待ちにまった季節の到来




幼い頃から私の手には花が居た


それは決して店頭に並ぶことのない素朴で健気な野辺を彩る草花たちだった


極貧とまでは行かなくとも貧しかった我が家、季節ごとの切り花を買える余裕はなかったし、同級生達のように最新の玩具や素敵な衣服を当たり前に買い与えられる事もなかったけど、それでも私はいつも幸せだった


いつ、どこで、どんな花が咲いてくれるのかを私は知り尽くしてた

登校には花を摘み教室に飾り、下校では花を摘み家を飾った


草木の眠る長い冬、花たちの復活を心待ちしながら、そしてその復活の眩くて香しい姿を想像しながら過ごした


12年前、海に帰依した故郷は私の全ての欲を満たし、私の知りたいことを惜しみなく教え、私の想像力を常に刺激し、寛容で穏やかに私を育んでくれた


季節ごとに咲く野の花を見つける度に故郷と共に在ることを実感する


故郷に咲いてた花と出逢えば故郷が蘇り、故郷には咲いてなかった花と出逢えばその違いからまた故郷を見る


そして今も、美意識となって私の中に故郷が在る

どんなナチュラルガーデンにも、どんなシャンペトルブーケにも、どんな植生的とされるパラレルコンポジションアレンジにも納得出来ないのは私の意識が本物の自然に育まれたからなのだと思う


野の花が咲くと、私の中の幼い私と若く美しかった両親と故郷が鮮やかに甦る


雪に映える藪椿、松林を飾る山桜、御神木に絡みつく大藤、田植えを知らせる山吹、ガマズミ、ニワトコ、一息で天国の扉を開いてくれたハリエンジュやスイカズラ、数え上げたら切りがない愛しい草木たちの全てが私の中に確かに存在し続けてる

皆、ちゃんと私の中に居る


幼い私の思うがままに野の花を摘んで生けさせた

50歳の私はもっとこうしてとかあぁしたいとか思うけど、幼い私はこれで良いんだ

風薫る季節

今年もこの輝きの中で生きることをゆるされてる