「生命を操る力、か」
刀剣元帥が納得した時、由貴はホウオウレンジャーへと転身していた。
今までのホウオウレンジャーとは明らかに違う。
「そなたの生命、絶つには首をハネる以外にはあるまい」
ホウオウレンジャーは理解していた。
どうしたら死ぬか、どう生き返ったか。
「今のあたしでも、貴方には勝てない」
どんなに再生できても、その差は埋まらない。
それに、どう死ぬかも刀剣元帥は理解している。
「だから、死なないためにこの力を使う」
躊躇っていた星纏装。
対シャダムにおいて必要だと思っていたが、使わなければ窮地を脱せない。
ブレスレットを合わし、蒼い光がホウオウレンジャーを包む。
その後には、青龍を模した鎧を纏ったシン・ホウオウがいたのであった。
「ヌンッ!」
大寒波より放たれる斬撃。床を抉りながら向かってくる。
シン・ホウオウは微動だにせず、当たったら斬撃は鎧にある水に吸い込まれるように消滅した。
「何!?」
どんな攻撃も無効化する水で、ダメージを気にする必要はない。
シン・ホウオウは斬り込んでいく。
限られた時間の中での、絶大の力。
今までは当たっても通じなかった刃が、面白いくらいに刀剣元帥を斬っていく。
「ぐおッ!」
鋼の肉体から噴き出す血。
シン・ホウオウは止まり、気を解放していく。
「時間がないから、一気に決める」
青龍月刀を回転させる。
それは大気にある気と、水分を合わせた渦を発生させる。
その渦は龍の型となり、シン・ホウオウの周りを旋回していく。
「…………見事。ならばワシも、持てる最大の力をぶつけるまで」
大寒波に妖力が注がれる。
初代の頃からの元老院。
即ち、ゴーマの歴史そのものである刀剣元帥は、山のような巨大な妖力の剣を作り出した。
「″万丈古墳首塚″」
あらゆる剣の始まりが生み出した剣。
対してシン・ホウオウは迷うことなく、回転を活かしたまま剣先を刀剣元帥へと向けた。
「鳴水星・″龍水之閃(りゅうすいのひらめき)″」
集まった水に、気が含まれていく。
それが水と交わり、″木″に含まれる雷を発生させる。
水を刺激させ、擬似的な水素核爆発を刀身の周りで起こした。
水より生まれた、滅びの焔。
龍のようなオーラが発生し、シン・ホウオウを包んでいく。
「その太刀、まるで龍の鰓の如し。いや、そなたはもしや、″アギト″になったということか」
「アギ…………ト?」
「…………この戦いの果てに答えは得られよう」
迷いや戸惑いが残る。
それを振り切り、今は前にいる敵を斃すまで。
残りは10秒。
シン・ホウオウは走り、刀を振りおろす。
手応え。
刀剣元帥の肉体に、超高熱が注がれていく。
鋼も、肉も、細胞をも滅する水から生まれた焔が古豪を灼いていく。
(勝った…………)
星纏装が解除され、ホウオウレンジャーは刃を引く。
「!?」
違う。
刀剣元帥は自分より数段上の剣士だ。
振り遅れるなどありえない。
あの大技を無効化しつつ、″龍水之閃″で斬るはずだったのだ。
刀を引き抜き、無防備な状態で上を見る。
そこには、巨大な刃が待ち構えていた。
「………ハッ!」
死中に活を求めたわけではない。
ただ死を悟り、相手を斃すために、そのためだけにわざと受けたのだ。
すべてはこれのために。
相討ちを狙っていた。
″万丈古墳首塚″は刀剣元帥がダオス文明が発祥した8000年前から培ったものの極み、すべてを注いだ剣であった。
「さらば……」
全身が寒気を発した。
これは死の気配。
幾ら再生できようと、大元であるホウオウレンジャーの意識…………つまりは脳を断たれては死に繋がる。
振りおろされた刃が、眼前へと迫る。
「…………!」
生きる。
生きたい。
ホウオウレンジャーは前へと跳んだ
火花。
その直後、面のマスクが3分の1は割れて飛び散った。
刃は強固な床に地割れの如き、痕を残す。
蒼色に光る瞳を顕にしたホウオウレンジャーは、刀剣元帥に密着していた。
懐に飛び込めば刃を受けることはない。
逆に、ホウオウレンジャーは青龍月刀を空かさずに引き、勢いよく突き刺した。
「ぐ…………」
突き刺した箇所は、″龍水之閃″を打ち込んだ場所。
勝つためにはここを再び攻撃するしかない。
「″気空龍翔…………″」
青龍月刀に水が集まっていく。
刀身に閉じ込めるが如く、水は凝縮されている。
刀剣元帥は悟った。
恐怖を抱えながらの最善の回避策。
同時に大胆な逆転の方法を取る勇気。
永く君臨していた、一つの時代が終わる。
「…………見事」
「″鉄砲水″ッ!!」
零距離、しかも内部からダメージのある箇所への追い討ち。
満々と溜まった水が解放され、刀剣元帥の脇腹を抉りとった。
「ぐ…………」
大寒波を落とし、刀剣元帥は後退りしと膝を地につける。
一方で、転身が解けた由貴も座り込んでしまった。
「はぁ……はぁ……」
「勝者もまた、地につく…………いかんな。堂々と立ち、敗者を看取れ、娘」
自分の流儀を言われても困る。
それに、一度自分は殺された。
勝ったのも実力ではない。
「そなたの考えるのはわかる。だが、それを含めてそなたの勝利ぞ」
「……あの…………」
「わかっておる。死ぬ前に教えよう。そなたは″アギト″。シュラから進化し、我らと同等の力を有す禁忌の種族よ」
アギト。それが、覚醒者と呼ばれたものの名前。
「その名を口にするのも禁じられた。極僅かに、だが確かに生まれるのだ。そして、殺した」
「え…………」
「人たる者が、人ならざる力を得た。それはダイとゴーマの支配を揺るがすからだ…………そろそろ限界よな」
刀剣元帥は満足であった。
戦い、新時代の剣士に敗れ、死ぬ。
何と華々しい最期か。
「そなたはこれから苦しむであろう。だが、ワシを喰らって生きた命…………無駄にするなよ」
「…………はい」
覚悟とはいえないかもしれない。
助かるにはそれしかなかったから。
ただ、自分は人間ではなくなったという事実だけは飲み込めていた。
理解は出来てなくとも、その事実だけは。
「最期に……そなたの名は…………」
「…………由貴」
「誠、良き死合であった。由貴よ、さらば…………」
そのまま、刀剣元帥は動かなくなった。
武人でありすぎた彼は、死に様もまたそれを感じさせた。
由貴もまた、″愉悦″を充満させている。
すべてを出しきり、勝った。生きている実感を、肌が味わっている。
宮廷のひんやりした空気も、漂う血の匂いも、由貴には生への祝福とさえ感じれたのであった。
「真ちゃん」
「う、うん……」
真司は眼前で起こった出来事を整理出来なかった。
姉の能力も、表現する知識も言葉も、まだ持ち合わせていない。
ただ、姉が凄かったとしか言いようがない。
「真ちゃんは脱出して」
「え?。やだよ、オレも姉ちゃんと戦う!」
「ダメだよ。傷は治したけど、体力までは戻ってないから」
有無を言わさず、由貴はその場から去っていく。
真司は由貴の背中が、自分が見ている以上に遠のいているような気がしていた。
その理由が、恐らくは自分の考えるより深いことに気づかないまま。
刀剣元帥が納得した時、由貴はホウオウレンジャーへと転身していた。
今までのホウオウレンジャーとは明らかに違う。
「そなたの生命、絶つには首をハネる以外にはあるまい」
ホウオウレンジャーは理解していた。
どうしたら死ぬか、どう生き返ったか。
「今のあたしでも、貴方には勝てない」
どんなに再生できても、その差は埋まらない。
それに、どう死ぬかも刀剣元帥は理解している。
「だから、死なないためにこの力を使う」
躊躇っていた星纏装。
対シャダムにおいて必要だと思っていたが、使わなければ窮地を脱せない。
ブレスレットを合わし、蒼い光がホウオウレンジャーを包む。
その後には、青龍を模した鎧を纏ったシン・ホウオウがいたのであった。
「ヌンッ!」
大寒波より放たれる斬撃。床を抉りながら向かってくる。
シン・ホウオウは微動だにせず、当たったら斬撃は鎧にある水に吸い込まれるように消滅した。
「何!?」
どんな攻撃も無効化する水で、ダメージを気にする必要はない。
シン・ホウオウは斬り込んでいく。
限られた時間の中での、絶大の力。
今までは当たっても通じなかった刃が、面白いくらいに刀剣元帥を斬っていく。
「ぐおッ!」
鋼の肉体から噴き出す血。
シン・ホウオウは止まり、気を解放していく。
「時間がないから、一気に決める」
青龍月刀を回転させる。
それは大気にある気と、水分を合わせた渦を発生させる。
その渦は龍の型となり、シン・ホウオウの周りを旋回していく。
「…………見事。ならばワシも、持てる最大の力をぶつけるまで」
大寒波に妖力が注がれる。
初代の頃からの元老院。
即ち、ゴーマの歴史そのものである刀剣元帥は、山のような巨大な妖力の剣を作り出した。
「″万丈古墳首塚″」
あらゆる剣の始まりが生み出した剣。
対してシン・ホウオウは迷うことなく、回転を活かしたまま剣先を刀剣元帥へと向けた。
「鳴水星・″龍水之閃(りゅうすいのひらめき)″」
集まった水に、気が含まれていく。
それが水と交わり、″木″に含まれる雷を発生させる。
水を刺激させ、擬似的な水素核爆発を刀身の周りで起こした。
水より生まれた、滅びの焔。
龍のようなオーラが発生し、シン・ホウオウを包んでいく。
「その太刀、まるで龍の鰓の如し。いや、そなたはもしや、″アギト″になったということか」
「アギ…………ト?」
「…………この戦いの果てに答えは得られよう」
迷いや戸惑いが残る。
それを振り切り、今は前にいる敵を斃すまで。
残りは10秒。
シン・ホウオウは走り、刀を振りおろす。
手応え。
刀剣元帥の肉体に、超高熱が注がれていく。
鋼も、肉も、細胞をも滅する水から生まれた焔が古豪を灼いていく。
(勝った…………)
星纏装が解除され、ホウオウレンジャーは刃を引く。
「!?」
違う。
刀剣元帥は自分より数段上の剣士だ。
振り遅れるなどありえない。
あの大技を無効化しつつ、″龍水之閃″で斬るはずだったのだ。
刀を引き抜き、無防備な状態で上を見る。
そこには、巨大な刃が待ち構えていた。
「………ハッ!」
死中に活を求めたわけではない。
ただ死を悟り、相手を斃すために、そのためだけにわざと受けたのだ。
すべてはこれのために。
相討ちを狙っていた。
″万丈古墳首塚″は刀剣元帥がダオス文明が発祥した8000年前から培ったものの極み、すべてを注いだ剣であった。
「さらば……」
全身が寒気を発した。
これは死の気配。
幾ら再生できようと、大元であるホウオウレンジャーの意識…………つまりは脳を断たれては死に繋がる。
振りおろされた刃が、眼前へと迫る。
「…………!」
生きる。
生きたい。
ホウオウレンジャーは前へと跳んだ
火花。
その直後、面のマスクが3分の1は割れて飛び散った。
刃は強固な床に地割れの如き、痕を残す。
蒼色に光る瞳を顕にしたホウオウレンジャーは、刀剣元帥に密着していた。
懐に飛び込めば刃を受けることはない。
逆に、ホウオウレンジャーは青龍月刀を空かさずに引き、勢いよく突き刺した。
「ぐ…………」
突き刺した箇所は、″龍水之閃″を打ち込んだ場所。
勝つためにはここを再び攻撃するしかない。
「″気空龍翔…………″」
青龍月刀に水が集まっていく。
刀身に閉じ込めるが如く、水は凝縮されている。
刀剣元帥は悟った。
恐怖を抱えながらの最善の回避策。
同時に大胆な逆転の方法を取る勇気。
永く君臨していた、一つの時代が終わる。
「…………見事」
「″鉄砲水″ッ!!」
零距離、しかも内部からダメージのある箇所への追い討ち。
満々と溜まった水が解放され、刀剣元帥の脇腹を抉りとった。
「ぐ…………」
大寒波を落とし、刀剣元帥は後退りしと膝を地につける。
一方で、転身が解けた由貴も座り込んでしまった。
「はぁ……はぁ……」
「勝者もまた、地につく…………いかんな。堂々と立ち、敗者を看取れ、娘」
自分の流儀を言われても困る。
それに、一度自分は殺された。
勝ったのも実力ではない。
「そなたの考えるのはわかる。だが、それを含めてそなたの勝利ぞ」
「……あの…………」
「わかっておる。死ぬ前に教えよう。そなたは″アギト″。シュラから進化し、我らと同等の力を有す禁忌の種族よ」
アギト。それが、覚醒者と呼ばれたものの名前。
「その名を口にするのも禁じられた。極僅かに、だが確かに生まれるのだ。そして、殺した」
「え…………」
「人たる者が、人ならざる力を得た。それはダイとゴーマの支配を揺るがすからだ…………そろそろ限界よな」
刀剣元帥は満足であった。
戦い、新時代の剣士に敗れ、死ぬ。
何と華々しい最期か。
「そなたはこれから苦しむであろう。だが、ワシを喰らって生きた命…………無駄にするなよ」
「…………はい」
覚悟とはいえないかもしれない。
助かるにはそれしかなかったから。
ただ、自分は人間ではなくなったという事実だけは飲み込めていた。
理解は出来てなくとも、その事実だけは。
「最期に……そなたの名は…………」
「…………由貴」
「誠、良き死合であった。由貴よ、さらば…………」
そのまま、刀剣元帥は動かなくなった。
武人でありすぎた彼は、死に様もまたそれを感じさせた。
由貴もまた、″愉悦″を充満させている。
すべてを出しきり、勝った。生きている実感を、肌が味わっている。
宮廷のひんやりした空気も、漂う血の匂いも、由貴には生への祝福とさえ感じれたのであった。
「真ちゃん」
「う、うん……」
真司は眼前で起こった出来事を整理出来なかった。
姉の能力も、表現する知識も言葉も、まだ持ち合わせていない。
ただ、姉が凄かったとしか言いようがない。
「真ちゃんは脱出して」
「え?。やだよ、オレも姉ちゃんと戦う!」
「ダメだよ。傷は治したけど、体力までは戻ってないから」
有無を言わさず、由貴はその場から去っていく。
真司は由貴の背中が、自分が見ている以上に遠のいているような気がしていた。
その理由が、恐らくは自分の考えるより深いことに気づかないまま。