突きと蹴りを続ける陣。
亮はそれを受け止め、陣を睨む。
「どういうつもりだ?」
「情けないぞ亮!。嘉挧がいなければ、何も出来ないのかッ!!」
「何ぃッ!?」
腕を払い、2人はそこで距離をとる。
痛いところを突かれた。
そうだ。自分は何も出来てない。
「忘れたのか?拳士は私情を乗り越え、平常心で臨んでこそ真実が見えてくるッ!!」
平常心。
それこそが、今目の前にいる戦友との戦いで学んだこと。
だが、それと今の自分の何が関係あるのだろうか。
「嘉挧がいたからお前がいたのではない。嘉挧がいて、そしてお前もいた」
優しい顔だった。
自分が見たこともないような、陣の顔。
「嘉挧がいて、俺もいた…………」
どういう意味か、混乱してわからない。
「カアァァッッ!!」
考える間に、陣は拳を振ってくる。
亮はそれを避け、自分も拳を向ける。
しかし、既に陣の姿は無かった。


″亮、忘れるなッ!!″


木霊する陣の声。
亮の耳には、滝の音など入っていなかった。
いや、既に陣の声さえも。
忘れていた、いや、今わかった。
「そうだよな、陣。俺が、いや…………俺達がすべきことは1つだ。嘉挧がいようが、いまいが…………」
嘉挧によって、ダイレンジャーになった。
嘉挧が命令したから、戦ってきた。
けれども、本当にそれだけだったろうか。
「俺達ダイレンジャーがやること、それは…………ゴーマを斃すことだッ!!」









ゴーマ宮の中では、慌ただしい声と動きばかりであった。
文官・武官問わずこれから行われる事態について話題となっている。
シャダムを推す声、嘉挧を推す声が飛び交う。
「勝つ自信はあるの?シャダム」
物陰で聞いていたガラが尋ねる。
「当然だ。だが…………」
シャダムは気がかりな事があった。
気力と妖力、2つの塔の存在だ。
ダイレンジャーを圧倒し、全滅させる力を生み出す程だ。
「念のため、だ。ザイドス、2つの塔を破壊してこい」
「ああ、任せろ」
ザイドスは動き出す。
不安要素を消し、完全に有利にする。
これで、自分の勝利を揺るがなくする。
「これで嘉挧もおしまいだ…………」




その一方、嘉挧も行動に移っていた。
「参謀長、集まりました」
子竜が数人の部下を連れ、嘉挧の前にいた。
「我らは気力の塔と妖力の塔を必ずやお守りし、参謀長に勝利していただきたいと思っております」
嘉挧は頷く。
子竜も頷きかえし、部下を率いて部屋を出ていく。
「子竜中尉に、塔の警護を任せたというわけか」
「貂蝉……」
部屋に入ってきた貂蝉は、嘉挧に近づく。
「もし、私の下に戻る意思があるのなら…………シャダムを暗殺しよう」
「何をいう」
「暗殺は好まぬか?。その割には、正々堂々と実力だけでシャダムを降す自信はないようだが」
嘉挧としても勝利したい気持ちは強い。
とはいえ、正統なる方法で、ゴーマすべてに見せつけなければならない。
自らが勝利する姿を。
「貂蝉、人類がなぜ栄えたかわかるか?」
「我らが表舞台から消えたからであろう」
人類の祖先であるシュラ族はダイとゴーマの奴隷であった。
生き残ったシュラが覇権を有したのは当然ではないだろうか。
「人類…………いや、人間は互いの違いを認めあうことが出来たから、勝ち残ったのだ」
6000年の間に、嘉挧は様々な出来事を目の当たりにしてきた。
ダイとゴーマのように、血と憎しみに満ちた時代もあった。
しかし、人間は互いの違いを見て、聞いて、感じて進んできた。
その中で新たな価値観を創造し、繁栄をしたのである。
「私はゴーマを、そういう種族にしたいのだよ」