己の内にあるもの。
父から継いだ魂。
母が育んでくれた躰。
宿敵と競った拳。
師が伝えた志。
仲間との絆。
そして、夢。
何一つ、失ってはならない。
「…………なぜ、なぜ立てる?」
満身創痍。
もはや虫の息となった
「ダイレンジャーは………敗けちゃ…ダメなん…………だよ」
自分を奮い立たせるのは、己自身。
この巨悪を討ち果たすため、亮は拳を出す。
「く、ぬぅぅ……」
一方のダイヤモンド大司教は不快感があった。
無様なゴミが、自らを凝視する。
不快この上ない。
「塵芥と…………なるがいいッ!」
再び、極太の光線が放たれる。
死体すら残さずに消してやろうという怒り。
亮は憎悪含む光を前に、右拳を一度引く。
「天火星・禁奥義…………″天衣無縫″ッ!!」
突きだした拳。
同時に、光線が破裂した。
その先には、龍連者が立っている。
「何!?」
あの満身創痍の状態で、あれをかき消す程の力を出せるはずがない。
いや、そもそも万全かつ全力であっても、上回ることなどないはず。
「いったい、何をしたのだ!?…………ん?」
よく視ると、龍連者の何かが違う。
そう、色だ。
龍連者の色が、赤から更に深まり、深紅となっている。
焔の如き激しいオーラを纏い、まさに鬼神にも見える。
「″天衣無縫″。俺がお前に勝つための、唯一の方法だ」
天火星・禁奥義″天衣無縫 ″とは、自分の体力・気力を攻撃力に変換し、爆発的に上昇させる。
それと対価に発動後はその反動を受けるという、まさに禁忌の諸刃という奥義である。
「私を超えることなどできぬぅッ!」
ダイヤモンド大司教による光線。
それを弾き、龍連者は拳で殴る。
バキッという音と共にダイヤモンド大司教はよろめいた。
数千年振りの痛み。
硬質の皮膚が、割れている。
「貴様ぁッ!」
全身からの光線。
龍連者は腕を組んで受ける。
防御力は上がっていないばかりか、反動によるダメージに反映されてしまう。
ならば、攻撃力で押し切る以外にはない。
「俺はお前に勝ぁぁぁぁつッ!!」
「調子に乗るなぁ、小僧ッ!」
レーザーソードを両腕から発生させ、龍連者へ振り下ろす。
拳を当て、弾く。
痛い。だが、斬れないだけマシだ。
命を燃やして、命を繋ぐ。
「ハイィィィッッ!!」
手刀が左腕に突き刺さる。
ガラスのようにバリバリと割れるような音を出し、それが刺さったように血を噴き出す。
「うぐ…………ずあぁッ!」
レーザーソードが龍連者の頭へと振られる。
バシン、とマスクが割れていく。
右眼が露出し、血が頭から垂れている。
「お前が強かろうが、俺はお前を超えていくぞォッ!」
手刀で貫いた左腕をそのまま引きちぎり、拳で思いっきり殴る。
一つ眼の部分を拳で叩く。
眼が結晶で傷つき、ダイヤモンド大司教は後ずさる。
龍連者は改めて腕を引き、息を吐く。
ダイヤモンド大司教は全身から光線を放つが、龍連者は構わず構え、拳を突き出す。
これで終わりにする。
「天火星・秘技…………″流星閃光″ッ!!」
深紅に光る拳が、怒濤の勢いで向かう。
「ハイハイハイハイハイハイ…………」
止まらない。
止まったら、もう拳は振れなくなる。
倒れるまで、大司教が倒れるまで。
倒れろ、倒れろ。
次々と潰し、今は胸部へと連打している。
倒れろ、倒れろ。
「うおおぉぉぉぉああぁぁぁぁァァッ!ハイィィィッ!!!」
ダイヤモンド大司教が浮き上がった。
転身が解け、亮はその姿勢のまま固まった。
倒れることすら、今の自分にはできない。
完全に硬直し、ダイヤモンド大司教を視る。
動かない。人間態に戻っているが、死んだのだろうか。
「終わった…………」
安堵する亮。
それでも、躰の硬直は直らない。
「参ったな……何とか……」
「小僧!」
「!!?」
司馬懿は立ち上がり、手には妖力波を作り出していた。
亮はもはや反応して避ける事も出来ない。
「くそ…………」
「認めぬ……認めぬぞ貴様に殺されるのは…………」
司馬懿は自ら、妖力波を胸部へと撃ち込む。
例え亮を殺しても、助からないダメージ。
ならば、と自決を選んだのであった。
「ぐふ…………言っておくが、貴様に未来などない……」
「……」
「貴様はいずれ、黒く染まり…………運命の子と対峙するだろう……」
運命の子?
亮は、その人物を一瞬で思い浮かべる事が出来た。
あまりにも近い存在なのだから。
「その祝福、貴様にあらんこと…………」
ドサッ、という鈍い音。
司馬懿は倒れた。
亮もまた、勝利を確信して倒れた。
告げられた未来も、勝利の余韻も、何もない。
限界を迎えた躰は、もう動かなかった。
半死半生に、更に追い打ちをかけたのだ。
存命してることこそ、奇跡かもしれない。
「みんな…………」