2007年度法医学試験

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一通り解いてみて、講義資料を見ても分からなかったポイントをまとめておく。


解答の際には関西医科大学や産業医科大学の法医学教室を参考にした。




法医学なので「死」とか「死体」という言葉が多く出てくるが、ご了承いただきたい。










問6 高度に腐敗した死体の大腿部筋肉を試料としてアルコールの検査を行ったところ、エタノール濃度は2.2mg/gであり、n-プロパノール濃度は0.04mg/gであった。検出されたエタノールの評価として正しいのはどれか。


[解説]


腐敗によるエタノール濃度は、n-プロパノール濃度の20倍を超えることはない。20倍を超えた場合には、生前の飲酒に由来するものがあると考える。


2.2


--- = 55


0.04


故に、腐敗によるものと飲酒に由来するものが混在していると考えられる。








問7 解剖時に採取した検体の検査結果の推定で正しいのはどれか。




(1) 尿をアルカリ性としてハイドロサルファイトナトリウムを加えた時、青緑色を呈したので、青酸化合物中毒であると推定した。


(2) 血液を約100倍に希釈しハイドロサルファイトナトリウムを加えた時、血液の色が赤色のまま変化しなかったので、一酸化炭素中毒ではないと推定した。


(3) 血清コリンエステラーゼ活性を測定したところ、正常値の10%以下の活性であったので、パラコート中毒であると推定した。


(4) 胃内容を三角フラスコにとり酒石酸酸性として、硫酸銅溶液を湿したグアヤク試験紙をビン口にコルク栓で支えて懸垂して加湿した時、グアヤク試験紙が青くなったので硫化水素中毒と推定した。


(5) 胃内容の中に錠剤が認められたので、錠剤の一部を銅線に付着させ、無色の火炎中に挿入した時炎が緑色になったので、ブロム系催眠剤であると推定した。




[解説]




(1) 尿をアルカリ性にしてハイドロサルファイトナトリウムを加え、青緑色を呈した場合にはパラコート中毒を疑う。


(2) 希釈血液にハイドロサルファイトナトリウムを加えて色調に変化がないとき、血液中には①還元ヘモグロビンしかないか②多量の一酸化炭素ヘモグロビンがあるという二通りが考えられる。前者はあり得ないので、一酸化炭素中毒でないとは考えられない。


(3) パラコート中毒ではフリーラジカルによる組織障害が起こる。コリンエステラーゼ活性が低下するのは有機リン中毒などである。


(4) グアヤク試験紙を用いるシェーンバイン・パーゲンステッヘル法で検出できるのはシアン化合物である。


(5) その通り。緑色の炎色反応はブロム系薬物の特徴である。








問55 焼死体について正しいのはどれか。




(1) 火災時に生存していれば、血中CO-Hb濃度は40%以上となる。


(2) 焼身自殺者には喉頭浮腫が見られる。


(3) 焼身自殺の死因は喉頭痙攣である。


(4) 灯油による焼身自殺の死因は一酸化炭素中毒である。


(5) ガソリンによる焼身自殺者の血中CO-Hb濃度が5%であった。死因はケロシン中毒である。




[解説]




(1) とは限らない。死因による。一酸化炭素中毒で死亡すれば60%以上だが、火傷死では10%以下である。


(2) その通り。喉頭浮腫は気道熱傷の所見である。


(3) 喉頭痙攣は乾性溺水の場合に起こる。


(4) 灯油やガソリンをかぶっての焼身自殺の場合、死因の多くは酸欠かショックである。


(5) 上述の通り。なお、ガソリンにケロシンは含まれていない。ケロシンを含むのは灯油やジェット燃料である。












毒薬物の性質を問われている時には気分がのってくるのだが、「~で死亡した」とか「~で自殺した」みたいな問題文が続くと気が滅入ってくる…。