ゴーマ宮の震えは激しくなった。
齊天大聖の気を感じ、大神龍がより攻撃を激しく行っているのだ。
核の直撃にも耐える構造であるが、その終焉は間近に迫っているのは明白であった。
大神龍を宇宙に還す方法は、時戒天帝と決着をつける以外にはない。
「我が息子達がこぞって、立ち向かってくるとはなぁッ!」
特大の神力波が放たれる。
それを齊天大聖の澄みきった神力で相殺し、無間覇王がその間を走る。
「父上、お覚悟をッ!」
倶利伽羅に秘められた地獄の鍵。
それを解き放ち、漆黒のオーラが出現した。
「解錠・無間」
第八にして最下層の地獄・無間。
糸で石を少しずつ擦り、石が消えるまで出られないという有限ゆえの悪夢。
「″三千世界″ッ!!」
無間覇王の全力が垣間見える闇。
その闇が時戒天帝を包み、塗りつぶしたように空間そのものが黒く染まる。
「この技はすべてを闇に包み、感覚をすべて奪い、自分が生きてるか死んでいるかがわからなくなり、やがては滅びるもの」
まさに地獄と呼べる、冷酷無比な技。
「とはいえ、神の身には効果は少ない。…………″三千大千世界″ッ!!」
同じだけの闇を、再び斬撃として放つ無間覇王。
″三千世界″によって生まれた闇が、それと同化していく。
それを契機に、闇は収束していく。
闇の消滅と同時に、技を受けた者も消滅するのである。
(どうだ…………?)
闇が晴れた瞬間、そこに時戒天帝はいない。
しかし、空間に紅い裂け目がある。
齊天大聖は裂け目に向かい、気功波を放つ。
すると、そこから時戒天帝が出現したのであった。
「今のは普通ならば瞬殺できるだろう。だが、俺は時を破戒する。どこにでも、存在するのだ」
時戒天帝となった今、時間のどこにでも存在する。
″三千世界″のような空間崩壊技の回避方法は幾らでもあるようだ。
斃すには、直接攻撃しかない。
齊天大聖と無間覇王は剣で直接斬りかかった。
白虎真剣と倶利伽羅、アーカーシャという神剣が打ち合い、その度に衝撃波が発生する。
同格の存在になってなお、力強い一撃は齊天大聖を圧す。
「く…………」
刃がダイレンスーツに触れ、火花を散らす。
そこへ無間覇王が向かうも、紅いオーラで動きを封じられてしまう。
「何………… 」
「ッツァッ!」
「うわッ!」
アーカーシャによる斬撃が無間覇王を空に回せる。
「阿古丸!」
そう言った後、時戒天帝はアーカーシャを床に突き刺す。
すると、そこから″自在縄″が大量に現れ、齊天大聖と無間覇王を縛りつけてしまう。
「!!?」
そのまま縛りあげられ、両者は壁に激突してしまう。
「う…………」
「ぐ…………」
「…………ヌンッ!!」
更に、神力が放射状に拡がり、他のダイレンジャーも含めてダメージを受けてしまう。
『うわあぁァッ!!』
倒れるダイレンジャー。
時戒天帝は高らかに笑う。
「ハッハッハッ!!。遂にこの時が来たのだ…………すべての時と、世界を支配する瞬間…………この俺が絶対者なのだ!」
「シャダム…………」
「ここまで数十万年を過ごした…………永く、永く…………ただ永かった……」
調停者として、時を観測し、繰り返してきた。
その悲願、ようやく手に入れる力がある。
「お前に地球を好きにさせてたまるか…………俺達は…………」
龍連者はそうはさせまいと反論を言う。
「″俺達は人々の平和と、自由を守る″か?」
「え?」
「これで何百回聞いたかわからん…………」
うって変わり、口調が静かになった。
「どうせだ。貴様らにすべてを見せてやろう…………」
時戒天帝は自らの気に記憶を含ませ、拡げた。










古い時代、一つの国があった。
青年は帝の、妾の子として生まれた。
腹違いの兄。すなわち本妻の子である皇子は、自分にはないすべてを持っていた。
別に嫉妬していたわけではない。妾の子、弟として生まれたからには帝となる兄を支える。
彼はそう思っていた。
父が死に、叔父が新たな帝になった。
その時、彼の母は死んだ。
暗殺されたのだ。
国という中では粛清というべきかもしれない。
明らかに新たな帝の手のもので、その権威を断固とするためのものだ。
青年はそこに恨みを抱かなかった。
力なくば死ぬ。
青年はそう考え、自ら軍属となり、力を付けた。
青年の力を恐れ、帝も彼を粛清しようとは考えなくなった。
目立った反抗もせず、上手く利用しようという思考に落ち着く。
青年もまた、軍の中で力を拡大させ、そんな粛清や血ばかりの国を変えようと決意していた。
そんな中、別の民族との対立が生じた。
青年はチャンスだと思った。
帝を唆し、侵略に乗り出させたのである。
この戦いに乗じて、帝を誅し、人望溢れる兄を新たな帝にする。
国を正すための最後の血だ。
未来の数万のために、今の千の犠牲は仕方ないと青年は考えた。
しかし兄は出奔、帝は自ら誅したものの戦争は泥沼化した。
結果、国は衰退して滅んでしまった。
こんなはずでは無かった。
青年は後悔したまま、6000年もの間を孤独に過ごした。
悠久の時を経て、国を再興しようという動きがあった。
青年は当然参加する。
新たな帝に着こうとするが、兄の存在が邪魔をしていた。
そんな中、青年は女性と出会う。
その女性は、かつて争った民族の末裔。
6000年を生き、初めて心から愛した。
共に次代を担うべく、夫婦となった。
けれども、彼女も彼の元を去る。
国の掟が立ちはだかったのであった。
追いかける青年。
だが、青年は彼女を逃がそうとする彼女の仲間の凶刃に倒れる。
意識が遠のく中、彼は諦めまいと手を伸ばす。
その先には何もないと、あるはずがないと悟りながらも。
そして、彼は眼を覚ます。
必然でもなく、偶然でもない。
ただ、彼はそうなってしまった。
調停者として覚醒したのである。
血肉は泥に変わり、その意識を伏せて。
現代の大連者との戦い。
戦いは平行線。
世代を越えての戦いでも決着はつかない。
自らの息子を国に引き入れ、敗北寸前まで追い込んだ。
こんなはずでは無かった。
わかりあえる、自由と平和が共存する世界。
そして、敵によって時間を逆行させられた。
そこで調停者の意識は覚醒した。
青年の意識とほぼ同化しており、なぜ起きたかはわからない。
時を巻き戻す力を学習し、青年はそれを行使した。
何度も、何度も、時間を繰り返した。
理想の結末に至るために。
その度に記憶が消えたが、どちらかが滅びる・或いは自らの死が近づく事で調停者としての記憶を取り戻した。
そして繰り返した。
何度も、何度も。