「ティグレ佐野倒産!!」
衝撃のニュースが日本中、いや、世界中を駆け巡ったのはティグレ佐野が世界最高リーグ『WPS(ワールドプレミアシップ)D1』の2度目の優勝を決めた翌日だった。
Jリーグ7連覇、WCC(ワールドクラブカップ)制覇、WPSD1参戦3年間で2度の優勝など、世界を代表するビッグクラブの倒産。
勿論、大手企業からのスポンサーの申し込みも多数あったのだが、Jリーグ加入10年目の節目のシーズンを終えたチーム代表が出した答えは「チームの売却」ではなく、「チームの解散」だった。
町のシンボルでもあったティグレ佐野の解散をうけ、市民達はチーム存続を願い、署名活動などを行うも決定は覆る事はなかった。
そんな時、ある企業が佐野市の為に立ち上がる。
『レットブル』
世界的に有名なこの飲料メーカーはスポーツの各分野にも熱心に携わっており、先のティグレ佐野の買収にも筆頭に挙げられていた企業である。
レットブルは佐野市に新たなサッカークラブ『佐野レットブルFC』の設立を発表。
RBFCP(レットブルフットボールプロジェクト)責任者に就任した『経営の天才』エアー・ニーウェイは、クラブを僅か5年でJ2昇格まで導くと、次なる一手を実行に移すのだった。
ルーク「私に全権監督を、ですか…?」
~ルーク氏を全権監督としての招聘~
そう、彼こそティグレ佐野をJ2のチームから世界一のチームに僅か10年間で育て上げた国内屈指の名将であり、彼の招聘こそRBFCPにおけるニーウェイの切り札だった。
ルーク「しかし私はもう…」
ニーウェイ「存じ上げています。」
ルークの言葉を遮るかの様にニーウェイが言葉を続ける。
ニーウェイ「貴方の心がティグレ佐野と共にあり、ティグレ佐野の解散と共に身を退いたその気持ちは、十分承知しております。」
ティグレ佐野が解散した時、彼の元には海外のビッグクラブやアラブの石油王が数十億で招聘に動いたとされているが、彼はそれらを全て断り一線を退いていた。
ニーウェイ「しかし、貴方の様な人がこのまま埋もれてしまっては日本サッカー界、いや、世界のサッカー界にとって非常に大きな損害です。それに…」
ニーウェイの言葉を表情ひとつ変えずに聞いているルークにニーウェイは取って置きの言葉を投げ掛ける…
ニーウェイ「貴方の復帰を誰より待っているのは、ここ佐野のサポーターなんじゃないですか!?」
ルーク「……!!」
今まで決して崩れることのなかった表情が一瞬、微妙な変化をみせた。
ルーク「お話は解りました。後程、返答させていただきます。」
ニーウェイは微かな期待と大きな不安を持って会談場所を後にする…
それ程にルークの態度は硬化したままだった。
サポーターの気持ちは分かっていた…
自らの手で作り上げたチームで世界を手に入れた達成感。
そして、突然それを失った虚無感。
ルークが一線を退いた本当の理由は『サッカーに対する情熱』が欠落してしまったからだった…
ニーウェイの言葉は真っ直ぐで、ルークは佐野のサポーターに対する罪悪感を感じていた。
思い悩みながら佐野の町を歩くルークの目にそれはふと、飛び込んできた。
小さな公園のサッカー場で一人、サッカーの練習をする少年。
彼の左足から放たれるボールの軌道は、数々のトップ選手を育ててきたルークの目にも衝撃を与えた。
『磨けば光り輝く、まさにダイヤの原石。』
ルークは少年に近づくとこう告げる。
ルーク「もう少し右足を踏み込んで蹴ってみなさい。」
少年「あ?なんだおっさん!?」
少年は迷惑そうな顔をしてルークを相手にしようともしない。
ルークは少年を睨みつけると、先程とはまるで違う、威圧感たっぷりの声でこう言った。
ルーク「いいからやってみろ、小僧っ!」
ルークの突然の豹変ぶりに少年は少し驚いた様だったが、すぐに落ち着きを取り戻す。
少年「わーったよ。やってやるよ。」
ルークを窘める様に少年はそう言うと、ボールをセットする。
少年「えーっと、右足を踏み込んでだったか!?」
ルーク「そうだ、後、インパクトの瞬間に重心が傾かないように注意するんだ。」
少年「へいへい。」
少年は『年寄りの道楽に付き合ってやるか。』くらいにしか考えていなかった。
そう。その左足を振り抜くまでは…
『バシュッ』
『糸を引く様な』とは、このことだろうか。
少年の左足から放たれたボールは『速く』そして『力強く』ゴールネットへと突き刺さった。
少年「す、すげぇ…」
少年は今までにない感触にただただ驚き、ルークを問いただす。
少年「おっさん、いったい何者なんだ!?」
ルーク「………」
しかし、ルークから返事はない。
少年「おい、おっさん!」
少年が大きな声でルークを呼ぶと、ルークはふと、我に返る。
ルーク「あ、ああ…。」
そう。指導したルーク本人でさえ、その衝撃は計り知れないものだったのだ。
確かに、最初に見た時から光る素質を感じていた。
しかし、まさかこれ程までとは…
彼なら導いてくれるかもしれない…
そう…
『日本初のワールドカップ制覇』
勿論、サッカーは11人でやるものだ。
彼1人が活躍した所でワールドカップで優勝出来るとは限らない。
ただ、彼が見せた輝きは、その夢を見させてくれるには十分だった。
ルーク「さて…小僧。お前、名前は?」
少年「あ?俺様が先にそれ聞いたんだが?まあ、いいか。」
少年は胸を張って答えた。
少年「俺様の名前は瀬那!鳴神瀬那!いずれ日本一のサッカー選手になる男だ!!」
冗談を言っているんじゃない。瀬那の表情は真剣そのものだ。
そんな瀬那を見て、ルークは『ふっ』と笑いながらこう告げる。
ルーク「小僧、お前をプロのサッカー選手にしてやる!」
瀬那「お、おっさん。してやるって、だからあんた何者だよ!?」
ルークの突然の言葉に瀬那が問う。
ルーク「俺か?俺は来年からJ2に上がる『佐野レットブルFC』の全権監督『ルーク雨宮』だ。」
ルークの正体を聞いた瀬那は驚きを隠せなかった。
『ルーク雨宮』知らないはずがない。
自分がサッカーを始めるきっかけになったチーム『ティグレ佐野』を指揮していた人物だ。
当時、瀬那はまだ幼かった為、監督の顔までは覚えていなかったが、流石に名前は覚えている。
瀬那「あんたがまさか、あのルークさんだったとはな…おもしれぇ。俺様を是非、あんたのクラブに入れてくれ!」
瀬那はまるで初めて玩具を買ってもらった子供の様な顔でルークにそう告げた。
ルーク「ああ、そのかわり、日本一の選手って夢は諦めて貰うぜ!?」
瀬那「え…?」
ルークの突然の言葉に言葉を失う瀬那…
ルーク「なんてったって、小僧には世界一の選手になって貰わなきゃ困るんでな!」
そう言って『ニカッ』と笑うルークの表情も瀬那と同じ様に無邪気な笑顔だった。
