「3つの鍵」

2022年公開、イタリア・フランス合作映画。119分。

ローマの高級住宅地にあるアパートで、3つの家族が暮らしています。それぞれが顔見知り程度で、各家庭の扉の向こう側にある本当の生活は知りません。
ある夜、建物に車が衝突し女性が亡くなりました。
運転していたのはアパートの3階に住む裁判官夫婦の息子アンドレアでした。
2階の住人のモニカは初めての出産をまじかに控えた妊婦。夫が長期出張中のため、一人で出産のため病院に向かっていました。
1階に住む夫婦は、事故によって仕事場が崩壊したので、娘を朝まで向かいの老人に預けることにしました。
事故が発生した後、アンドレアが起こした事故を巡って裁判官夫婦は、始末に奔走します。
モニカは無事に出産しますが、留守がちな夫はあてにならず、ほとんど1人での子育てに不安が募ります。
1階の夫婦は娘の預け先の老人が娘と2人で迷子になったことを知ります。娘を探しまわる父親は、老人が娘に悪戯をしたのではと疑惑の目を向けます。
それらの小さな出来事が、予想もしなかった家族の不和を引き起こし、彼らを次第に追い詰めていきます・・・。



<あらすじ>①
ローマ郊外の高級住宅街、3階建てのアパートに住む3つの家族。それぞれが顔見知り程度で、隣人の扉の向こう側にある生活は知りません。
ある夜、このアパートの2階の住人モニカの陣痛が始まり、夫ジョルジョが長期出張のためたった一人で病院へ向かいました。すると後ろから暴走する車がやってきて、たまたま歩行していた女性を轢きアパートに突っ込みました。運転していたのはこのアパートの3階に住む裁判官夫婦ヴィットリオとドーラの息子アンドレアでした。
仕事場が事故によって崩壊した1階のルーチョとサーラ夫婦は、娘フランチェスカを朝まで向かいの老夫婦に預けました。レナートは気さくにフランチェスカの面倒を見てくれていましたが、認知症の傾向がみられました。
翌日、フランチェスカを迎えに行ったルーチョとサーラは顕著に認知症が表れていることを理由に今後娘を彼に預けるのはやめておこうと決めたのでした。

② 2階のモニカは無事に出産しました。しかし、夫は仕事でほとんど家にいないためたった1人で行う子育てに不安を募らせ次第に追い詰められていきます。
1階のルーチョはジムに行くために軽率にもレナートに娘を預けてしまい、一時行方不明になってしまいます。すぐに公園で見つかりましたが、ルーチョはレナートがフランチェスカにいたずらをしたのではいかと疑念を持ち始めました。自責の念に押しつぶされそうになったルーチョは、レナートがいる病院へかけつけ首を締めかける騒ぎを起こしてしまいます。
事故を起こしたアンドレアは被害者の女性が亡くなったことで懲役5年の刑を言い渡されました。裁判官の両親にコネで減刑させろと迫るアンドレアでしたが、拒否されると発狂しヴィットリオに暴行を加えました。ドーラは限界に達するヴィットリオと息子アンドレアをただ見つめることしかできませんでした。
③ 5年後。
罪を償い出所するアンドレアは父を拒絶し、家にはもどりませんでした。息子が幼い頃から完璧を求め続けたヴィットリオは、ドーラに息子と関わるなら絶縁すると宣告します。ドーラが選んだのは夫でした。
モニカの夫ジョルジョは相変らず出張続きで、子育ての不安から時々カラスの幻を見るようになります。そんなある日、義兄ロベルトが巨額の詐欺事件を起こし訴えられました。

数日後、逃げていたはずのロベルトがモニカの前にひょっこり現れます。ジョルジョが兄を嫌うようになったのは、自分に対する目からだと聞かされたモニカは複雑な気持ちでした。ジョルジョが帰宅するとロベルトはすでに姿を消していました。
そんな中、レナートの孫シャルロットが祖父の様子を見にパリから戻ってきました。幼いころから彼女を知るルーチョは、彼女を通じてフランチェスカとレナートにあの日起きたことの真相を探ろうとしました。しかしシャルロットの嘘から誘惑に乗ってしまい、欲望のまま抱いてしまいます。
その後、いたずらに近づくシャルロットをルーチョは遠ざけようとしました。しかし、ないがしろにされたシャルロットはルーチョを告訴します。レナートは亡くなり真相は闇に葬られただけなく、ルーチョは妻サーラとの間に溝ができ家を離れることにしました。
その後、ルーチョには無罪判決が下されましたが、シャルロットは控訴することに。彼女に人生をめちゃめちゃにされたルーチョは彼女の自宅へ押しかけ抗議しましたが、祖母によって追い返されてしまいました。
さらに5年後。
ドーラの夫ヴィットリオは他界していました。アンドレアの居場所は分からず訃報を伝えることができませんでした。後日、ドーラは遺品を寄付した移民ボランティアのルイージという男性と知り合いました。
ルイージに一緒に来てほしいと言われ出かけた先でドーラが見たのは、ルイージの娘と結婚したアンドレアでした。養蜂で生計を立てながら、生まれたばかりの子供を養っていました。その姿に感極まるドーラでしたが、アンドレアからは「もう来ないでほしい」と突っぱねられてしまいます。
モニカは2人目の子供を出産しました。今度はジョルジョがついてくれていました。しかし、モニカは相変わらず部屋にカラスが見え、母親の精神疾患を自分と重ね不安は募るばかり。ある朝ジョルジョが出張の準備に追われている中、ついにモニカは蒸発してしまいました。
④ フランチェスカはスペイン留学を控えナーバスになっていました。出発前日、空き家になったレナートの家に入り懐かしんでいたフランチェスカ。「レナートの姿を最後に見たのは迷子になった日だった」その言葉に、ルーチョは恐る恐る訪ねました。「あの日、何があったんだ?もしかして…」しかし、それはルーチョのたんなる思い込みでした。ルーチョはフランチェスカを抱きしめ涙しました。10年間自分を苦しめていたものからやっと解放されたのでした。
モニカが消えてから、ベアトリーチェと生まれたばかりの息子をなんとか育てようと奮闘するジョルジョのもとへ電話が入ります。相手はモニカからでした。「私達は少し出かけているけれどすぐ戻るから」母親と一緒にいるつもりになっているモニカでしたが、声は軽やかでした。
ドーラはアンドレアに拒絶されたことで、被害者の家族に会いに行く決心ができました。「これまでずっと謝罪もせずすみませんでした」とドーラ。しかし相手から聞かされたのは意外な言葉でした。「彼は自分が作ったはちみつと共に謝罪の手紙をくれたよ」と。息子の行動にドーラはほっと胸をなでおろしました。これまで住んでいたアパートから引っ越すことを機に再びアンドレアのもとを訪れたドーラ。アンドレアはドーラを見てかすかに微笑み、ドーラの表情にも輝きが戻りました。
アパートの通りではタンゴの演奏が聞こえてきました。ミュージシャンに続いて、大勢の男女がタンゴを踊りながらパレードのように進んでいきます。3家族は表でそれらを見つめていました。車に乗り込んだベアトリーチェの視線の先には微笑むモニカの姿がありました。
息子は交通事故の犯人
車での事故が引き金となって、同じアパートに住む3つの家族の生活が露わになって行きます。
まずは事故を起こしたアンドレアの家族。
犯罪者となった息子のことで苦しむヴィットリオ(ナンニ・モレッティ)とドーラ(マルゲリータ・ブイ)夫妻は裁判官です。
アンドレアは何とか自分に都合のよいように裁判を取り計らってくれるよう、頼みます。
そんな甘ちゃん息子の更生のために動こうとするドーラですが……。
子どもが事件を起こしたらどうすればよいのか、子どもの将来にとって良いと思われる方法とは何でしょう。
母の選択が問われます。
育児不安を抱える女性
2階には夫が不在がちで赤ちゃんを出産したモニカが住んでいました。
初めての出産・育児で、何から何まで自分でしなければならないモニカ(アルバ・ロルバケル)は、耐えず人との交流を求め、一人で子育てをする不安に押しつぶされそうになっていました。
もしかすると誰もがなるかも知れない「育児不安」は、妊娠出産を経験した女性にとって避けられない現実問題です。
たまに帰宅する優しい夫と可愛い我が子。生まれてきた子どもに罪はなく、モニカは懸命に子育てをしようとしますが……。
産むべきか、または育てられるのかという不安を解消するには、どうすればよいのでしょう。
ここでも、女性特有の問題が鋭く問われています。