今日、儚いひとつの恋が終わった…

現に今もこのスマホの文字が涙でかすんでいる。

休みの今日、目覚めから動悸が止まらない…

ヤカンを火にかけたけど、紅茶のありかがわからない…

完全に浮き足立っているのが自分でもわかった。

脱力感に耐えきれず、再び寝床につく。

ウトウトと現実と夢のハザマを行き交い、
ふと、気がつくと、

時計の針は11時を過ぎていた…

やばい!

飛び起きた私は、ネグリジェを無造作に脱ぎ捨て、乱れた髪を振り払うように洗面台の鏡に自分の姿をうつす…

情けないようで、たくましくもある…

秋のコーデに身を包み、既に陽が高くなった雑踏の街に車を走らせた。

すれ違う電車の窓には、楽しそうにスマホを見ながら笑い合う女子高生の姿、
ビルのオフィスでは、たった今大型契約の交渉が成立したであろうサラリーマンがお互いに握手を交わす。

海岸沿いには、妊婦さんが夫と共に散歩をする微笑ましい姿、坂道では女性が紙袋からリンゴを落とし、転がるリンゴを営業マンが拾い、お互いの手が触れた瞬間に恋が芽生えるという瞬間を目撃。

たった20分弱の移動中にこのようないくつものドラマを目撃することになる。

重い足を引きずりながら、30分遅れでカレー屋に到着。

もうこの時点で既に覚悟はできていたのかもしれない。

やはり、彼の姿はない…

ある意味、今日は自分の中のひとつの区切りをつけにきたのかもしれない…

数人の客がいたが、奇跡的にも私とジュンイチの指定席は空のまま。

きっとこれは、店長の、いや神様の粋なはからいかもしれない、と自分の指定席につく。

彼のいない席…

そんな誰もいない席に、熱い眼差しを送る自分…
なんて哀れなんだろう…

スプーンにうつる寂しげな自分の姿…

情けないようで、たくましくもある…

本日のI-POPは、日本で言う「aiko」といったところだろう。

歌詞の意味はわからないが、皮肉にも失恋ソング…

彼は裏切っても、カレーは裏切らない!そんな歌詞だったように聴こえた…

きっとこのTuneは、店長の粋なはからいだろう。

横目で店長を見ると、ウインクしながら親指を立てて、私に合図を送っている。

失恋した時って、すべての思考がマイナスとなり、たわいもない他人の幸せをねたみ、そして憎むような感情に陥る。

道中目撃した、他人の微笑ましい姿さえ、今の私には自分をさげすんでいるようにうつっていた。

でも、この店に来てみたらどうだろう?
確かにさみしいよ、さみしいけど店長も含め、他のお客さん、そしてインドの全く知らない女性歌手までもが、私を見守ってくれているではないか。

私だってもう立派な大人!相手がいて、はじめて恋が成就することなんてわかっているわ。

こんな経験はじめてじゃない。

好きになって信じていた相手に二股をかけられていたこともあった。

行きずりの相手と一夜を共にしたこともあった。
終わったら、とっとと帰れよ!なんてひどい言葉を投げかけられたこともあったわ。

でも、それら全ての経験が今の私を形成しているの。

こんなことで、くじけてなんかいられない!
今は悲しいし、昨日までの私はジュンイチを憎むこともあったわ。消費税を憎んだこともあった。
せめて、私とジュンイチの間にも軽減税率を適用させてほしい!そんな身勝手な願いを近所の神社に祈願しに行ったこともあった。

でもね、ジュンイチ、今は違うの。
10月に入り、あなたが取った私への行動…
今は理解できる。いや、理解しなければならないの。いや、むしろ積極的にそう思うわ。

それが、あなたが私にくれた優しさ。

だからね、私がそれを理解することがあなたへの優しさだと思うの。

もう憎んでなんかいない、恨んでもいない。

そりゃね、ジュンイチとの明るい未来だって想像したわ。

休みの日には2人で手を繋ぎ、カレー屋に行くの。何を食べるかを話し合い、お互いに別々の物を頼んでシェアするの。

せっかちなあなただから、口の横についたカレーを私が指で拭って取ってあげたり、急いで食べるあなただから、誤嚥しそうになると私が慌てて水をすすめるの。
頭の後ろをかきながら、首をかしげ舌をペロッと出しながら、「いっけねぇ〜」なんて笑うあなたの笑顔も想像したわ。

だけど…今となってはそんなことも叶わないまま…

もういくら考えても、前を向いて歩いていけないから、これ以上考えるのはやめておくね。

ただあなたに強がりを言えるとするなら、
もう恋なんてしないなんて、言わないよ絶対!

ひとつだけ願いを叶えて欲しかったとするなら、
「愛してる」その一言が欲しかった。

その響きだけで、強くなれる気がしたの…

私ったら、未練がましいね…

私は私の、あなたはあなたの人生を歩んでいきましょう。

こんな強がりの私、嫌いかな??

でも、わかってね。今の私にはこれが精一杯。
これ以上強がったら、壊れちゃうから…

これからも、私はこのカレー屋に通い続ける。

あなたとの思い出は、今日で封印します。

またどこかで、いやもしこの店で再び出会うようなことがあれば、その時はお互い笑って声をかけ合える、そんな存在でいようね。

だから、私強くなる。
あなたが後悔するくらい強くなるんだから。

その時に、もう一度やり直そう!なんて言われても、聞いてやんないぞ!
今度出会う時は、今の私よりもっともっと大きな私になり、ジュンイチなんかが手を出せない存在になってやるんだから!

昼下がりのカレー屋を出て、車に乗り込み、ひとしきり大きな声で泣いた。
自分が壊れるんじゃないか、というくらい泣いた。
なり振りなんか構っていられない。
行き交う人の群れが、私を冷たくもあたたかい目で見守ってくれている。

どれくらいの時間泣き続けただろう…

気がつけば、ランチタイムも終了し、駐車場に残されたのは私1人…

涙を流すことで、自分の気持ちに整理をつけた。

明日に向かって歩き出そう!

駐車場から西に、いや明日に向かって走り出す…

ブレーキランプを5回点滅させながら…