多少、前のと重複するが、樹海突破記を書いてみたいと思う。

樹海、これのイメージはどんなものであろうか。
恐らくは、生還不可能、とかではないだろうか。
私も樹海のことは多少は知っていたが、どうにも突破できる気がしていた。完全に何の根拠もないのだが。
持っているものは方位磁針と、若干の食べ物だけ。よく言われる話であるが、遭難の時はチョコが役に立つというが、本当にそうだと思う。旅たつ前に、こういうこともあろうかと、ミルクチョコを買っておいたのだが、それが役にたった。
水なし、食事なしで数時間歩けたのは、チョコのおかげもあると思う。
私はチョコをところどころで休息して食べた。休息するのは大抵、沢の山の部分の苔の上であった。

樹海に入って数分後のことである。地元のご老人にあった。どうも山菜取りに来たらしく、気軽な格好であった。
私はこれで油断したのだ。
「何だ、人家が近いのだな。だったらこの先もいけるだろう。」
そのように思ってしまったのだ。

それから数分後か、1時間も経った頃であろうか、本当に人家どころか、人気(ひとけ)を全く感じなくなっていた。この頃には、正直、無縁仏を覚悟していた。すると、どこかの沢を上がって下りに差し掛かった時、何と、旗が見えるではないか!

「何だ、これで樹海も終わりだ、どっかの人がキャンプファイアーでもしてんのかな?」
などの考えが頭をよぎった。しかし、それは違った。
近づいてみると、旗ではなく、木の枝にかかった人毛みたいではないか。
まさかここで死んだ人の…。
という考えが頭をかすめ、本当に全身に鳥肌が立ち、足がすくんでしまった。




昇天記 (仮 虹色)

イメ ージとするとこんな感じ。



本当にここで終わりだと思った。
だが、終わるわけにもいかず、さらに進むと、人毛ではなく、木の幹に生えたカビ、黒かびのようであった。しかしさすがにあまりにも気持ち悪いので、無視して先を行くことにした。

先を行くのはいいが、いつまでたっても先が変わらない。完全に迷ったのではないか、と何度も思った。
そこで、作戦を変更した。沢を下ることにしたのである。沢とは、水が流れるものであるから、水の流れる方向=どっかの川があるのではないか、川があれば人家があるのではないか、と思ったのである。
しかしこれがとんでもない思い違いであった。
沢には巨岩がいくつも転がり、倒木が幾重にも折り重なり、とても真っ直ぐ進めたものではない。木をよけ、木をくぐるうち、疲労困憊してしまった。
樹海突破には何がなくても体力が必要であるから、これではいけないと思った。
体力を温存しつつ進まれば意味がない。最後になって、いや最後になる前に力尽きることになるだろう、つまりは、骸(むくろ)である。

そこでまた真っ直ぐ進むことにした。沢を幾つも越える。山の部分と谷の部分を何度も越えていく。
このときに、大きく滑落し、金剛杖をなくしてしまった。全く省みる余裕もなく、必死であった。腕と足に怪我をしたが、何をすることもなく進む。靴には大量の砂(火山灰か?)が入っていく。

だが、3時を回った頃であろうか、遠くで砲声がした。この富士の裾野の近くには自衛隊の演習場があるのだ。
「この砲声の方向に行けば、必ず出られる!」
そう思ったのもつかの間、すぐに止まってしまった。頼るのは全くの自分のみ。
さらに、枝を掴み、腐った倒木の幹を踏みしめて先を行く。
すると、巨大な沢が2つもある箇所に来た。何かあるな、そう思っていると、砂防ダムのようなものに出会った。
しめた!出口は近い!
そう思わずにはいられない。だが、もっと近道があるような気がしてさらに進んでいく。
また巨大な沢があるのだが、そこでどう進んだものか思案に暮れていると、ガサ、と音がした。その方向を見ると、

真っ黒い動物がいた。



昇天記 (仮 虹色)


イメージとするとこんな感じ。笑 正直、よく分からなかった。



イノシシかと思ったが、もしかすると熊だったかもしれない。はっきり覚えているのは、人間の大人かそれ以上の大きさで、黒い色をして、目の周囲が白いということだけだ。
2・3分、見つめていたと思うが、どうにも動きそうになく、木の枝を投げつけても逃げる様子もない。あきらめて前進することにした。
腐った倒木の幹を掴んで、上に這い上がっていると、その「動物」はどこかへ去っていった。
その直後である。頭上、斜面の30mほど上のところで白いバンが走るのが見えた。
「やった!ついに樹海を突破したんだ!」
這い上がっていくと、鉄の柵があり、その上は道路のようだ。
それをさらに這い上がって公道に達することができた。
あとで分かったことだが、ここはただの林道であり、地図にも載っているかどうか定かでないところであったが、とにかく樹海からは出ることができた。
最悪の場合は、これを伝えば麓に出られるだろう、ということでほっとした。

その林道を伝っていくと、通行止めの柵があった。
付近には看板があり、ここが林道である旨と、吉田口の5合目に通じていることが書いている。
私はここでまた決断をした。
「吉田口に行こうではないか」と。
ここでは付近の役場の人にあったが、ヒッチハイクをするよりも、自分で歩いた方が思い出にはなると思ったのだ。
そして、いいとしこいた大人が、他人を頼っても登山の意味がないと思ったからである。
この林道、滝沢線というらしいが、これを数時間あるいた後、吉田口5合目に無事ついた。到着して分かったのだが、この滝沢線の最後のどん詰まりの部分で落石があり、全線が不通になっていたのである。

吉田口の5合目からは旧道を行った。車で登山できる以前はここを使っていたそうだ。
今ではほとんど通る人もなく、日没後は真っ暗な中を、ほぼ一人で歩いていった。
数時間ほど歩いて富士吉田市内に入ったわけだが、「疲れた」「何か飲みたい」というのが街の明かりを見た瞬間に思ったことである。

というわけで、次があれば次へ。笑