声と共に飛来する光球。一撃でソウジキジゲンが爆発し、キッズ達は反対方向を見る。
すると、恐竜の意匠がある赤・黒・青・黄・桃の戦士が立っている。
「ジェットマンでも、シンケンジャーでもない」
自分達が共闘した戦隊とは異なる姿だ。戦士達は駆け寄ってきて、キッズ達の前に立つ。
「君達はこの世界のスーパー戦隊かい?」
「スーパー戦隊?。…………うん、五星戦隊ダイレンジャー。それが僕らの名前だ」
鳥人戦隊ジェットマン、侍戦隊シンケンジャー…………それぞれの世界に、それぞれの戦隊がいる。
十中八九、自分達の世界におけるスーパー戦隊は、″五星戦隊ダイレンジャー″だろう。
「あなた達は?」
「俺達は恐竜戦隊ジュウレンジャーだ」
自己紹介するのは、赤きリーダーであるティラノレンジャー・ゲキである。
ジュウレンジャーは語る。
自分達の世界で、魔女バンドーラとその一味と1億年の時を経て戦った。
神からの試練、仲間との出逢いと別れ…………それらを越えてきたこと。
死闘の末、バンドーラ一味は封印され、裏にいた悪魔・大サタンを倒した。
世界の危機は去り、使命を終えたジュウレンジャーは、天界へと還っていった。
復興が進み、世界は安定を取り戻したのである。







そのはずだった。






大サタンは保険をかけていた。
自らの肉体の一部を宇宙に残し、死と同時に覚醒するよう施していたのだ。
「それで、我々の地球に再び脅威が訪れたんだ」
大サタンの分身体は、オリジナルとは外見が変貌していた。
以前のような巨大さはなく、等身大である。人間に近かった顔も、怪人に変わってしまった。
骸骨をねじ曲げたような容姿、血塗られた色…………。


「そう…………我輩がゼッド也」


『!!?』
聞き慣れぬ声。視線の先には、ジュウレンジャーが話した通りの外見をした怪人がいる。
「アイツが…………」
「そうだ、奴が…………」
自らを君主と名乗り、地獄と現世の両方を支配しようと動き出したロード・ゼッド。
死者を黄泉返らせ、生者をあの世に誘う悪魔の化身である。
「ジュウレンジャー、お前達に復讐をし、2つの世界を我輩は手にいれてやる!」
「何!?」
「…………それと、貴様達も消えてもらうぞ小さき大連者」
カシャン、カシャンと金属音を鳴らしながら、歩んでくる何者か。
感じられる妖力は強いが、その″質″が異なる。
通常のゴーマ怪人とは違い、妖力が溢れ出ていない。内に秘めているような重い妖力だ。
外見は虚無僧のような衣に、生気を失った骸ないしはミイラの如く蒼白な顔をしている。
以前見た覚えがある容貌で、キッズ達はゴーマの者であると見抜くのに、時間はかからなかった。
「お初にお目にかかる。私は中王天、お前達に斃された四天王の師だ」
「ゴーマ四天王の!?」
コウ以外が転身できず、ダイレンジャーキッズが本格的に結成される以前に現れたゴーマ四天王。
幻術や呪術を用いてダイレンジャーに挑み、牙大王の″飛翔剣・木端微塵″すら弾き返した強敵だった。
その師となれば、感じられる妖力から四天王以上の能力を有しているだろう。
「そのお師匠さんが、今頃出てきてなんだ!?。お前とその赤い野郎が、この事件の原因だな!」
テンマレンジャーは見るからに、という率直な答えを言う。
「ゴーマは休戦協定により、お前達とは戦えない。ゆえにゴーマを離れ、ゼッド卿と組んだというわけだ」
中王天は四天王の仇を討つためにゴーマを離反した。どうだろう、自らの一族を離れてまですることなのだろうか。
四天王がシャダムらとは違い、皇帝直属であった事からも中王天の地位は相当なものだったはず。
感情的に動くような、浅はかな精神ではなさそうなのに。
そんな最中、ロードゼッドは持つ杖・ゼッドスタッフを掲げる。
「ご名答」
すると、空に稲妻が迸る紫色の輪が現れる。


″カアァァァ…………″


そこから現れたのは、追跡していた毒サソリ男であった。
『!!?』
その躰はより蠍らしくなっており、毒々しい液体を垂れ流している。
サクラ子爵がそうであったように、強化されて復活しているようだ。
「お前達のおかげで、あらゆる世界の亡霊を蘇生できる」
「俺達の!?」
「そうだろう?キバレンジャー」
ロードゼッドに指され、一同はキバレンジャーに視線を向ける。
わかっているのか、キバレンジャーは取り乱した様子はない。
「そうか、やはりお前は薄々気づいていたようだな」
「……」
キバレンジャーは、納得したように白虎真剣を向く。
「何だよコウ、早く齊天大聖になって、アイツらをやっつけちまえ!」
「健一………」
齊天大聖の力は強大だ。恐らくは、今まで戦った相手で敗ける相手はいないだろう。
「どうしたんだよ?」
「健一、齊天大聖には…………」
「コウはならないんじゃない。齊天大聖になるわけにはいかないんだ」
歩いてきたのは、ウルトラゼロアイを手に持つランであった。
この騒ぎを聞きつけ、共闘してくれるのだろうか。
「ラン兄ちゃん」
「……俺達が前に変身できたのは、時空が歪んだ影響だ。それはジャッカル大魔王のせいだが、それだけではなかったんだ」
ランのウルトラゼロアイには輝きがない。
プラズマスパークの光を取り戻したはずなのに、変身できないとはどういうことなのだろうか。
「齊天大聖の力は、人がいう神の力だ。本来は世界に存在しえない」
キバレンジャーは補足するように話す。
「朝の先生の話を覚えている?」
世界で異常気象や不可解な現象が起きている、というニュース。
環境問題が深刻化したのが原因だと、大多数の人間は判断するだろう。
「あれは僕が齊天大聖になった事で、引き起こされたんだ」
『!!?』
驚くキッズ達。
ランはうんうんと、頷きながら右手を見せる。
「この俺の手にコップがあるとするだろう?。それが世界だ。そこに齊天大聖という、バケツ分の水を注いだらどうなる?」
「溢れちゃう………」
「その通りだ町子ちゃん」
ランはキバレンジャーを見て、更に話を続ける。
「この世界という″器″に、齊天大聖は大きすぎるんだ」
世界を一つの″器″とした時、許容できるエネルギーは自ずと決まってくる。
齊天大聖はこの世の″理″を崩し、また、変えてしまう程の力があるということだ。
それは世界を取り巻く因果にも影響を及ぼしていた。
ウルトラマンの世界で、多次元宇宙=マルチバースにあたるダイレンジャーの世界は、根本的な世界観の違いからお互いの空間が交わる事はほとんどない。
それはジャッカル大魔王だけでもなし得ず、齊天大聖の誕生によって因果が狂った相互の結果だったのだ。
ウルトラマン達の変身能力も同様だ。異なる世界の因果の強制力により、変身するには通常の何倍ものエネルギーを要する。
本来のゼロ達が残したプラズマスパークエネルギーを利用しても、取り巻く因果が変身を阻害してしまう。
「仮に変身するにも、俺達の中で1人くらいしかなれない」
「そんな……」
強い力には代償は付き物。とはいえ、それが世界への影響力だとは思いもしなかった。
ちなみに無間覇王は、阿古丸が異なる世界の″大地動転の玉″を利用したために、さほど世界に影響を与えてはいない。
「そう、君が因果を狂わせたおかげで、私達は異なる世界の怪人の魂までも利用できたのだよ」
自分達の世界だけではなく、ジュウレンジャーとジェットマンの世界、更には仮面ライダーの世界をも干渉しているようだ。
しかも、復活する際には強化されてるとなると、厄介だ。
「さあ、お前達に復讐したいと、奴らが騒いでいるぞ」
ロード・ゼッドはゼッドスタッフを掲げ、魔力を杖先に集める。
「何をする気だ!?」
「復活させるのよ。最も怨みを持つ者達を…………″クイーン″!」