、有害図書とは違い事実上の発禁処分になります。

これは私達オタクにとって死活問題と言えます。


正直言って「エロ本がにゃいぃから死んに゛ゃううぅううぅう!!」なんてみさくらなんこつ先生のように狂った人も居るわけですよ。





……私ですがw   2次元至上主義なんでエロ本ないと困る……ゲフンゲフウンッ!


今は松文館裁判を取り上げて意見を言いますが、別に筆者は最初こそ表現の自由は考えていませんでした。

そもそも「わいせつ」の意味すら知らずに、世の中にあるエロ本全部が「わいせつ」だと認識していたくらいです。

しかしこの裁判のやりとりの全てを何度も観る限り、私の思う「わいせつ」と刑法上の「わいせつ」は違うと気付くのです。さらに裁判の流れも異常性を感じられずにはいられない。


では警察は何をもってして「密室」を「わいせつ」と断定したのか?

「わいせつ」とは何なのか? ここがおかしいんじゃないか? ここは正論じゃないか?


そんな筆者が感じた松文館裁判を、裁判が終わって判決が出てしまったが再度考察してみたいと思います。



■事件の発端

それは一枚の投書から始まりました。

自民党議員で警察庁OBの平沢勝栄を経由して警察に届いた一通の手紙 です。

そこで警察が「姫盗人」を捜査。

さらに日付は定かではないが、代々木警察署にも匿名の電話で「密室」という本がわいせつ性が強いという連絡が入る。

―結果として「姫盗人」の中に掲載されていた「密室」が検分を受けるのです。


その検分結果、「わいせつ」という判断が下され家宅捜索→任意取調べ→一斉逮捕というのが一連の流れです。




■検察の指摘した「わいせつ」


警察が2人の有識者と共に「1時間以上半日に満たない」時間をかけて慎重に検分した結果、

以下の画像が黒ベタではなく網掛け40%の状態で検察によって指摘されました。







これを見て普段エロ本を読む人、読まない人はどんな風に感じましたか?
私は「普通」という言葉しか出てこなかったです。

次にアニメ絵より少々リアル傾向が高くて私の好みじゃねぇなーという本当にどうでもいい感想でしたw


しかし普段からエロ本を見る習慣、あるいは過去に数度見たことのあるような人にはこれが「わいせつ」であると思ったらしいです。


では何度も何度も飽きるほど出てきた「わいせつ」って何でしょうか。

この裁判で最も重要な要素となる言葉なので良く考えてみてください。






■「わいせつ」とは

松文館裁判でも過去の判例を用い判決を下した結果が出たので、それを引用しますと






いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、

かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、

善良な性的道義観念に反する


これが法的概念としてのわいせつです。

これに則してわいせつか否かを判断するのですが、みなさんこれがどういうものを指すのか解りましたか?


一体「何」が、あるいは「どういう状況が」徒に性欲を興奮又は刺激させ、

普通人とは何なのか、正常な性的羞恥心とは何か。

善良な性的道義観念とは何なのか?


私は全て理解できませんでした。

法律の定義が曖昧では困ります。はっきり言ってこんな定義だと全てのポルノ商品が摘発対象です。

まだこの裁判の発端となった平沢勝栄氏のわいせつ物の取り締まりについての著書「警察官僚が書いた日本の警察(講談社1999年刊)」


>>「私の警視庁防犯部長時代に、篠山紀信撮影の樋口可南子のヘア・ヌード写真集が出版され、これが日本におけるヘア論争のきっかけになった。それまでの警察の見解は、【ヘアの露出はわいせつ】というもので……


というほうがしっくり来ます。というよりこれが定義じゃないでしょうか。

しかし定義とは何か? 定義とは普遍であるのかと言えばそうではなく、一概にそうとは言えません。

ですが、法律というものは定義が曖昧だと無意味になる場合があるのです。

「物事の本質をとらえるための思考が曖昧」ということは本質をとらえていないと同じですよね。

そんなレベルで刑を言い渡されるなんて法治国家にあって無法です。


ですので、何が「わいせつ」かを問う時に何かしらの明確な基準が存在しなければなりません。


先ほど法的概念としてのわいせつが「徒に性欲を~」と書きましたが、本来、事実として社会通念に照らして性的に逸脱した状態のことを言うのですが、これも困難です。


どちらにしても明確ではないですよね。


法的概念としても社会通念としても、例えば乳首を露出しているから「わいせつ」だと断言できないからです。


これは漫画、絵という表現で乳首が描かれていても、人によって感じ方がそれこそ万に分かれるからです。

ある人は性的興奮を覚えるかもしれない。ある人はバカバカしいと思うかもしれない。

かつての警察のようにヘアが見えるからわいせつというわけではありません。

このインターネットが普及した時代に何がわいせつであるか。何を基準にするか。

この文を読んでいる貴方は何を基準にするか考えられるでしょうか?



今回はそんな宿題を残して終わりにしたいと思います。

法的概念としても社会通念としても具体的なことを述べていないのに、どういう表現がわいせつに該当するのか。



次回よりこの「わいせつ」を念頭に置いて話が進みます。

よろしければしっかり考えてみてください。