血が拡がっていく。
心臓が貫かれ、冷たい躰から抜けているのだ。
「……立つな子童」
刀剣元帥は、小さな少年がフラフラと向かってくるのを見ていた。
「来たら、斬らねばならなくなる」
「うるぜ…………よくも姉ちゃんを……」
泣きながら、真司は刺さっている剣を抜いて持ち、歩いてくる。
許せない。
それが伝わってくる。
「ぐ…………あぅ……」
力尽きた。
真司は転び、立つどころか息をすることすら辛い。
由貴より尚幼い躰では仕方ないのだ。
「そなたの姉は強かった。ゆえに、殺めなければならなかった」
危険な強さだった。
愉悦と正義感が混在し、成長し続ける剣士。
殺めるべき価値が、由貴にはあった。
「そなたがワシを憎むなら、それでいい。それを生きる力にし、強くなれ」
シャダムの力が強まっている。
刺し違えることもなく、自分は死ぬだろう。
けれど、この少年がいつか強くなり、シャダムに挑むのも一興。
「そなただけはワシが逃がし…………」










ーーー聞こえますか?










(誰?)







ーーー私は王青龍。お久しぶりです







由貴は気がつくと川辺にいた。
あの世。
一度死んだことのある由貴はピンときた。
「そうか。あたし、また死んだんだ」
「ご理解が早い」
目の前にいるのは、自身の気伝獣である王青龍の精神体。
奥義を身につける際に逢ったことがある。
「生きたいですか?」
ここは三途の川とでも言わんばかりの場所。
「生きれるの?。…………選べるんだね」
悲しい表情をした王青龍。
「ええ。でも、そのための代償は死ぬより辛いかもしれません。それでも生きたいですか?」
青龍姫はあるものを差し出す。
苗木。
小さな苗木だ。
「あなたは輪廻を越え、再び私と巡り会いました」
この世に誕生した気伝獣の始祖たる白蛇王。
それが変わり、王青龍となった。
どこかの輪廻で、由貴は彼女のパートナーだった。
由貴が望んだものを、彼女は与えた。
彼女が叶えたものに、由貴は応えた。
それはいつでも…………死と、再生の選択。
「選べば戻れません。命の理を越えるということは………… 」
「私は生きたい。それに…………勝ちたいの」
誰かを悲しませる自分の死。
誰かが悲しむ、誰かの死。
それがイヤで、由貴はそれを望んだ。
そして、戦うことでしかそうできないなら、そうすると決めたのだ。
選べるのだから、それを選ぶだけの力があるのなら。
「己を明鏡止水の心で視る。それを忘れないでください」
青龍姫はそう言うと、由貴は苗木を受け取った。
それを付近の、小さな土の場に植える。
川の水が通るのか、水分を吸って育っていく。
その苗木は大樹へと成長し、いつしか川の周りには緑が生い茂る森林へと変わった。
由貴はそれを、生と死の本質だと理解する。
生の中に死はある。
だが、死の周りには生が溢れている。
死を超えた先の、新たな生ーーーーー




「これが、私の″本当″の力」













「何だ…………あれは……」
刀剣元帥は眼を疑った。
由貴が立っている。
剣はまだ心臓に刺さっており、確かに貫いているまま。
「…………」
由貴の虚ろの眼が蒼く光る。
同時に、結晶のようなものが躰から生えていく。
それが刀を侵食していく。
やがて、その結晶が砕け散る。
そこには、刀はなかった。
乳房に刻まれたはずの傷さえない。
蒼いオーラに包まれた由貴は傷を癒していく。
折れた青龍月刀を拾い、それを結晶が包む。
意識的にしているのは、明らかであった。
同じように結晶が砕け、後には修復された青龍月刀があった。
まるで、喰った刀の力を注いだような。
由貴は刀剣元帥の前を素通りし、真司に触れる。
すると、真司の躰を結晶が包んでいく。
そこで刀剣元帥は理解した。
結晶に見えたのは鱗だ。
青龍の鱗…………。
透き通る、まるで流水の如く清廉さが美しい結晶に見せているのだ。
鱗が落ち、真司の姿に戻る。
本人も驚いた。傷がない。
痛みも少ない。
「姉ちゃん?」
もはや困惑となった。
確かに、自分と姉は繋がった。
真司には表す言葉は持ち合わさなかったが、刀剣元帥には一つの解答があった。






ーーーーー同化









鱗を介して、由貴は対象と同化したのだ。
生命を癒し、時には存在を喰らう。
「…………青龍は五行においては″木″であるというが……」
″木″。即ち、植物ないしは生命の象徴。
考えてみれば、小さき大連者は宿星ではない。
地球という、生命の躍動から派生したものだ。
その″水″が副次的なものだとしたらどうだ?。
蛇は進化し、蛟となる。
蛟は神化し、龍となる。
龍は水神としての側面がある。
ならば、由貴の力の本質はーーーーー