前回の記事で挙げたように、エンジンマウント、スプロケットアダプタや吸排気系パイプなど、製作関係の大物をおおかた片付け、エンジンの整備の段になりました。

 

以下、列挙の記事となるため、簡潔な記述に努めます。記事を書いている今は以下に挙げる問題がすべて解決した状態です。解決までの道のりの中に、今になってみれば当時気づき得た解決のポイントがいくつかあります。伏線という形でピックアップしておきます。

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腰上を分解清掃し、スペーサー挿入とカムチェン延長(交換)を行い圧縮比を8台に落とし(ターボ化のため)、エンジンと各種補機類を車体にマウントして起動実験を行いました。

二輪のターボ化はこのスワップを計画する以前に、
純正CB125F→ボアアップ→CB210F NATURAL ASPIRATION→CB210F TURBOCHARGEDという順番で形にしてあります。

 

 

結果は成功でした。

エンジンの三要素である圧縮、火花、燃料は問題ないようです。←伏線1

しかし、再始動ができませんでした。エンジンが暖まると再始動できないといった感じでした。←伏線2

 

エンジンの開け締めを繰り返す必要がでてくることを予期し、エンジンをスタンドに載せ、車体のハーネス、燃料系と接続することで簡易的なエンジンベンチとしました。

 

 

ここでバルブを取り外し、カーボンが多くあるためすり合わせを行いました。

 

 

3枚目がすり合わせ後です。かなりのカーボンがありましたが、見た限りでは研磨しきれたように思われます。ここでカーボン噛みはMC41Eの持病であるという情報を得ました。

 

しかし状況は変わらず、暖機後の再始動ができません。←伏線3

この時点での圧縮圧力は900kPaほどで、既定値1,275kPaをかなり下回っていましたが、圧縮比を下げるために燃焼室容積を増やしているという事実もあり、これが再始動不可の原因かどうかは決めかねる状況でした。(圧縮比と圧縮圧力には正の相関があるというのが高田の持論です)

 

ここで灯油を用いて圧縮漏れのテストを行うと、泡が出てきました。圧縮漏れはないわけではなかったようです。

バルブすり合わせだけではバルブ座面の荒れが均しきれず、シートカットが必要かと思い、プロに依頼しました。

 

 

シートカット後のバルブシートです。やはりすり合わせのみのときより綺麗になっていました。

念の為、再度バルブすり合わせを行い、光明丹に類するマーキング塗料で当たり面の確認を行うと、どうにも当たりが均一ではありませんでした。

依頼した内燃機業者さんのマシンの関係か、バルブフェイス研磨が行えるのがバルブステム径5.5mm以上ものからということで、ステム径が4.5mmのMC41Eは該当せず、バルブ側のシート研磨は行っていない状態でした。そのため、バルブシートは均一であるもののバルブフェイスが荒れているのではないかと推測しました。

 

これは全く推奨できた行為ではありませんが、ボール盤に角度調節機能があることを使い、簡易的なバルブフェイスの研磨を行ってみました。

 

 

バルブシートとバルブフェイスの接触面は、バルブシートの3面、32°/45°/60° のうち45°面であるため、ボール盤のバイスを水平から45°傾けて固定し、超硬ビットで研磨をするという要領です。のちにビット側を回す必要がないとわかり、ビットはリューターではなくドリルチャックで掴むことにしました。チャックのほうがバイスで掴みやすく、作業が簡単でした。

 

45°という角度のよいところは、水平から45°でも垂直から45°でも位置が同じであることです。研磨するのが32°面だと、水平から32°は垂直から68°であり、垂直から32°は水平から68°となり、研磨するにあたって考えることが増えます。

 

 

当たり面はだいぶ良好になった気がします。

しかし暖機後の始動性は改善しませんでした。←伏線4

 

少し絶望をします

 

中古エンジンということもあり、各部品の信頼性が低い、というよりか不明なので、「結局いずれ替えるし・・・」ということでバルブ4本を新品に替えることにしました。これを多気筒でやった場合を考えるとまだマシです。

 

 

すり合わせを行ったあとの新バルブの当たり面です。広いような気もしますが、全周が当たっているようです。灯油によるリークテストも、若干の泡は出るものの、シートカット以前に比べるとほぼ無しといえる程度だったのでよしとしました。

 

肝心の暖気後の始動性は、解決しませんでした。

 

かなり絶望をします。

 

(ここまでにピックアップされた伏線から、高田の推測と対処のおかしさが大体わかってきたかと思います)

 

当時の高田は問題の所在は補機類というよりエンジン本体の機械的な部分にあると考えていました。←伏線5

そのため、次に試したのはバルブタイミングの測定でした。

このエンジンはスワップと同時にターボ化も行うため、燃焼室容積を増加させることで圧縮比を低下させてあります。このためにカムチェンが長いものに交換されており、カムの軸とクランクシャフトの軸の間の距離が純正のときから変わっていることから、バルブタイミングのずれを危惧しました。

 

 

カムチェンのガイドプレートがちょうどよいところにあり、ダイヤルゲージのマグネットベースの設置に難儀しませんでした。このためにあるような位置にあり、開発の段においてバルブタイミング調整を念頭に置いてのこの設計なのだとしたらホンダに頭があがりません。

 

バルブタイミングについては、サービスマニュアルの規定値どおりでした。

 

ここが外れるとエンジン本体で疑うべきはピストンリングの気密くらいです。ダイヤルゲージと同じタイミングで買った新品ピストンリングを組み付けるも、圧縮圧力は900kPaのままで、暖機後の再始動もできないままでした。←伏線6

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結果的に圧縮圧力はこの仕様においては900kPaで問題なかったようです。

ここで伏線回収ですが、冷間時はエンジンがかかっています。圧縮圧力が足りなければこの初回の始動もままならないはずです。

エンジンの3要素、つまり先に挙げたエンジン本体の機械的な部分に問題はなく、見るべきはそれ以外の補機類でした。またしても何も知らない 高田 泰さん(24)

 

今後行うはずの消耗部品の交換を先んじて行えたので無駄な費用はかかっていないと思われます。

 

エンジン本体の疑義がある部分すべてに手を加えたこの段階において初めて、始動不良は「暖気後」に限られているということに気づきました。

同時に日を改めながらエンジンベンチでの始動実験を繰り返すうち、あるとき暖気後の再始動ができるケースにでくわしました。
エンジンを観察すると、水温センサがエンジンに取り付けれられていない状態でハーネスに接続してあります。このときはハーネスの接続の労力をケチって水温センサをエンジンに取り付けていなかったのです。このため、ECUは水温(≒エンジン温度)を実際より低く認識していたと思われます。
 
詳しい記述は行いませんが、水温と燃料噴射量(時間)の関係は一般的に、
水温⇔燃料(噴射時間)
水温⇔燃料(噴射時間)
となるようです。これは主に燃料の霧化のしやすさによるものとされているようです。
低温時は霧化しづらいため多めに吹く必要があり、暖気後の高温時には燃料が盛んに霧化するため噴射量は少なくてよいといった具合だそうです。
さらに高温になったときには冷却の観点から噴射量を増やすといった制御もあるそうです。
 
ここで水温がセンサに依らず低いほうに振り切って認識されるよう、信号線に4kΩの固定抵抗を接続してみました。後に水温センサの特性表を添付しますが、大雑把に計算すると水温は5℃くらいとして認識されるはずです。
始動性はたいへんに良好でした。

 

今の場合はECUが温度を正しく認識した場合よりも多く燃料を噴いているということになります。オシロスコープで両方の場合について噴射時間を計測してみましたが、これは正しいと確認できました。

 

ここで不思議なのが、なぜ燃料を多く噴かなければ始動、アイドリングしないのかという点です。まず疑われたのは水温センサの特性ズレ、または欠陥でした。水温センサの抵抗値特性が、実際のエンジン温度より高い出力の方へずれているということです。水温センサのハーネス側に前述の固定抵抗を接続したままにして、水温センサを無効化して運用するという方法もありえますが、これは同時にラジエタファンをも無効化することになり、もとあった冷却機能が使えなくなるという点からありえません。空冷エンジンにおいて油温センサが異常な場合などはこの方法でもなんとかなるかと思われます。

 

冷えゆく熱湯を用いて実験、計測してみました。

 

 

表の各単位はTemperature:℃ / Resistance:kΩ です

測定結果は既定値通りでした。

この結果を踏まえると、正しい温度に基づいた正しい噴射量がこのエンジンには足りていないといえます。

この仮説を検証し、かつ正常な始動性を獲得するためにインジェクタの容量を増加させて始動テストを行います。

まず傍線部の仮説に対する合理的な原因を推測したいところですが、今回の目的は正常な始動性の獲得なので、釈然としませんがここでは我慢して飛ばします。とりあえず、純正と現在の仕様の違いは圧縮比くらいなので、燃焼室容積が怪しいかなというアタリだけはつけてあります。

 

インジェクタ容量の増加ですが、ここまでの一連の流れで使っていたインジェクタは自分の手持ちの中で最も容量が大きいものでした。

 

新しく容量が大きいインジェクタを買うと費用はかさみ時間もかかります。

Arduinoを用いて噴射時間を伸ばして、インジェクタの容量を増加させた場合と実質的に同じ状況を作り出すこともできますが面倒です。純正の補機類に追加で何かを実装することは避けたいです。まして制御プログラムがECUと別軸で追加されるというのは重すぎます。

 

検討の結果、インジェクタを2つ同時に作動させることにしました。デュアルインジェクタというものです。

 

 

気密のためのパテが醜いですがプロトタイプのため気にしません。パテの内側ではしっかり溶接してあります。

 

ハードができたところでインジェクタの組み合わせを考えます。

 

 

現在所持しているインジェクタを組み合わせるとこのような容量が実現できます。

かなり細かくテストできそうです。

具体的な値は検討する前にまず試してみます。

燃料が過多になる分にはエンジンは壊れないので先に試してみたほうが楽だと思います。

(固定抵抗でアイドリングさせたときの噴射時間を記録しておけば噴射量を計算してある程度適正インジェクタ容量のアタリをつけられたかもしれません)

 

デュアルインジェクタ実装の直前のインジェクタ容量は235cc/minでした。ここから段階を踏んで増やしていきます。

310cc/minでアイドリングが落ち着きました。

 

 

純正のセンサ類を残し、最小限の追加実装で問題を解決できたようで安心しました。

正常な始動性を獲得するという点ではこれで解決でよいのですが、燃料噴射量が足りなかった理由が釈然としていません。

 

以下の内容はあくまで高田の推論にすぎず、合理性は欠いていると思われます。前述のとおり燃焼にまつわる部分については、純正との相違点が燃焼室容積のみであるということから、燃料噴射量と燃料噴射量を関連付けて考えてみます。

考えるといっても単純な比例関係を仮定するのみです。

 

 

今回の考察で用いる値は黒地に黄字で表示してあります。

まず純正の燃焼室容積は諸元からの計算によると25.71ccです。...(A)

次に圧縮比調整のために追加したスペーサの厚みです。

t=2.00mmのアルミ板に穴を開けてスペーサとしたため2.00mmを選択したくなりますが、ベースガスケットの分を考える必要があります。

純正ベースガスケットは取り除いたので-0.50mm

スペーサを追加したので+2.00mm

スペーサの上下にそれぞれ0.20mmのガスケットを作って追加したので+2*0.20mm

 

-0.50mm+2.00mm+0.40mm=1.90mm

このときの燃焼室容積: 34.32cc...(B)

 

燃焼室容積はスペーサの追加によって(B/A)=1.33倍になっています。

 

インジェクタ容量も比例して純正のときの1.33倍になるとすると、スペーサ1.90mm追加のあとの容量は

 

(235cc/min)*1.33=313.70cc/min となりました。(四捨五入は計算の最後にのみ行うというルールに則り、1.33は四捨五入前の値を使ってあります)

 

検証結果とほぼ一致する計算結果が出ました。驚きです。内燃機の専門知識は有していないので偶然だとは思いますが・・・。

 

この比例が正しいとすると行程容積約124.90/圧縮比9.30のグロムと行程容積約124.90/圧縮比9.2のCB125Fのそれぞれのインジェクタの容量が90cc/minと120cc/minで、互いに異なるという点の説明がつかなくなります。

 

ただし、始動の最小要件のインジェクタ容量が90cc/min以下であれば話は別です。先述の計算の欠陥は、あくまで燃焼室容積を変化させたときの倍率の計算に過ぎないという点で、また始動の最小要件のインジェクタ容量には一切言及していないということです。

下線部の条件が真実であればCB125Fの容量120ccとの差分はエンジンの味付けの違いに過ぎず、始動の最小要件には関係ないということになり、先述の倍率1.33を算出した計算に矛盾はしないことになります。

 

データをさらに収集すれば細かく考察できますが、本来の目的である正常な始動性を獲得できたので今回の記事はここで終わりにします。

 

同エンジンで圧縮比を変化させることがあれば、そのときの燃料噴射量の変化を高田にお知らせいただければ幸いです。

 

 

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