-都市内分権のすすめ-

小学校区を自治区に、「新たな公共」の実現に向けて

1.はじめに

少子高齢化や市町村合併の進行にともない、地域課題が多様化・輻輳化するなか、公共サービスのあり方が大きく見直されています。また、厳しい財政状況を背景として、地域における公共サービスのすべてを行政組織が提供することは困難となり、地域の能動的な活動や、行政組織との連携による新しい公共空間を形づくっていくこと、つまり地域において最大の主体である住民が、自主的な活動を展開し、地域の課題をみずから解決するための環境づくりが地方自治体には求められている状況です。

このような地方自治体の現状のもと、平成16 5 26 日に公布された市町村の合併の特例等に関する法律、市町村の合併の特例に関する法律の一部を改正する法律(以下、この二法を「合併特例法」という。)によるもののほか、同日に公布された地方自治法の一部を改正する法律(以下、「改正地方自治法」という。)によって、地域自治組織制度が一般的な制度として導入されました。これにより、市町村において、合併にかかわらず地域自治区の設置が可能となりました。

これにより、地域自治の新たなしくみが法制度上担保されたこととなります。ただし、このしくみを取り入れただけで地域自治が実現するというものではありません。導入に際しては、十分な効果を得るための戦略が必要であります

住民自治の強化を目的とした地域自治区制度については、広域化した行政のシステムを転換し、より住民のニーズに沿った公共サービスを充実し、提供していこうとするものです。

また、住民満足度の観点からのアプローチについても考え直し、新たな公共サービスの提供システムを大きく転換する時期に来ているのではないでしょうか。

 住民の自治力の向上と地域社会における様々な地域事情を考えたときに「地域のことは地域でおこなう」とした住民の自立を促すことこそが、ニーズに即した住民サービスの提供が可能になりえるのであります。

2.地域自治区とは

地域自治区は、住民に身近な市町村事務を行う市町村職員からなる事務所と、住民の代表から組織される地域協議会により構成されるが、この制度は住民の意思を行政に反映させる体制づくりであるとともに、住民に身近な公共サービスにおける「地域協働」の要となるものとしても、法的に位置づけられています。

各市町村において、住民と行政との協働によって、地域における課題解決をしていこうとする動きが高まっているなか、合併時の一時的な取り組みではなく、恒久的なしくみとして、この一般制度の地域自治区を積極的に活用し、地域の住民組織活動を活発化させ、地域協働をより進めて行こうとする市町村も出てきています。

(1)地域自治区(ちいきじちく)

①市町村が、その区域内の地域に、市町村長の権限に属する事務を分掌させ、及び地域の住民の意見を反映させつつこれを処理させるため設置する自治・行政組織の一つ。

②地方自治法第202条の4 以下で規定されるものと市町村の合併の特例等に関する法律 23条以下で規定されるものの2種類があります。

③地方自治法による地域自治区は、市町村長の権限に属する事務を分掌させ、及び地域の住民の意見を反映させつつこれを処理させるため、条例により設置され(202条の4 1項)、その市町村の全域に設置しなければならず、一部の地域のみに置くことはできない(ただし、総務省は、同時に全域に設置せず、段階的に設置することは可能という見解を示している)。

特別区 合併特例区 とは異なり、法人格は有せず、あくまでも市町村内の組織であり、恒久的なものとされ、設置期間の定めはない。

⑤地域自治区には事務所が置かれ、事務所の位置・名称・所管区域は条例により、事務所の長は、市町村長の補助機関 である職員(その市町村の首長部局の職員)が命じられる(202条の4 3項)、市町村長は、事務所の長に事務の一部を委任することができる(202条の4)。  

3.小学校区を自治区に


これから少子高齢化がいっそう進むと見られる中で地域福祉を考える際に、都市型コミュニティの基礎単位として小学校区に着目したかというと、日常的な世間話や相談事をする「ご近所」という生活感覚に最も近いからです。特に私が決め手と考えたのは、子供たちの交通安全でした。交通戦争といわれた時代に、子供が学校に通い始めると、親は行き帰りの安全がとても気に懸かるのです。通学路が子供にとって安全なら、それは高齢者にも安全ということになります。
 多くの大都市ではコミュニティ意識の低下が悩ましい問題になっています。しかし、コミュニティの関心事を浮き彫りにすることで参加意識を高めることができると考えました。地域全体で子育てを支え、高齢者や弱者を見守るというかつての日本社会の美点を見直していく必要性があると考えたからです。

他方、自治会の力が弱まってきている状況にあるのではないかという問題意識があります。もう一度、連合自治会ぐらいのレベルで制度化されたコミュニティをつくろうということが必要なのでしょう。

地域自治区というのは、住民にとってはあまり親近感が持てて、かつ身近な存在でないと駄目だと思います。実は住民にとって大事なエリアというのは、昭和の町村合併のときに消えてなくなった町村のことであり、したがって小学校区であり、つまり連合自治会なのです。そこで、地域自治区制度を使わずに都市内分権の試みをしている例があります。

【参考事例・伊賀市の場合】

伊賀市は、6市町村が合併して誕生しました。それと同時に、住民自治協議会という都市内分権が立ち上がりました。では、住民自治協議会はどの範囲で設立されたかというと、38の小学校区で、それは連合自治会のエリアです。伊賀市の場合は、住民自治協議会が制度設計をして、住民が納得できるエリアを設定して、それで届け出る形式です。そうすると、住民が納得できる範囲というのは、やはり平成の大合併のときの旧市町村ではなくて、昭和の合併で消えてなくなった町村、つまり小学校区なのです。