どうにか間に合った

久しぶりの永遠の昨日の二次創作

 

 

 

 
このお話の後日譚です
 
 
それではどうぞ
 
 
 
 

永遠の昨日・偽造23話~クリスマスの約束~

 

 

浩一がこの世を去ってから六年が経った。

俺は相変わらず何かにつけて山田家を訪れている。

特にクリスマスには欠かさずサンタの恰好をしてチビ達にプレゼントを持って行っていたけど、渚ちゃんは高二、湊君は中一になったからもう必要はない。末っ子のヒロちゃんは小一になったから今年で最後にしようと思っていた。

医大の六年生ともなると忙しいし、研修医になったらこうやって山田家に来れるのかもわからないからだ。

それに、おじさんとおばさんもはっきりとは言わないけれど「みっちゃんもいろいろ忙しいし大変だから無理しないでね」って山田家に来るたびに言われるようになってきたから。そろそろ潮時なのだろう。

 

多分、いつまでも浩一に囚われないで好きに生きたらいい。そう言われているような気がした。

それは俺にはできない相談で、浩一が特別で一番という事実が覆らない以上山田家との付き合いはずっと続いていくのだろうと思った。

だから山田家には“浩一との約束”として毎年クリスマスにプレゼントを持って行くことにしている。

実際にはそんな約束はしていない。

山田家には末っ子が生まれたら大きくなるまで一緒にサンタさんとしてプレゼントをあげよう、って約束していたことにしている。ただ浩一ならきっとそうすると思ったからしているだけだ。年の離れた妹弟のことを時に煩わしく思いながらも、とても可愛がって愛していた優しい兄である浩一。あいつの代わりにあの子達のことを愛そう。そう決心したから続けていた。

 

サンタの恰好をして山田家を訪れる。

いつものようにヒロちゃんが「みっちゃんだ」って言って抱きついて来る。それを受け止めて優しく頭を撫でる。

「みっちゃんサンタからだよ」と言って今年もお菓子のプレゼントを渡す。我ながらそんな言葉を口にするのが今でも少し恥ずかしい。

 

その後は、毎年のように山田家で晩御飯を食べてから帰るつもりだったが今年は渚ちゃんと湊君に引き止められて浩一の部屋に連れていかれた。

この部屋はあの頃のまま時間が止まっていた。

今でも浩一の声が聞こえそうだからあまり足を踏み入れたくは無かったけど、今日はどうしてもと言われて仕方なく入った。

 

「みっちゃん今までヒロのためにありがとう」

湊君にそう言われた。

「湊と相談したんだけど、来年からは私たちがみっちゃんとお兄ちゃんの代わりにサンタをすることにしたの。今までずっとみっちゃんに甘えっぱなしだったから。それにお母さんたちが言ってたのを聞いちゃったの。いつまでもみっちゃんに頼りっぱなしなのは駄目よねって言ってたの。でも私も湊もみっちゃんのこと、本当のお兄ちゃんだと思ってるから。だって、私たちに喋るときの口調とかお兄ちゃんそっくりだし、目線の合わせ方とかもお兄ちゃんと一緒。だから私たちお兄ちゃんが死んじゃってすごく寂しかったし悲しかったけど、みっちゃんがいてくれたから笑ってられたし、ヒロの事もお兄ちゃんみたいに大事にできたの。だからこれからもみっちゃんには私たちのお兄ちゃんでいて欲しいの。そんなわがまま駄目かな?」

渚ちゃんがそう言い終わった途端に、俺は二人を抱きしめていた。

 

「ありがとう二人とも。俺のことそう思ってくれていて」

そう言った途端、二人とも泣き出した。

「ねえみっちゃん。これからもうちに来てくれるよね?お父さんたちがもうみっちゃんは自由にしていいって言っても来てくれるよね?」

「大丈夫。俺はどこにも行かないし、ちゃんとこの家に来るよ。約束する」

「ありがとうみっちゃん」

湊君がそう言ってまた泣くから、しばらくそのままにしてあげた。

 

ありがとうな浩一。

お前のお陰で居場所が出来た。少し賑やかで、母さんから貰えなかった分の温かさを分けてくれる大事な居場所。

お前の分まで大事にするから安心しろ。

そう考えていたら、泣き止んだ渚ちゃんから包装紙に包まれたものを渡された。

「これ、私たちからみっちゃんにプレゼント」

形状からして本かノートのようなものだった。

 

「変な話かもしれないけど、一昨日ぐらいに夢の中でお兄ちゃんが出てきたの。“俺の机の引き出しの上から二番目の底のところにあるノートをみっちゃんに渡して”って何度も言ってくるの。クリスマス前だからお兄ちゃんのこと思い出して見た夢かと思ったんだけど、その割にはしつこく何度も言ってくるから探してみたら本当にあったの。だからそれを渡さなきゃって思って」

「そっか。ありがとう。今読んでみてもいいかな?」

「ううん。私も湊も中身を読んでないし、夢に出てきてでもみっちゃんに渡してって言うぐらいだからきっと大事なことが書いてあるかもしれないから、後で読んでもらう方が良いかもしれない」

「そっか。わかった。そうさせてもらうね」

そう言い終わった直後、ヒロちゃんが俺たちを探している声が聞こえたから浩一の部屋を後にした。

 

その後、晩御飯をご馳走になって家に戻ったら、ささやかだけどクリスマスを祝いたいって父さんと遥さんが待っていてくれた。

きっとこの家も俺の居場所なんだろう。だけど何処かぎこちなくて落ち着かなくて居心地が悪い。だからこそ山田家の方が心地よくてつい足を向けてしまう。

父さんは生きる屍だった頃の浩一のことをまだ覚えているのだろうか?そんな話はしないけど山田家に行くことに何も言わないから多分覚えているのだろう。

家族との会話もそこそこに、俺は自分の部屋に戻って渚ちゃんに渡されたプレゼントの中を確認した。

 

中身は浩一にしては随分と豪華な表装のノートだった。

あいつ、勉強はあんまり得意じゃなかったのにこんなノートに何を書いていたんだ。そんな疑問を持ちながらページをめくった。

そこには俺に出会ってから書き始めた日記のようなものが書いてあった。

と言っても最初のうちは“今日は○○記念日”みたいな箇条書きみたいなものだったけど、日が経つにつれて少しづつ内容が詳しくなっていった。

 

初めて俺と話をした日

初めて一緒に昼飯を食べた日

初めて一緒に勉強した日

初めて家に遊びに行った日

初めて俺への恋心を自覚した日

初めて一緒に祝った誕生日

初めて一緒に過ごしたクリスマス

そして、初めてのキスをしたあの夏のキャンプの夜

 

そこには浩一の初めての記念日がいっぱい書かれていた。

あいつ、普段はだるいとか言ってて全然そんな様子見せなかったのに、俺のことになったらこれだけマメにやってたんだな。いまさらそんな感心しても遅いけど。

そうやって随分と思い出に浸っていて気が付いたら明け方になっていた。

流石に少し寝ないと思ってベッドに横になったものの、目を閉じると浩一のあの笑顔を思い出して寝付くまでに少し時間がかかった。

昼前に起きたら、父さんも遥さんも既に仕事に行った後で一人ぽつんと家にいるのも寂しくて。

だからまた浩一の墓参りに行くことにした。

クリスマスに行くのは二年前以来だ。

あの時は浩一の声が聞こえた様な気がしたけど、今日もまたあいつの声が聞こえるかもしれない。

「みっちゃん、その日記大事にしてね。でも絶対誰にも見せないで」って言われそうな気がする。

大丈夫だよ浩一。こんな恥ずかしい思い出誰にも見せないから。

そんなことを思ったら「酷いやみっちゃん」って言われたような気がした。