自分だけでは斃せない。
でも、父の正しさを証明するためには、これしかないのだ。
「すべて終われば謝るわ」
今はただ、デーヴァを斃すことだけが香澄にとっては、正義への理由なのだ。
盲信・盲愛。
親子の情というより、責任とアイデンティティーの確立によって自身を保っているのだろう。
「今日がその時…………かもしれない」















都内にあるビルに聳え立つ妖力の塔。
その塔の前に座り込む、大五。
ただ静かに。
ただ静かに。
「大五……」
声をかける女性。
それは、孔雀明王と化したクジャクであった。
死して魂の昇華をされ、天上界において当代の明王となったのである。
「クジャク…………」
愛する者の気配はない。
あくまで、性質が似てる2人の繋がりがあるからこそ感じれるのだ。
「ダイレンジャーが解散したとしても、俺はうろたえたりはしない」
物事を冷静に見る事に長ける大五。
解散に関しても、″理由がわからない″と納得できるならば承諾できるという姿勢であった。
結果的に戦ってしまったが、自分達は嘉挧を理由も不明なまま別れたくないと素直に語るなど、否定するだけではなかった。
「この塔には必ず何か起こる。俺はそれを待ってるんだ」
嘉挧が理由も無く、こんなものを建てるはずがない。
気力と妖力、相反する力を設置するのは、何かの布石に違いないのだ。
「………」
クジャクはそれを聞くと、無言のまま消えてしまう。
彼女が思っていた事、伝わらずとも感じ取れる。
自分が信じた道を進む。
だからこそ、クジャクは自分を……。
そう、今ならわかる。
「大五ッ!」
クジャクとは違う女性の声。
振り向くとそこにはリンと知、将児がいた。
「みんな、なぜここに?」
「コウのお母さんの指輪が光ったアル。多分、何かの兆しで、あるとしたら、ここだろうと思ったネ」
アヤの形見。″天宝来来の玉″と同質のものが光る。
必ず意味があるはずなのだ。
「俺のとこにも、3バカが来やがってよ……。貰った筈の旗を持ってやがったんだ!」
ゴーマを抜けた3バカが友情の証にくれた旗。
世界に2つとない筈のものが何故存在しているのか。
「僕も、亀夫がまた亀に…………」
ダイムゲンに覚醒してからはなかったはずの亀化。
それがなぜ、急に起きたのか。
「何でこんなことが?」
大五自身、クジャクが現れた。
全員が縁のある者に変化やメッセージのようなものを受け取った。
「何かあるかとしたら、ここしかねぇと思ってよ」
「それでいいんだぜ」
将児の意見を後押しするよう、最後に現れた亮。
大五以上に、その顔は晴れていた。迷いがない、というより、迷いを乗り越えた顔だ。
「俺はずっと考えてた。道士がいないダイレンジャーは、ダイレンジャーじゃないって」
肝を据えて歩いてくる亮。
もはや、自分には無関係だと言っていた頃の亮はいない。
「でも違ったんだ。俺達5人はいるんだ。俺達がダイレンジャーなんだ。道士がいなくたってな。だから、解散なんかしねえんだ」
はじめは、嘉挧を中心に繋がりを持っていたかもしれない。
その正義も、大義も、借り物でしかなかったのかもしれない。
今は違う。
全員が、それぞれが正義を持ってる。
ダイレンジャーという楔は、もう嘉挧ありきのものではない。
嘉挧がいて、自分達もいる。
自立しなければならない。
自分達が、本当にダイレンジャーであるなら。
「亮」
大五の呼び掛け。
目をあわせただけだが、言いたいことはわかっている。
手を出した亮。大五も出し、しっかりと亮の掌を握る。
続いて将児・知・リンが掌を重ねていく。
誰でもない、自分達の意思によるダイレンジャーの再結成。
信じるもののために、改めて戦う決意をするのであった。

















賑わう午後の秋葉原。
日曜日だけあり、親子連れや世間ではオタクと呼ばれるマニア達が行きかっている。
歩行者天国もあるため、その人の波は激しい。
「今の世は、人が多すぎる」
人の波がある中、ただ1人仁王立ちして道にいる青年。
「まるで塵のように多い」
自由というのを建前に、好き勝手に生きる人類。
果たすべき責務を負わず、ただただ無価値な日々を過ごす。
彼にはそれが許せなかった。
かつての世ならば、治める価値もあっただろう。
誰もが何かの役を負い、たとえ奴隷の身であったとしても、無駄な人間などいなかったからだ。
「創り変えるしかあるまいな」
そう言うと、青年は黒いながらもダイレンスーツに酷似したスーツを纏う。
その格好をよく出来たコスプレだ、と写真を撮る者もいた。
そして、それは起こった。