少しずつ変わっていく世界。
子どもは双子になっていた。
一方は自らの手元に、もう一方は敵に。
記憶を取り戻すためのキッカケとして、予言の書を残したりもした。
自らの息子が操る獣を記したりもした。
記憶は戻らなかったが、未来が少しずつ変わっていくキッカケにはなった。
それを繰り返した。
何度も、何度も。
すべての始まりから変えようとしたこともあった。
それを何度も、何度も繰り返した。
それでも、自分の理想に辿り着かなかった。
そればかりか、青年の精神はだんだん擦りきれるように理想を失っていった。
記憶は失っても、魂は覚えていたとでもいうのだろう。
おびただしい人間の戦争と憎悪。
変わらない結末に、もはや希望を抱く余地など見いだせなかった。
ならば、自分がすべてを支配する。
世界も、時間も、運命さえも。
そして繰り返す。
何度も、何度も、何度も。














「貴様らにはわかるまい。この俺の絶望も、憎悪も」
この思いがシャダムのものか、調停者のものか、判断は自他共に不可能であった。
同じような出来事を何度も、数十万年繰り返すなど想像では計れない。
「貴様らが勝つ歴史もあった。しかし、そこにあったのはシュラの繁栄と、その暴走による殺戮と破壊だ 」
時戒天帝が今まで見てきたように、人類はダイ・ゴーマの滅亡と引き換えに繁栄をした。
その裏には分かれた文化や言語、異なる経済や宗教などが発端となって引き起こされた戦争が起こり続けている。
「貴様らの勝利は何ももたらさん。この俺が管理し、2度とそんな惨事が起こらぬように治める」
ダイレンジャーは返す言葉を失った。
今から先すべてが、時戒天帝にとっては否定すべき″過去″の一つでしかないのだ。
ビジョンですら、吐き気を抱いておかしくない。
押し潰される。
「それともあるのか?貴様らに、この未来を変える力が、世界を背負えるのか?」
答えれるものなどいるはずがない。
あれだけ裏打ちされたものを、否定できるものなどない。
「…………ぇ」
「ん?」
齊天大聖は白虎真剣を構えた。
「うるせぇんだよッ!」
一刀。
時戒天帝より火花が散る。
「アンタが何を見てきたかわかった…………アンタの苦しみを僕達じゃ受けきれない…………」
「だから、この俺が…………」  
「そんなの知ったこっちゃないんだよ!」
齊天大聖は周囲の気を、自らに集めていく。
「どれだけの時間を見てきて、確かに未来もそうとわかるかもしれない。でも…………そうじゃないかもしれない」
何百何千の果てに、その一があるかもしれない。
今まで同じでも、今度は違うかもしれない。
「記憶は無くても、僕達だって繰り返してきた。アンタと同じだけ、戦ってきた。それでも、僕らは諦めなかった」
例え繰り返すだけの時間でも、その先に未来を見ていた。
数多の歴史の自分たちも、今の自分たちも、それは同じだ。
平和な世界と、自由な明日を。
「ただアンタの頭だけで諦めた理屈で、僕達の明日を奪われてたまるか!」
例え1%でも、諦めない限り可能性はある。
それを信じるだけの強さを、齊天大聖は手に入れてきたのだ。
そう、この世界の未来を決めるのは過去の亡霊などではない。
″今″を生きる、自分達なのだ。
「還してもらうぞ…………未来を」
そう言うと、齊天大聖は周囲の気を一気に解き放った。
目眩まし。
それだけのための大気を振動させる。
そこを齊天大聖は躰を回転させながら、連続で斬っていく。
まるで剣舞のように美しい軌道を描いていく。
「どぉ…………」
「そうだ。コウ、私達は自分達で未来を掴むのだ!」
続けざまに倶利伽羅の一閃が振るう。
覚悟が出来た齊天大聖と無間覇王は、確実に時戒天帝を追い詰めている。
「おのれぇ……」
時戒天帝は神力波を放つ。
2人は身構えるが、それを後方からの光線が相殺した。
「!?」
振り向くと、そこには″天宝来来の玉″を掲げたダイレンジャーがいた。
何か出来ることはないか。
そこで、龍連者は″天宝来来の玉″に目をつけたのだ。
大自然に眠る気力を″天宝来来の玉″に集め、全員の玉を合わせれば時戒天帝の支配力を超える。
見事、″天宝来来の玉″からの気功波は有効打になりえるのだ。
「シャダム、覚悟しろ!」
″天宝来来の玉″から放たれる気功波は援護射撃としては過剰なまでの威力であり、時戒天帝を圧していく。
更には、その隙間を狙い齊天大聖達は攻勢に乗り出す。
「しゃらァッ!」
「ずあァッ!」
神剣による波状斬撃が、多くの火花を散らす。
「く……」
遂に後ずさる時戒天帝。
ハッ、と気がつくと胸にある″巫霊太極の玉璽″が欠けている事が判明した。
金色が剥がれ、少しヒビが入っている。
「馬鹿な…………おのれ…………」
『っだぁぁァァッ!!』
″吼牙白帝閃″と″邪牙魔皇衝″を同時に放ち、時戒天帝の攻撃と衝突する。
そこに″天宝来来の玉″の攻撃も加わと、ダイレンジャー側の光が巨大になっていく。
「馬鹿な…………ぐぅぅおぉぉぉォォッ!!」
アーカーシャを砕き、時戒天帝を弾き飛ばした光波は壁を貫通した。
内部かつ大神龍の攻撃で消耗してるとはいえ、今まででも類をみない威力だ。
そして、外の様子が見える。
雷が激しい。
雲はないが、ただの雷ではない。
周囲の気が齊天大聖の覚醒によって、暴走しているのである。
「これが地球全域に拡がる までにシャダムを斃さないと…………おわっ…………」
激しい揺れ。
大神龍が大詰めとばかりに力を出しているのだろう。
「ヤバいぜ…………」
「あと少しだ。父上の″巫霊太極の玉璽″を摘出、或いは破壊すればな」