少子化の傾向が進んでいる。今後ますます進行することが予測され、学校の統廃合などが各地で行われて行こうとしています。

 平等に教育機会を提供するという観点から、各地に小・中学校が設置され一つの文化を形成し、また多様な人材を育成し輩出してきました。

 こういったその地域に根差した学校を中心とした地域社会が少子化や経済状況の停滞により、今後益々縮小傾向になるのは致し方のないことなのでしょうか。

 単純に統廃合をおこなって「集約化や効率化」をすることが学校教育、児童・生徒にどのような影響があるのだろうか。少し考えてみることにしたい。

学校統廃合を考えるに当たっては、①学校規模②通学距離③地域の文化拠点の3つが重要な論点ではないかと思います。

まず①の学校規模ですが、規模が小さくなると、子どもたちの切磋琢磨や多くの友人と学び合う機会が少なくなり、教育条件の整備も割高となります。これは、財政的な視点からの考え方になり、財政難である現在、どうしてもその考え方になりがちになります。

②の通学距離ですが、あまりにも学校規模を重視しすぎると、通学距離が長くなって児童生徒の心身に通学負担がかかり、授業の効率が下がってしまうといった問題が生じます。

③の地域の文化の拠点でありますが、公立学校は地域に開かれ支えられた運営が重要であり、災害時には学校は重要な住民の避難場所となります。コミュニティーのまとまりができないまま学区が広域化すると、学校と地域との関係が弱くなってしまい学校経営における住民参加が進まなくなります。

これらの条件を踏まえながら用途制限などを当該地域の実情や児童・保護者ともうまく調整して学校の配置を考えていく必要があります。

小中学校では、例えば学年単位で学級・学習集団を編成して授業を行うなど基本的な指導方法はあまり変わっていないのです。また、通学距離についても、当時、児童生徒の歩く時間や疲労度などをもとに道のりの上限を定めたことから、これについても大きな変更は考えにくいと思います。

しかし、昭和31年から約半世紀もの年月が経っており、この間、少人数教育の全国的な広まり、各地での様々な指導の工夫改善や特色ある学校づくり、小中連携・一貫教育や中等教育学校(中高一貫)などの学校間連携、モータリゼーションや道路整備、スクールバス導入の検討の動きなど、社会情勢や学校に期待される役割・機能も変化していることから、これらの変化に対応して、前述の3つのポイントについてどのようにあるべきかを調査研究して行く必要があると考えられます。

折りしも市町村では平成の大合併が行われ、各地で公共サービスの提供の在り方について様々な事例が出てきており、今後益々広がるものと予想されます。

もちろん、市町村合併により市区町村の範囲が広がったからといって、直ちに学校区の範囲を広げて学校統合ができるわけではないですし、市町村合併を行っていない市町村についても同様であり画一的に行えるものではありません。

しかも、義務教育は公共サービスの中でも重要な基礎サービスであり、もともと移動距離が小さい子どもを対象とし、防災時には全住民が関係してきます。このため、市区町村の大きさというより、住民の生活圏の中でどのように拠点を整備するかが重要となる訳です。サービス・受益を高めれば学校運営費など地元・住民の負担も重くなる。学校が果たすべき役割や児童生徒・住民へのサービス提供の在り方などを軸として、各地でじっくり議論していただき、地域毎に最適な配置を考えていく必要があるのではないか。

そのことでミニマムが達成されるとともに個性豊かな地域づくりや創造性豊かな学校作りが可能になるのではないかと思います。

○学校規模

小中学校の学校規模について、児童生徒数がピークを迎えた第2次ベビーブームの時と現在とを比べると、少子化が進んでいるのであります。

現在、31学級以上の過大規模校はほとんど解消でき、19学級以上の大規模校も減ったが、他方、6~11学級の小規模校が増えている傾向にあります。

全体の分布状況を見ると、大規模校が少なくなったため、小学校の平均規模は11.9学級(平成17年学校基本調査より)となり、標準規模の1218学級をわずかながら下回るようになってきています。

戦後の小中学校の規模の推移を見ると、第2次ベビーブームの時期に小規模校が減って大規模校の分布が高まったこともあるが、基本的には、大規模校の割合が減少し、波が寄せていくようにヤマが小規模校の区分に移っています。

他方、300400人規模の学校はどの時期を通じても多く分布する傾向が見られます。このあたりは1学年2学級を少し超える程度であり、標準規模に当たると考えられます。

また、最近の少子化で小規模校が増えているように思われるかもしれないが、実は、以前から小規模校はほぼ同じぐらいに存在しており、意外と変化していないのであります。「全国規模で見ると、小規模校はつねに一定程度存在する」と考えられるが、これは、学校が小規模化しても、住民合意がすぐ調って直ちに統廃合できるわけでもなく、現実にはいくつかの段階を経て長い年月をかけて統廃合に至っているためであると考えられます。  問題は、小規模校がこの水準を超えてこれから増えていくかどうか、それが適正な範囲かどうか、今後の少子化の急速な進行に今の制度や体制で対応が追いつくかどうか、また、個々の地域の実情なり多様な児童・生徒の存在があるなか、個々の個性を伸ばす教育が可能であろうか。など様々な角度からのアプローチが必要であることは事実であろう。

近年、学校現場では、児童生徒一人ひとりへの細やかな対応が求められており、習熟度別指導のような少人数指導や少人数学級など指導形態も多様化しています。

今後、これらの変化が学校規模に影響を与えるだけでなく、逆に学校規模が、学習活動や指導方法、学習集団や学級規模等に対し影響を与え、相互に関連し合っていくことも予想されます。

規模が変わると、人の行動パターンや活動の様相も変わってきます。その結果、組織が最適に機能するための条件なども変わってくるため、新たなルールを検討する余地も生じてくるのではないでしょうか。その際、小規模化や指導形態の多様化・弾力化等に伴い、学校規模を学級数ではなく児童生徒数で捉える手法も考えていかなければならないのであります。

また、小中一貫校などの工夫で規模の維持を図る動きがある一方、逆に、小・中学校で対応が分かれることも予想されます。中学校は教科担任制でありますし、学力の維持向上のため、教科毎に専門教員を確保できるよう、規模の維持を図る動きが出やすい。他方、小学校では、生活・地域に密着した学習・指導を通じて全人格的な成長を図るため、通学負担等も考慮しつつ、なるべく家庭や地域に近い場所で教育を続けようとすることは考えられます。

学校規模の変化により、「授業等の学習活動や友人関係、運動会などの学校行事、部活動等にどのような影響を与えるか」、「児童生徒の学力・体力・コミュニケーション能力や社会性などの育成にどのような効果が現れるか」、「規模のメリットを活かして、職務が効率的に遂行できるか。教職員間の交流で人が育つ職場環境をつくり出せるか」、「学校運営費などコストとのバランスはどうか」等について調査を進め、学校規模の在り方とその最適化の根拠・基礎理論を構築しながら、施策を検討していく必要があるのではないでしょうか。

その際、今後の時代の流れをも見据えて、「これから学校は、どのような指導・活動を行い、地域の公共文教施設としてどのような役割を果たしていくか」等について考えつつ、新たな学校像の設計が必要になり、それは地域住民や保護者などが可能な限り参画をしながら、様々な主体による教育サービスの提供を行う。という考え方が必要であると考えられます。

○ 通学距離

通学距離については、児童生徒の心身の負担を考慮して、小学生は4㎞、中学生は6㎞を道のりの上限として各教育委員会が基準をつくり、それを超える場合やへき地、豪雪・離島地域等では、スクールバスの運行やタクシー・公共交通を利用する通学費補助等が行われています。

全国の通学距離に関するデータはないが、イメージをつかむため、市街化調整区域や工業用地等の用途制限等の要素をあえて捨象して、人が住むことができる土地の面積(可住地面積)を当該市区町村の学校数で除し、これを平均学区面積とみなすと、人口密度の高い都市部では、学校規模は大きく通学距離は短くなるのに対し、過疎部では、学区の範囲が広がって通学距離が長くなる傾向があります。

学校が近くに通える場所にあるかどうかは、子ども・保護者にとって最も重要な条件の一つであります。また、その地域のまちづくり、住居条件・住宅価値など住環境の評価にも大きな影響を与えます。

各地での学校設置に係る審議会等でも、通学の負担や安全安心は重要な論点であります。最近では誘拐事件等により、スクールバスの導入も議論となっており、すでに導入している地域も存在しています。

また、地域の過疎化も進んでいる状況があり、学校規模を維持しようとしても子どもの住居地は簡単に変えられないため、物理的に通学が難しくなる地域もあります。

寄宿舎通学も考えられるが、小学校段階から児童を家庭から離してよいか、児童の負担への考慮や各家庭・地域の理解が必要であります。地域の諸条件のため、学校規模より教育機会の保障を優先せざるを得ない場合もあるが、その際、組織的・計画的な交流学習、社会性育成の場づくり、小規模集団での教育に最適な学校の編成・運営の在り方等について十分な検討を行い住民や保護者の理解を求めながら進めていくことが必要ではないかと考えられます。

○施設

学校規模の最適化や学校統廃合などの議論は、施設の老朽化や耐震問題などが契機となって起こる場合もあります。市町村合併を機に、教育インフラを再整備しようという動きも見られ、最近、廃校数が増えている状況にあります。

しかしながら、学校規模や通学条件などが調整できても、建築関係法令との調整、土地の用途制限、周囲の状況、技術上の問題等により改修等が難しい場合もあることから学校規模の最適化に当たっては、文教施設の整備の在り方や基準等についても、今後の教育や学校内の諸活動を踏まえながら、検討を重ねていく必要があると考えられます。

また、学校統廃合の場合、新しい校舎の整備等だけでなく、これから利用しなくなる学校内の空きスペースや施設自体をどう活用するかについても、地域にとって重要となる大きなテーマであります。

このためギャラリーやアトリエ、演劇の稽古場・大道具作成室など、多くの人が日常的に集まることができる広いスペースや文化施設として再生したり、公民館や福祉施設、宿泊施設といった他の公共施設へ転用するなど各地で様々な取り組みがなされています。

しかし、転用後の利活用の状況、より自由に活動できるような施設管理の手法、スムーズな転用・改装など、施設管理・運営等も含めた新たな手法の開発や支援方法の多様化が、今後の検討課題であります。

いずれにせよ小中学校は昔から重要な地域の防災拠点であり、公共スペースとして残していく必要も高いことから防災倉庫やヘリポートの整備など、さらなる転用の工夫も考えていく必要があります。

小規模校が避けられない地域では、小さくても充実した最適な施設を目指す「コンパクトスクール」という発想や多様な子供たちのセーフティーネットとしての学校施設として対応できないか等の可能性を追求していく必要性はあるのではないか。

これは、過疎部では人が少なく施設管理も難しいことから、公立学校へ図書館や福祉施設など様々な公立施設を一つにコンパクトに集めて複合化させ、これにより、効率のよい地域の生涯学習・文化の拠点、地域の皆がいつでも集まれる生活・教育文化の場を創造できないか、というものであり、少子高齢化・過疎化に備えた学校を核とした地域づくりに資するものであります。今後、こうした未来志向の新たな創造性豊かな視点も取り込んでいきながら各種参考事例も研究しながら議論を重ねていく必要があると考えます。