優美は″セブン″の外にいる子犬を撫でていた。
首輪が付いてる。飼い主はどうしたのだろう?
この混乱の中、はぐれてしまったのか。それとも…………。
「犬、可愛いね 」
「?。東さん?」
光太郎は子犬を抱える。
「私も前は犬を飼っていたんだ。元の世界でね」
「その犬は?」
「…………死んでしまった」
ハッ、とする。そうだ、飼っていたとは過去形を表す言葉じゃないか。
「ウルトラ一族は数十万年以上…………それこそ、永遠に近いくらいの寿命がある」
そうだ。人間と犬、人間とウルトラマン、持っている命の長さは平等ではない。
自分達も覚醒者となった今、普通の人間と同じ時間を生きているわけではない。
今は日常が誤魔化している。だが、その日常がいずれ、自覚させるのではないだろうか。
「でもね、私は忘れたりしない。あらゆる命は触れあうことで、思い出を作れるからね 」
「思い出を…………」
今は、いつか過去になる。
その時になって、あの時が好きな時間であったと言えるよう思い出を作るのだ。
心を温めてくれる思い出を。
町子は甘酒を温めていた。みんな、疲れてる。甘いものでも採らなきゃ、と意気込む。
「甘酒かぁ」
星司が覗きにくる。パン屋だけあってか、興味があるのかも。
「みんなにあったまって欲しいから」
「町子ちゃんは、この甘酒にそういう″思い″を込める…………優しいね」
そうだろうか?。料理を美味しくしたいのは、作る者全員な気がする。
「俺はパンに″願い″を込めるんだ。パンそのものが美味しい、というよりパンを食べた人が美味しいと言う気持ちで幸せと、なるように」
そうか。自分は甘酒をただ美味しく作ろうとしたわけじゃない。
みんなに美味しく、そして良い気持ちを味わってほしい。
「その気持ちを忘れないでほしい。そうすれば、どんな人とも友達になれる」
かつて星司は願った事がある。その願いは、いまだに叶えられていない。
しかしこの子のような、いや、この子達のような優しさを人は誰しも持っている。
希望がある。
健一は自分の大輪車がやや不調なため、郷に頼んで調整してもらっていた。
「ああ、ここが接続が弱い」
郷に直してもらい、健一は満悦している。
ふと、健一は気になる事があるためか、郷に聞いた。
「ねえ、郷さんもウルトラマンなんだよね?」
「ああ」
「なんかさぁ、すげぇ技ってあるの?」
「他の兄弟達はあるが、俺は特段変わったのはないなぁ。でも、何で知りたいんだい?」
「やっぱ、強い技を知って、出来れば参考にして強くなりたいからさぁ」
いつの時代も男の子は力に、ヒーローに憧れる。
かつて自分が触れていた少年もそうだった。
「健一君、強い必殺技で敵を倒したいというのはわからないでもない。でもね、大切なのは敵を倒すのではなく、人を守り抜くことだよ」
善なる強い力を持つ者は、その力の背景に守るべき者がいる。
悪なる脅威は時として、その守るべき者を襲う。守れなければ、晴れることのない後悔と無念を永遠に背負うことになるのだ。
由貴は1人、街の様子を見に行っていた。所々で、怪我人がいる。
思い出してしまう。大神龍が焼き払った山手線一帯…………。
救えなかった命がたくさんある。チラッと視線を落とすと、血が付いたウサギのぬいぐるみが落ちていた。
「…………」
拾い上げることはしない。
この持ち主はどうなったか、残っている気を探ればすぐにわかってしまう。
なぜだろう。なぜ、自分達は守れない。
あの大神龍を滅ぼし、怪獣達もウルトラマンが倒した。
しかし、その爪痕はあまりにも…………。
「辛いかな?自分の力が及ばない事を見るのは」
「マスター…………」
ダンが歩いてきた。この人も、いや、この人はこういう光景を何度も見たんだろうか。
動じてる様子はない。
「マスターは…………その…………」
「悔しいよ。我々も、多くの命を救えなかった」
なんという悲しい顔なのだろう。
ダンの顔はやはりか、遠い昔を思い出すようにしかめている。
「あと少し、あとちょっとでも、あたし達が頑張れば…………」
「そう思うだろう。でも、我々は決して神ではないのだ」
万能の力を有するわけではない。
どんなに頑張っても、救えない命もあれば、届かない思いもある。
「でも、こんなの…………」
「そう。そうやって、我々は…………いや、この地球(ほし)の人は強くなってきたんだ」
「そう、やって?」
あと少し、あとちょっと。
あの時を繰り返さないために、思い描いている明日を掴むために、人は努力を続けている。
今より少しでも、未来が幸せであるように。
「どんな災厄が訪れても、諦めない。どんな強敵との戦いでも、勝利を信じて戦い抜く」
それが、ウルトラマン。いや、ヒーローなのだ。
自分が憧れる亮も、そういうヒーローだ。
自分も、そう強くなりたくて、ヒーローになったのだ。
″セブン″地下の秘密基地。コウはハヤタと共に次元の歪みがある場所を映した画面を見ていた。
いつ、変化があるかわからない。
「ねぇ、ハヤタじいさんは最初に地球で戦ったウルトラマンなんだったよね?」
「そうだよ」
「この地球をどう思ったの?」
ハヤタは
「…………家、かな?」
ハヤタは眼鏡を拭きながら、コウの出した質問に答える。
「私達ウルトラマンは、この星で学んだ。守るということ、戦うということ、生きるということを」
再び眼鏡をかける。
ハヤタはもちろん、ウルトラ戦士達は見てきたのだ。
色んな人の人生、生きざまを。
「レオは故郷とも言うように、ここは命をかけても守り抜きたい。そう思える、私達の家なのさ」
ハヤタの思いが伝わってくる。
この地球を愛し、また愛されてきた者達・ウルトラマン。
その体だけではなく、存在そのものの大きさを感じるのであった。
首輪が付いてる。飼い主はどうしたのだろう?
この混乱の中、はぐれてしまったのか。それとも…………。
「犬、可愛いね 」
「?。東さん?」
光太郎は子犬を抱える。
「私も前は犬を飼っていたんだ。元の世界でね」
「その犬は?」
「…………死んでしまった」
ハッ、とする。そうだ、飼っていたとは過去形を表す言葉じゃないか。
「ウルトラ一族は数十万年以上…………それこそ、永遠に近いくらいの寿命がある」
そうだ。人間と犬、人間とウルトラマン、持っている命の長さは平等ではない。
自分達も覚醒者となった今、普通の人間と同じ時間を生きているわけではない。
今は日常が誤魔化している。だが、その日常がいずれ、自覚させるのではないだろうか。
「でもね、私は忘れたりしない。あらゆる命は触れあうことで、思い出を作れるからね 」
「思い出を…………」
今は、いつか過去になる。
その時になって、あの時が好きな時間であったと言えるよう思い出を作るのだ。
心を温めてくれる思い出を。
町子は甘酒を温めていた。みんな、疲れてる。甘いものでも採らなきゃ、と意気込む。
「甘酒かぁ」
星司が覗きにくる。パン屋だけあってか、興味があるのかも。
「みんなにあったまって欲しいから」
「町子ちゃんは、この甘酒にそういう″思い″を込める…………優しいね」
そうだろうか?。料理を美味しくしたいのは、作る者全員な気がする。
「俺はパンに″願い″を込めるんだ。パンそのものが美味しい、というよりパンを食べた人が美味しいと言う気持ちで幸せと、なるように」
そうか。自分は甘酒をただ美味しく作ろうとしたわけじゃない。
みんなに美味しく、そして良い気持ちを味わってほしい。
「その気持ちを忘れないでほしい。そうすれば、どんな人とも友達になれる」
かつて星司は願った事がある。その願いは、いまだに叶えられていない。
しかしこの子のような、いや、この子達のような優しさを人は誰しも持っている。
希望がある。
健一は自分の大輪車がやや不調なため、郷に頼んで調整してもらっていた。
「ああ、ここが接続が弱い」
郷に直してもらい、健一は満悦している。
ふと、健一は気になる事があるためか、郷に聞いた。
「ねえ、郷さんもウルトラマンなんだよね?」
「ああ」
「なんかさぁ、すげぇ技ってあるの?」
「他の兄弟達はあるが、俺は特段変わったのはないなぁ。でも、何で知りたいんだい?」
「やっぱ、強い技を知って、出来れば参考にして強くなりたいからさぁ」
いつの時代も男の子は力に、ヒーローに憧れる。
かつて自分が触れていた少年もそうだった。
「健一君、強い必殺技で敵を倒したいというのはわからないでもない。でもね、大切なのは敵を倒すのではなく、人を守り抜くことだよ」
善なる強い力を持つ者は、その力の背景に守るべき者がいる。
悪なる脅威は時として、その守るべき者を襲う。守れなければ、晴れることのない後悔と無念を永遠に背負うことになるのだ。
由貴は1人、街の様子を見に行っていた。所々で、怪我人がいる。
思い出してしまう。大神龍が焼き払った山手線一帯…………。
救えなかった命がたくさんある。チラッと視線を落とすと、血が付いたウサギのぬいぐるみが落ちていた。
「…………」
拾い上げることはしない。
この持ち主はどうなったか、残っている気を探ればすぐにわかってしまう。
なぜだろう。なぜ、自分達は守れない。
あの大神龍を滅ぼし、怪獣達もウルトラマンが倒した。
しかし、その爪痕はあまりにも…………。
「辛いかな?自分の力が及ばない事を見るのは」
「マスター…………」
ダンが歩いてきた。この人も、いや、この人はこういう光景を何度も見たんだろうか。
動じてる様子はない。
「マスターは…………その…………」
「悔しいよ。我々も、多くの命を救えなかった」
なんという悲しい顔なのだろう。
ダンの顔はやはりか、遠い昔を思い出すようにしかめている。
「あと少し、あとちょっとでも、あたし達が頑張れば…………」
「そう思うだろう。でも、我々は決して神ではないのだ」
万能の力を有するわけではない。
どんなに頑張っても、救えない命もあれば、届かない思いもある。
「でも、こんなの…………」
「そう。そうやって、我々は…………いや、この地球(ほし)の人は強くなってきたんだ」
「そう、やって?」
あと少し、あとちょっと。
あの時を繰り返さないために、思い描いている明日を掴むために、人は努力を続けている。
今より少しでも、未来が幸せであるように。
「どんな災厄が訪れても、諦めない。どんな強敵との戦いでも、勝利を信じて戦い抜く」
それが、ウルトラマン。いや、ヒーローなのだ。
自分が憧れる亮も、そういうヒーローだ。
自分も、そう強くなりたくて、ヒーローになったのだ。
″セブン″地下の秘密基地。コウはハヤタと共に次元の歪みがある場所を映した画面を見ていた。
いつ、変化があるかわからない。
「ねぇ、ハヤタじいさんは最初に地球で戦ったウルトラマンなんだったよね?」
「そうだよ」
「この地球をどう思ったの?」
ハヤタは
「…………家、かな?」
ハヤタは眼鏡を拭きながら、コウの出した質問に答える。
「私達ウルトラマンは、この星で学んだ。守るということ、戦うということ、生きるということを」
再び眼鏡をかける。
ハヤタはもちろん、ウルトラ戦士達は見てきたのだ。
色んな人の人生、生きざまを。
「レオは故郷とも言うように、ここは命をかけても守り抜きたい。そう思える、私達の家なのさ」
ハヤタの思いが伝わってくる。
この地球を愛し、また愛されてきた者達・ウルトラマン。
その体だけではなく、存在そのものの大きさを感じるのであった。