紫色の稲妻が落ちる。
何の怪人か、と思いきや口を布で隠した女性であった。
「口紅歌姫!?」
ホウオウレンジャーには見覚えがあった。
トランプ公爵が復活させた時、リンが交戦したのを見たことがある。
女性は布を取る。すると、まるで化け物かと思う程の大きな唇をしていた。
「大連者、お前達に踏みにじられた私の聖歌隊、私の野望、再び掴まんがため、闇より舞い戻ったのよ!」
そう言うと、怪人態に変化する口紅歌姫。けれども、それはかつての姿ではなかった。
肩の口紅はねじ曲がっつあドリルのようになっており、躯にはステンドグラスのような紋様が張り巡らされている。
「Q(クイーン)口紅歌姫!!」
爆発的に妖力が上昇したのは、気を量れない町子達にもわかった。
再生怪人の中でも、特に強化されているのは間違いない。
口紅という要素を残しつつ、禍々しい別物に変化している。
「わかっていただいたようだね」
その後ろから、中王天が錫杖の先端を向けていた。
「Q口紅歌姫のように、お前達に怨みを持つ者がいる。彼らに会って、昔話でもするがいい」
錫杖の先端から、4つの光が放たれる。それはキバレンジャー以外のキッズを包み、拘束してしまう。
「なんだこりゃ!?」
「イヤッ!ちょっと…………キャアァァッ!!」
キッズ達は光と共に宙に浮き、文字通り四散してしまう。
「みんな!」
「彼らは、因縁の戦いをしにいった。さあ、君は彼女が相手だ」
Q口紅歌姫は口紅剣を手に向かってくる。
簡単に蹴散らせるような相手ではなさそうだ。
「行くぞ白虎!」
「合点でい!」












体育館での攻防は激しくなっていた。
クジャクレンジャーと、サーガレンジャーの共闘により多勢に対しても戦力的にはまさに″量より質″。
館内への侵入を許さず、徐々に数百いた戦闘員は現象していっている。
「このまま押し切る!」
ワイバーンも出入口に辿り着き、真司とまどかを送り届けるまで後少しだ。
もう少し、もう少し…………。



″ガアァッ!!″





「何!?」
ガラスを突き破る音。体育館からの悲鳴もする。
クジャクレンジャーとワイバーンは中に入り、その理由を知る。
青色の蜘蛛、いや、クモの怪人が糸を吐き、児童に巻きつけている。
「やめなさい!」
孔雀連弩をクモの怪人に向け、撃つ。矢が糸を千切って怪人に命中した。
「ウッ!」
怯んだ隙にクジャクレンジャーとワイバーンが糸を巻きつけられた児童を救出し、怪人の前に立ちはだかる。
「何だお前は!?」
立ち上がる怪人。
「クモ男とは、俺様のことよ!」
クモの怪人・クモ男が名乗る。体育館の出入り口から見ている真司がハッと気づいた。
「アイツ…………アイツがみんなを攫ったんだ!」
一緒に逃げていたという友達を捕縛し、連れ去った犯人。
ワイバーンはそれを聞くなり、リンドブルムを構えて対峙する。
「連れ去った子をどこにやった?」
「そいつは教えらんねぇな…………」
「何ぃ…………うわッ!」
肩に何かが当たり、火花が散る。
何だ!?、と思い見てみれば、トランプであった。
「おほほ♪。当たったでおじゃる♪」
体育館の壇上には、金髪のマジシャンのような男性が笑っている。
ワイバーンに見覚えがあった。友達と共に、額にトランプを押しつけられ、トランプ人間にされた。
あのマジシャンの正体を、今となっては語るまでもない。
「トランプ公爵!?」
「おじゃるおじゃる、おじゃるまるじゃる」
マジシャンは躰中にトランプが埋め込まれた、トランプ公爵へと変化する。
しかし、以前とは異なり黄金のトランプ型の刺青が手や脚に刻まれている。
「ハートの8の少年でおじゃろう?」
覚えている。恨みを晴らしたいところだが、クモ男を止めなければ……。
迷うワイバーンを尻目に、クジャクレンジャーは躊躇せずにクモ男へと向かう。
「ム…………」
飛び上がって孔雀連弩の照準をクモ男の頭につける。
いくら戦うとはいえ、戦闘経験が圧倒的に不足しているサーガレンジャーを頼りにするほどボケてはいない。
一気に決着を着け、キバレンジャー達に合流しなければ…………。
「これで!」





″ハニワンパンチ!!″




「!?。キャアァッ!!」
クジャクレンジャーは横槍に入った何者かに吹き飛ばされ、壁を突き破っていく。
その何者かは、児童達の方を振り向くと眼から赤い光を放ち、浴びせる。
すると、避難していた全校児童は石像へと変わってしまった。
「みんな!」
700人以上の石像が立ち並ぶ。
ワイバーンと、駆けつけたマカラ・アヌビスは呆然と立ってしまう。
起き上がったクジャクレンジャーは、その術を知っている。
ゴーマの血を引かない、人間の子供を石に変えてしまう能力を持った怪人を。
「ハニワ腹話術師!」
「違う!今の私は…………ハニワンパンマン!!」
マントを着けただけのハニワ腹話術師なのだが、さっきの一撃で相当強化されてるのが伝わってくる。
「君はクジャクの術で石化しなかった子供だな?」
以前のような剣はないが、肉弾戦に特化した強化をされてるらしく、ファイティングポーズをしている

あんパンやカレーパンならいざしらず、ただの土塊がヒーローらしい格好をするなど、もっての他。
「あなたを倒せば、みんな戻るのはわかってるわ」
迂闊に射てば、児童達に当たってしまう。
接近戦が望ましい。クジャクレイピアを取りだし、身構える。
「手を貸しますわ」
「!?。澪ちゃん?」
石人形の中から、澪が出てくる。
ゴーマの血族である彼女が石化しないのは当然である。
「みんなが見ていては、転身できませんもの」
ダイレンジャーではなく、澪は怪人態で戦うため普通の児童を装って避難していたのだ。
パチン、と指を鳴らす澪。額にはゴーマ特徴の一つ眼が現れ、それをティアラでカバーする。
顔が蝋でコーティングされたかのように白塗りになり、宝石の装飾が施されたドレスを纏う。
正月の″秘密の大特訓″を経て、真の怪人態を会得した。
「ティアラ令嬢の完・聖された姿、ご覧あそばし」
クジャクレンジャーとティアラ令嬢による挟撃。
ハニワンパンマンを見事討ち果たせるか…………。