表題から感じたのは、こんな人でも子供時代は普通の子供たちと同じようにこどもだったんだよ、という文脈とか、そういう子供時代が、世の中に名を知られるようになったあとのそれぞれの人物に、どういう影響を残したのか、という文章の集まりなのだろうということだった。一点目は当たらなかったが、二点目は著者のまえがきにも触れられているように著者の意図するところだったようだ。しかし私はこの本を読んで、15人の登場人物が一人前になるまでの半生を紹介する伝記集として秀逸であると思った。
取り上げられている人物は、手塚治虫、向田邦子、深沢七郎、稲垣足穂、林芙美子、宮本常一、畦地梅太郎、柳田邦男、池波正太郎、藤原義江、幸田文、藤巻義夫、高峰秀子、澁澤龍彦、野坂昭如。
いずれも私より一世代、二世代上の人物ばかりであり、その作品に私が触れている人物は半分も居なかった。であるから、名前だけなら知っていた人物の幼年・少年時代をこのように並べて読めたことは有難いことだった。
特に印象に残ったのは林芙美子、宮本常一、藤原義江、高峰秀子、野坂昭如だった。自分とは全く異なる環境に生まれ育った人物の子供時代にはとても心を揺さぶられた。本当に強烈だった。それでも貧しい環境ながら何とか育ちあがった人はまだいい。空襲の焼け跡で義理の妹を餓死させてしまった(少なくとも本人はそう思っていたのだろう)野坂昭如の章は壮絶だった。これを文学的感動と言ってしまうと語弊があるだろうけれども、著者の文学的感性が至るところで光っている一冊だと思った。