感覚では気づいていたのかもしれない。生の気を帯びていない大地が、おおよそこの世と呼ばれるものではないことを。



「じゃあ、ここはあの世?」


「…………あんまり驚いてもなけりゃ、悲しんでもねえな」


「驚いてるさ…………でも、まだ整理できてなくて…………」


目覚めたら死後でした、というのは余りにも突然で、飲み込みきれていない。


「まあ、正確にゃあお前は死ぬ事すら出来なかったんだ。魂ごと、初代ゴーマに消されちまったからな」


「魂が…………」


「ここは俺様の内部、つまりは白虎真剣の中だ。お前は″吼牙″で散々俺に気力を喰わした事によって保たれた絞りカスみてえなもんだ」


コウは整理をする。ここはあの世でもない、白虎真剣の心の中らしい。
そして、自分は″吼牙一閃″等の気力技によって注がれた気力が白虎真剣の気力と同化して残った、いわば残留思念と呼べる存在らしい。


「僕が生き返る方法はないの?」


「魂と肉体が無事なら″反魂術″も使えたが…………魂がねえんじゃ無理だな」


非情なる事実。コウはもじど腰を抜かし、崩れた。何という事だ。
何も謝ってもいない。何も守ってもいない。何も知ってもいない。
やり残した事は幾らでもある。なのに…………。


「お前も永遠に存在できねえ。あくまで俺様に残った気力の残りだかんな」


江戸っ子節の白虎真剣がいつになく、シリアスなトーン。
コウは自らが抱いた死の絶望に震えていた。消えてしまう。もう二度と、みんなとは会えない。
今までの楽しい思い出が、一層悲しみを際立てる。











「生きたいのですか?」
















「当たり前だろ!僕は………………ん?」



白虎真剣ではない。優しい、若い男性の声だ。


「誰!?」


振り向くコウ。気を感じない。空耳ではないが、姿が見えない。


「誰なんだ?僕に話しかけるのは…………」


「私だ…………コウ」


周りではない。ならば…………。コウは上を向く。そこには、白い服を着た青年が浮いていた。


「お兄さんは…………」


ここは白虎真剣の精神世界。本来ならば、自分と白虎真剣しかいないはずだ。
それにかかわらず存在している。
怪しい上に、ただ者ではない。


「私はダオス王…………そう呼ばれていた者だ…………」


青年はコウの目の前に降り立った。白い服に、とりわけ整った顔立ちだ。
コウ視点では、若干亮に似ているような気がする。しかし、優しいというか、透き通ってるようなイメージをうかばせる。
けれども、こんなに近くなのに気を感じない。それは死者だとか、自分のような思念の存在だからではないのは本能的にわかった。
このダオス王と名乗った青年は存在が大きい。まるで空や海を人という形に収めたような、偉大な存在感がある。


「ダオス王…………ダオス文明と関係があるの?」



ダオス文明。それは、現代から8000年前………………紀元前2000年に発祥した文明。気力を持つダイ族・妖力を持つゴーマ族・何の能力も持たない、現在の人類の祖先であるシュラ族で構成されていた。



「私はかつて、ダオス文明を統治していた。そして、すべての戦いの始まりを作ってしまった…………」


戦いの始まり、それはダイ族とゴーマ族の戦いを指しているのだろう。
コウはだんだんとダオス王の本質がわかってきた。彼は、いわゆる神にあたる存在なのだろう。
空、海、大地、この世のすべてを司るような偉大な神。
そして、これから語られるのは…………。


「ダオス王、あなたはこの世界の住人じゃないでしょ?」


「流石だね」


ダオス王は右手で白虎真剣に触れる。まるで、自分の左手に触れるように優しく。
そのまま光が放たれる。緑が強く出たオーロラが空を覆い、同時に夜になってしまう。


「もう一度聞くよ。君は生きたいかい?」


「…………はい」


「ならば、知る必要がある。君は、ダイとゴーマの歴史と…………世界の真実を」