どうも、タカ先生です。
前回のブログで、邦題の『ベイマックス』が、原題では全く違う『Big Hero 6』だということを学びましたね
このように、作品の題名を海外の人々にわかりやすく変えるのは、何もハリウッド作品に限ったことではありません。例えば、日本映画のタイトルも英語に訳す時に、その表現が変わることがあります。
そこで世界的に有名なジブリ作品の英題を見てみましょう:
『風の谷のナウシカ』 → Nausicaä of the Valley of the Wind
『天空の城ラピュタ』 → Castle in the Sky
『となりのトトロ』→ My Neighbor Totoro
『火垂るの墓』 → Grave of the Fireflies
『魔女の宅急便』 → Kiki's Delivery Service
『紅の豚』 → Porco Rosso(イタリア語)
『もののけ姫』 → Princess Mononoke
『千と千尋の神隠し』 → Spirited Away
『ハウルの動く城』 → Howl's Moving Castle
『コクリコ坂から』 → From Up On Poppy Hill
『崖の上のポニョ』 → Ponyo
『風立ちぬ』 → The Wind Rises
というわけで、今回のブログタイトルにもなっている質問の正解は、『千と千尋の神隠し』でした。
ところで、これらの英題を再び日本語に直訳したら、どれだけ変化をするのでしょうか?
やってみましょう:
Nausicaä of the Valley of the Wind → 『風の谷のナウシカ』
Castle in the Sky → 『空にある城』
My Neighbor Totoro → 『私の隣人トトロ』
Grave of the Fireflies → 『火垂るの墓』
Kiki's Delivery Service → 『キキの宅配業』
Porco Rosso(イタリア語) → 『紅の豚』
Princess Mononoke → 『もののけ姫』
Spirited Away → 『神隠し』
Howl's Moving Castle → 『ハウルの動く城』
From Up On Poppy Hill → 『ひなげし丘の上から』
Ponyo → 『ポニョ』
The Wind Rises → 『風が上昇する』
こうして見ると、邦題をそのまま直訳した英題もありますね。中でも面白いのが、『Nausicaä of the Valley of the Wind』――英語と日本語の語順が左右逆になっているだけで、全く同じです。
of the wind 「風の」
of the valley 「谷の」
Nausicaä 「ナウシカ」
ただし、英語は形容詞ではない限り、後ろから修飾(説明)をする言語なので、語順が日本語と逆になります。
「ナウシカ」――どこの人? 「谷の」――どの谷? 「風の」――つまり、 Nausicaä of the Valley of the Windとなるわけです。
『Porco Rosso』も訳語がイタリア語ですが、邦題と語順が逆なだけです。Porcoが「豚」、rossoが「赤」なので、「豚・赤い」で『紅の豚』になります。
『コクリコ坂から』が少しトリッキーですね。
「コクリコ」は英語ではなくフランス語で、Coquelicotと綴るそうです。そして、その意味は「ひなげし」――英語のpoppyも当然「ケシ」です。Hillは「坂」とも訳せますが、先生は個人的に「丘」の方がイメージ的にしっくりきます。
そしてイメージと言えば、だいぶ変わるのが『キキの宅配業』ではないでしょうか?
確かに映画の内容をうまく説明していますが、なんか、こう、『魔女の宅急便』にある音の軽やかさがないですね。『キキの宅配業』だと、コープのおばちゃんみたいなのを想像してしまうのは、先生だけでしょうか?
それにしても、なぜ「宅急便」が訳せなかったのでしょうかね?
実は「宅急便」はそもそもヤマト運輸の登録商標なのです。つまり、本来はヤマト運輸だけしか「宅急便」という言葉を使えません。他の運送業者は「宅配便」という表現を使っています。
ちょうど、「ウォシュレット」がTOTOの、「シャワートイレ」がINAX(LIXIL)の登録商標であるのと同じですね。一般名詞は「温水洗浄便座」とものすごく堅苦しい表現です。
話を「宅急便」に戻しますと、ジブリはこの登録商標を作品名に使うために、ヤマト運輸に『魔女の宅急便』のスポンサーになってもらったそうです。もともとは、小説の原作者が「宅急便」を登録商標だと知らずにタイトルに使ってしまったことから生じた問題だったようです。
それにしても、ヤマト運輸にとってはいい宣伝効果になったのではないでしょうか? 今でも『魔女の宅急便』が話題に上がれば、勝手にしかも広告費ゼロで商品名を広げてくれます。
(ただ、「宅急便」が一般名詞化し過ぎて、多くの人がヤマト運輸の登録商標だと知らないという問題も一方にはありますが(汗))
あと、個人的に知らなくてびっくりしたのが『風立ちぬ』!
これは先生の日本語力の問題なのですが、てっきり最後の「ぬ」は否定形だと思っていたので、「風が立たない」、つまり、「風が吹かない」という意味だと思っていました。なので、『The Wild Rises』の英題を見て、初めて逆の意味であることを知りました。
さて、邦題と英題が違うジブリ作品をピックアップして、邦題を無理やり英語に直訳すとどうなるかをやってみましょう:
『天空の城ラピュタ』 → Laputa: Castle in the Vault of Heaven
『となりのトトロ』 → Totoro Next to Me
『魔女の宅急便』 → The Witch’s Parcel Delivery
『紅の豚』 → The Red Pig
『千と千尋の神隠し』 → Sen and Chihiro Got Spirited Away
『コクリコ坂から』 → From the Poppy Slope
『崖の上のポニョ』 → Ponyo Up On the Cliff
『風立ちぬ』 → The Wind Blows
こうしてみると、やはり直訳よりも意訳の方がいい場合もあるみたいですね(汗)
特に『The Red Pig』なんてまさしく『赤い豚』という響きになります。思わず「金華ハムですか?」と突っ込みたくなります。
ちなみに、「天空の城」はcastle in the skyでも良いのですが、それだと単に「空の城」になってしまい、「天空」感が今一つ出ません。そこでin the vault of heavenと大胆に訳してみました。ここで使っているvaultは「アーチ状の天井」を意味していて、heavenは通常「天国」と訳しますが、ここでは「遥か高い空」を表現しているのです。どうですか? 少しは「天空」感が出たでしょうか?
『The Witch’s Parcel Delivery』のparcelは「小包」という意味です。うーん、これも正確な訳という意味では悪くないのですが、witchという表現だと、どうしても「老婆」を想像してしまいますね。主人公のキキの可愛さが伝わってきません。
ただ、『Ponyo up on the Cliff』は個人的に気にっています。なのに、なぜ単純に『Ponyo』だけなのでしょうか? 真相はわかりませんが、もしかしたら『From Up On Poppy Hill』とタイトルが若干かぶるので、そうしたのかもしれません。
そして、一番訳しづらかったのが『千と千尋の神隠し』!
なぜかと言うと、「神隠し」が名詞だからです。しかし、その訳語であるspirit awayは動詞。なので、ここはセンテンスにするしかありませんでした。ちなみに、
Sen and Chihiro were Spirited Away
(千と千尋は神隠しにあいました)
と、ここでbe動詞過去形のwereを使っても良かったのですが、「~された」というニュアンスを出すためにあえてget (got) を使ってみました。このbeとgetの文法的な違いを解説しようとすると、それだけでまた一つのブログエントリーになってしまうので、今日はここまで。
それにしても、こうして原題と海外でつけられたタイトルを見比べてみると面白いですね? 他にもたくさんあります。 例えば、ちょっと古いですが故ロビン・ウィリアムズの代表作である『いまを生きる』(1990)の原題をご存知ですか?
『Dead Poets Society』(死んだ詩人クラブ)
なんとも不気味な原題ですね(怖)
なんでこんな原題が『いまを生きる』に意訳されたのかは、次回のブログで。