街の外れにある廃工場。
由貴は何度もこの場所へ訪れた。
戦う時に、この場所に来ている。何よりここは…………。



″すぅぅぅきでっす、すぅぅぅきでっす心からぁぁ。あぁぁぁいしていぃますよとぉぉぉ″



「この歌は…………」
何度聞いたかわかりはしない。
夢でもうなされた。由貴のトラウマになって、もう1年になる。
「お久しぶりですね。プリティガール」
ヨーヨーしながら、少年が紐男爵へと変化していく。
ただの紐男爵ではない。
触手が異常なまでに増え、全体的に派手になっている。
男爵の名では収まりきらない、豪華な容姿だ。
「マイセルフはキィィィィングッッ紐男爵!!」
K紐男爵は左腕の太い触手を伸ばし、由貴を捕縛する。
「うっ!」
「さあ、今度こそプリティガール、マイセルフのワイフになってもらいますよぉぉ」
触手を縮め、引き寄せる。由貴はオーラチェンジャーを挿し込み、ホウオウレンジャーへと転身した。
気力のスパークによって生じたパワーで触手をちぎり脱出し、距離をとる。
「鎖紐男爵夫人はいいの?」
「ノンッノンッ!」
千切れた左腕が、元通りに生えてくる。
どうやら、再生能力が著しく高くなったらしい。
「マイワイフはシー(鎖紐男爵夫人のこと)と、プリティガール、ユーのこと」
2人を妻にしようというのだろうか。ふざけている。
ホウオウレンジャーは青龍月刀を持ち、K紐男爵に向ける。
なぜか、コウとK紐男爵を重ねてしまう。
自分と香澄、どちらが好きなのだろう?
自分が好きだという保証はないが…………
もしや、どちらも…………。
「浮気する男はダメ!。K紐男爵、覚悟しなさい!」
「ククク…………怒ったフェイス、マスクに隠れてて残念です」
K紐男爵は全身の触手を伸ばし、ホウオウレンジャーへと向ける。
まるで密林に生い茂る植物の如く多量で、ホウオウレンジャーを飲み込むかのようだ。
「ハァッ!」
迫る触手を斬っていくが、あまりの多さに手が回らない。
脚に巻きつかれ、転ばされてしまう。
「きゃあッ!」
やがて両腕、両腕、胴体を絡めとられてしまう。
四肢の動きを封じられ、ホウオウレンジャーは身動きがとれなくなってしまった。
「く…………」
「ホホホッッ!紐拳・″紐電撃弐(ツー)・雷鳴網(かみなりあみ)!!」
伸ばしてる触手すべてから電撃が走っていく。
ホウオウレンジャーから火花が散っていき、そのダメージが見るからに激しい。
「あああぁァァッ!!」













ダイレンジャー達はその場で考えていた。
自分達はこれから何をすべきなのか。
手を出すなという道士嘉挧。しかし、あの子竜といううゴーマ怪人が建てたアンテナのような塔を放っておける程気が長くはない。
何より、その嘉挧からダイレンジャーを解散するという通告を受けてしまったのだ。
「解散……ですか。今まで言うことを聞いてきて、この様とは」
知は言葉は丁寧ながらも、その意に不服であるのを匂わすニュアンスで言う。
「そうだぜ!解散なんて、俺は認めねぇッ!!」
「僕もいやだがね!」
将児も亀夫も反発心を顕にし、命令に対して否定的である。
「これには理由があるはずアル…………」
「リン?」
リンは嘉挧を弁護するような台詞を発した。
嘉挧が黙っているということは、何か作戦があるのだろう。
両親も言っていた。″おじである道士嘉挧を信じろ″、と。
「でもそれが何かわからねぇんじゃッ!」
将児の言う通り、自分達が知らないために混乱してしまう。
嘉挧の性格も相まって、本当に裏切ったのかもわからない。
信じたい。信じてるのに、疑念を抱かざるをえない。
解散するにしても、なぜ嘉挧は二度と会えないというのかも不明だ。
「とにかく、この塔を調べないとな。俺と将児は残って調べる。他のみんなは、本部の基地への入り口がないか、もう一度調べてくれ」
亮は二手に分かれることを提案する。
黙っているだけでは何も進展しない。
ならば、行動あるのみだ。
「道士がいなくなった途端、急に亮が指揮りはじめやがった」
「!?」
「そういやお前はいつも、お利口さんだったよなぁ」
「…………!!」
これには頭がきた。
「だったら将児、てめぇがやれッ!!」
一触即発、とばかりに睨み合う亮と将児。
「やめるアル!2人とも気持ちはわかるけど…………」
「そうだ。今こそ俺達が結束し、力を合わせないと」
大五とリンが説得し、その場を切り抜ける。
全員がやるべきことを確認した後、ふと亀夫がハッとした。
「だめだがや…………何か悪い気を若葉台町の方から感じるがや」
「!?」
知は気になり、スマートフォンを取り出す。
すると、″若葉台町に大量に怪人出現″のニュースがアプリから飛び込んでくる。
「大変ですよ!僕らの街が…………」
「何だって!?」
道士の事もあるが、優先すべきはそっちだ。
ダイレンジャー達は見合い、若葉台町へ戻ろうとする。
「待つんだダイレンジャー!」
聞きなれた声。知?。いや、違う。
歩いてくる3人の男女。その中の1人は、知にそっくりの男性だった。
「拓也兄さん!」
知の兄、拓也。豆腐大仙人が襲来した際、共に戦った学者である。
齊天大聖が歪ませた時空間で、ウルトラマン達同様平行世界の自分から変身する因果を共有した。
昆虫の力を使った戦士、″ブルービート″としての自分を手にしたのだ。
「街は俺達に任せろ。大作、舞!」
『重甲!!!』
自分以外にも、平行世界の力を手にした仲間ができたのだ。
重甲戦士・ビーファイターを結成し、今、ダイレンジャーキッズの危機を救うべく駆けつけたのであった。
「…………任せたぞ、ビーファイター」
亮はブルービートに応えると、頷いて若葉台町へ向かう。
ダイレンジャーは、それぞれのすべき事をした。キッズとビーファイターが勝利するのを信じて。




















ゴーマ宮に戻った嘉挧と子竜。
子竜は感じていた。嘉挧に迷いはない。しかし、戸惑いはあるということを。
愛弟子と道を違えた事、その発端がすべて自分にある事、泥を被る心を察すると、辛い。
「参謀長、作戦を続行しますか?」
今ならまだ、他の手立てもある。
「なんなら、大連者に協力を要請するとかは…………」
「いや、続けてくれ。もし彼らが邪魔するようなら、″敵″として排除してくれ」
子竜は驚いた。
まさか、そこまで深く決断していたとは。
やはり、嘉挧は自分の、いや、平和を願うゴーマの希望だ。
「かしこまりました。この子竜、命を賭して策を成して、御覧にいれます」
そう言うと、子竜はその場を去る。
作戦を成就させるために、動き出したのである。
入れ替わるように、シャダムが歩み寄ってくる。
「大した人望だなぁ」
「シャダム……」
「貴様が帰ってきた途端、今まで大人しくしていた連中が妙な動きをしている」
穏健派の象徴にして、ゴーマ王家正統な後継者たる嘉挧の帰還。
それは、ゴーマの行く末を左右する出来事であった。
「元老院は、 次期皇帝は″皇位継承戦″によって決めると言っている」
「望むところだ」
大した自信だ。気力も妖力も優れた実力なのは、シャダムも認めている。
しかし、この自信はそれだけではなさそうだが……。
「そういえば約束はどうなった?」
「約束?」
「とぼけるな!休戦協定を結び、白虎真剣を返す条件は、貴様がゴーマに戻り…………」
「大連者を解散すること、だったな」
大連者との繋がりを完全に破棄する、そうでなければ信用を勝ち取れない。
皇位継承権があるとはいえ、自分は裏切り者なのだから。
「本部を閉鎖し、本人達にも警告はしてある」
「ならば、証拠を見せろ」
「証拠?」
「そうだ!きちんと解散したという、れっきとした証拠をな!!」