人気のない秋葉原。
流動して入ってくるはずの人間も、異様な光景を見て逃げ出している。
または、気まぐれに飛んできた気功波の餌食になるか。
いずれにせよ、人智を越えた領域には、その力を持つ者しかいない。
バリィンッ、というガラスの割れる音。それの前後に連続する銃声。
ガネーシャのパオンライフルがデーヴァを狙う。
弾は捉えているが、気力で軌道を反らし、四方へと飛び交っている。
「うらあぁぁぁッ!」
ワイバーンが巨大なチャクラム・リンドブルムによる近接戦闘を試みる。
大回しで隙が多く、デーヴァは軽く避けている。
「どうした?疲れるだけだぞ」
「油断大敵!」
「?」
横から割り込んできたのはマカラだった。
鰐型強化アーム・カプリコーンでデーヴァへと打撃を加える。
怯むデーヴァ。そこへ、回転を加えた勢いで、リンドブルムの斬撃がくる。
「ムッ」
畳み掛けられるのはマズい、そう判断したデーヴァは妖力を身を包むオーラとして発する。
オーラの力で飛ばされる2人。後に解除し、オーラに使っていた妖力を球として圧縮する。
「さぁて、どう受ける?」
妖力球が飛んでいく。矛先はマカラであった。
「かおりさん!」
危機を察知したアヌビスは、錫杖・アンクを地面へと突き刺す。
すると、マカラの前のアスファルトが盛り上がった。
それが壁となり、着弾して砕け散ってしまうも、防ぎきる事に成功した。
「ほう。貴様のが手癖が悪いようだ」
再び妖力球を作り出すデーヴァ。
気弱な性格から、アヌビスは狼狽えてしまう。
「ひぃ…………ヤバ……」
「何やってんだよ純平兄ちゃん!」
ユニコーンが西洋型ランス・イノセントホーンを振り、デーヴァへと向かう。
「ヒーローがビビってちゃ、悪は斃せねぇッ!オレがぶっ倒してやる!!」
「無知とは罪だな。力の差がわからぬか」
妖力球を放つ。その妖力球はユニコーンの眼前まで迫るが、臆する事なく突き進んでくる。
それは、わかっているからだ。
「ハァッ!」
掛け声と共に、妖力球を矢が射ち抜く。
相殺されて消滅し、ユニコーンはそのまま進んできた。
「らああぁぁァッ!」
勢いを乗せた突き。
デーヴァは寸でで避けるも、ユニコーンは手を休めずにイノセントホーンを振り回す。
「やああァァッ!!」
「何だ?」
ランスという特性から、振るのは間違いではない。
しかし、だ。
幼稚すぎる。
まるで、剣と思っているかのように振っている。
しかも、これはまさに子どもながらのチャンバラではないか。
「……」
「サーガドライバーのサポートシステムの恩恵よ」
ゾーウシールドを前に、ガネーシャが突撃してきた。
妖力弾を放つも防ぎ、走りながらパオンライフルを撃つ。
「ヌッ!」
「貰ったァッ!」
怯んだところに、イノセントホーンが叩きつけられる。
更に盾のまま接触し、ガネーシャと密着した。
「お前を殺すため、パパはこのベルトを造ったのよ」
サーガドライバーは、本来気力や妖力を持ち得ない人間のためのものである。
そんな人間が互角以上に立ち回るため、サーガドライバーにはサポートAIが搭載されている。
自らの眼で視た、肌で感じた事をAIにフィードバックされ、その動きを解析する。
サポートAIが最適な動きを攻撃を脳へと″見せ″、転身者が実行するのだ。
押し付けている盾の間から、銃口をデーヴァの腹部へと突き付けた。
「何!?」
引き金を弾き、パオンライフルが火を吹く。
音のコンマ1秒の後にデーヴァのスーツからは火花が飛び散っていく。
接射は予想外だったようで、効いているらしい。
フラッとよろけた隙に、ガネーシャは1回ドライバーのキーを回す。
ベルト内部の″ヴェーダコア″が力を解放し、魔力がパオンライフルに流れていく。
「砕けろ化け物」
怒りを込め、強化された弾丸がデーヴァへと撃たれる。
「ぬうッ!」
吹き飛ばされたデーヴァ。
その後方にあるコスプレ服ショップへと突っ込む。
その隙に、とマカラとホルスもサーガキーを1回回す。
マカラはカプリコーンの口を開く。口から魔力波・″ディープダウン″を放つ。
奔流のように、怒涛の如く向かう。
一方、ホルスはより強力な魔力を矢という形に収束させる。
放たれた矢・″エアロフレイム″は火のようにたぎっている。
もはや命がない店舗に遠慮する必要はない。
生命力を喰われた人々の荷物やコスプレ服ごと、デーヴァを炎が包んだのだった。
それを見て、ガネーシャは銃口を下ろした。
「やった!勝ったッ!」
そう言ったのはユニコーンだった。
勝った喜びを素直に感情に表している。
「あたし達の力で倒したのね!」
マカラも、トドメを担当しただけあって喜んでいる。
はしゃぎ、騒ぐサーガレンジャーから離れてるガネーシャも安堵した。
終わった。
巨悪を討ち滅ぼしたのだ。
父の願い、ダイレンジャーが成しえなかった因果の戦いを完遂させた。
コウ達には申し訳ない事をした。だが、時間をかけて謝っていこう。
「みんな、ありがとう」
ガネーシャは振り向き、お礼を言う。
平和を守るヒーローを建前に、私怨まみれな自分が巻き込んでしまったのだ。
それを聞き、サーガレンジャーの面々はガネーシャに近づいていく。













「まったく、これで勝てたとは浅はかなものよ」












『!!?』
声のすぐ後、ドオォォォンという轟音が響いた。
先程まで炎上していた店がビルごと崩れ去ったのだ。
炎も、一点へと集まっていき、縮小していく。
「そんな……」
驚くサーガレンジャーを気にすることなく、デーヴァは集めた炎を球状にして放す。
ゆっくりと進む炎。
あまりにもその動きはゆっくりだ。
ただし、ピシピシという音がする。
ハッとし、マカラは震え上がった。
「純平君!。今すぐ土であの炎を包んで!」
「え?」
「早く!!」
慌てた口調に、考える暇が許されないと判り、アヌビスはアスファルトごと土を起こし、炎に覆い被さった。
その瞬間、巨大な火柱が天へ向かって昇ったのであった。
「な、何だありゃあッ!?」
ワイバーンはわけがわからなかった。
対して、マカラにはすぐ判断できた。
水道の蛇口を塞いだまま捻ると、水は溜まる一方だ。
蓋を外せば、今まで溜めていた水が一気に放出される。
火も同じだ。
一点へと閉じ込められた炎は、開放された瞬間に、何倍もの大きさに変化する。
爆炎を通り抜け、デーヴァは右手を翳した。
「さて、お前達は予想以上に健闘した。それに応え、私も本気を出すとしよう」
台詞の後、右手には団扇とも軍配ともとれる形状の諸刃の剣があった。
「″羅刹″。天上天下を制するものよ」
緑がかった黒の刃がキラリと光る。
ホルスはそれを見て、ビクッと震えてしまう。
「あ……ダメ…………みんな、逃げようよ」
「まどか?」
ワイバーンは気づかなかったようだが、ガネーシャにはわかった。
あの羅刹という扇、それが作り出した雰囲気は余りにも重い。
幼いからか、はたまた特別な何かからかはわからないが、直感であれは危険だと判断したのだ。
「さぁて、何からしようか…………では、″風″からか」
ブンッ、と一振り。
すると、 サーガレンジャー達の身体は浮いていた。
『!!!?』
驚きのこえの次の瞬間には、後ろのビルまで吹き飛ばされてしまう。
同時にガラスはもちろんだが、周囲のビルの外壁が剥がれていく。
「すまんすまん。加減したつもりだったが…………こんなにも容易く吹き飛ぶとはな」
「く……」
ガネーシャは銃口を再びデーヴァへと向けた。
必ず斃す。例えそれが、絶望に歯向かうということだとしても。