1 社会教育の必要性
 

 本県は東北地方の中での行政面で中心を成す存在として発展して来た。これは一重に、経済の効率的発展の手法としての三大都市圏特に首都圏への集中という国家政策の中で、地方レベルでも中核都市への集中が発生し、その結果としての仙台市の膨張によるものである。

 

 これは東北他県の状況を見れば明らかである。宮城・福島を除く各県においては、若年層の首都圏等への流出により、経済活力を失い過疎化が進行し、高齢化する人口を支え切ず崩壊の危機に瀕しているコミュニティーも多く存在する。このことは本県においても他人事ではなく、特に沿岸部おいては危機的な問題となっている。この解決策としてはどのような方策が有効であろうか。

 

 地域経済の発展形態としては、大別すると次のに種類に分けられる。一つは、大都市を中心としその日常的経済圏の一端として発展する形態で、東京を中心とした首都圏はもちろん、三大都市圏や、仙台のような地方中核都市圏がこれに該当する。もう一つは、地場産業が大きく成長しひいては地域経済の発展に結び付く自立発展型の形態で北陸地方や、信越四国北部等に顕著な形態である。

 

 第一形態については、従来の経済成長を追及する国家政策の帰結として形成されて来たが、経済圏外との経済格差の発生若しくは経済圏外の経済的疲弊や、人口の過度の集中による人間性の破壊と言った問題が発生している。第二形態においては、その発展の要因としては、歴史的な地場産業の強さの外、教育県であると言った要素が考えられる。この形態は、近年頓に各雑誌でもっと豊かな県として北陸各県が上げられるように評価を受けている。ただ問題としては、生活の豊かさはあるものの、都市的魅力の乏しい地域においては、都市部への若年層の流出を招いている。  

 

 先にも述べたとおり、本県は仙台市の都市化により言わば他力本願的に成長して来たと言える。その結果として県内における経済格差が発生し大きな課題となっている。近年の議論は、仙台都市圏への投資を抑制し、その部分を他の地域へ振り分けるべきと言ったものである。しかし、投資を乗数効果的に生かす地域の基盤がなければ、仙台都市圏へ投資した場合と比しその経済効果は非常に小さいものなり、トータルで考えた場合経済的にロスを生じるおそれがある。最悪の場合、仙台都市圏の魅力を殺ぎ、県内全体としての相対的経済後退をもたらす可能性もありうる。しかし、県内における経済格差は放置できない問題である。その解決策としては、投資とともに、投資を生かす方策、つまり投資を行かせる人材の育成・高等教育が必要である。  

その手段としては、高等教育だけがすべてでないことは確かである。しかし、全国レベルや国際レベルでのこの厳しい競争社会の中を生き抜く地場産業を担える人材には、広い視野と先見性が重要であり、これは高等教育により知識や見聞を広めることにより培うことができるものである。現在の宮城県は、地理的・歴史的に中途半端に豊かであったため井の中の蛙的側面が強い。しかし、国際化の進展と相俟って各地域において経済的社会的自立へのうねりが高まりつつある。それゆえ、本県も厳しい地域間競争にさらされつつあり、地域経済力の強化を怠れば経済的な疲弊がもたらされる危険性がある。  

 

 本県においては、東北大学を初めとして他の地方経済圏と比較して、比較的多くの高等教育機関がある。その一方、大学進学率が低く学生には県外出身者が多く有力な地場産業もないため多くの人材が出身地へのUターンしたり、三大都市圏の有力企業へ流出している。この傾向は、関係者の多大な努力にもかかわらず、今後も大きな変化はないものと考えられる。現状においては、有力な人材が少ないため有力な地場産業が育たず、有力な地場産業ないため有力な人材が流出するというジレンマ状態にあると言える。さらに、本県の新卒者の大学進学の傾向は今後も大きな変化はないものと考えられる。このジレンマから抜け出すためには、県の施策として、実社会の中で活躍している人々の中から地域における先導的人材を育成し、なおかつ社会教育を欲している人々の要望に応えるため、高等教育機関として主に社会人を対象とした大学を設置することが必要である。

 

1991年9月