震えている。本当に不安なのだろう。得たものが大きければ、失った悲しみはそれ以上となる。


「由貴ちゃん」


アヤは指輪を外し、机に置く。その指輪はアヤの場所を知らせたものだ。
綺麗なエメラルドカラー。″天宝来来の玉″に似た輝きを放つ不思議な印象を由貴は抱いていた。


「おばさん、この指輪………」


「これはね、おばさんが結婚した時に貰ったものなの」


会話の最中、リンがお茶を運んでくる。他のキッズ達は、亮達へ夜食を持っていっているため、この場には3人しかいない。


「誰なんですか?コウのお父さんはゴーマと言ってたアルね?」


「…………」


かつて、アヤは言っていた。コウはダイ族の自分と、ゴーマ族の夫との間に生まれたと。
しかし、ここに来るまでコウの父親が誰なのか、ハッキリわからなかったのだ。



「その前に伝えなければならないことがあります。実は…………コウには兄弟がいるんです。双子の兄が…………」


「双子?」


「ゴーマにおいて、双子は災いを及ぼす存在とされ、弟は産まれたら殺す掟があるのです」


話の内容からして、出奔する際に連れ出した双子はコウだ。


「残してきた双子の兄…………それは、阿古丸なんです」


『!!?』


リンと由貴は血相を変えたように顔が引き締まった。阿古丸とコウが実の兄弟である、なんという運命の悪戯だ。
確かに2人の背格好、気の種類、雰囲気が似ていると由貴は感じていたが、まさか兄弟とは。
けれど、驚くべき箇所はそこではない。コウと阿古丸の関係がハッキリした瞬間に、父親の正体も判明したのである。



「お母さん、あの…………阿古丸の父は…………確か…………」


「ええ。阿古丸とコウは、私とシャダムの子なんです」


事実、というより真実は小説よりも奇なり。今までゴーマの中心人物として戦ってきたあのシャダムが、コウの父親だとは予想だにしていなかった。
思い返せば、気力よりも妖力の方が成長するスピードが早かった。
コウの強大な妖力が父親譲りだとすれば、シャダムなら誰もが納得してしまうだろう。



「驚いたアル…………お母さんとシャダムが…………」


それから、アヤは10年前に起きたシャダムとの馴れ初めを語りだした。







10年前、ゴーマの復活を予期したダイ族の末裔は密かに戦士としての適齢期を迎えた青年達を召集した。
ダイ族は英雄・大連者に肖り、5人。その中の紅一点としてアヤがいた。
ゴーマの尖兵が都内の廃墟に潜伏してると聞きつけ、戦士達は奇襲をかけた。その場にいたゴーマ達は虚を突かれ混乱、奇襲は成功したのだ。
この時、ゴーマは人間に紛れて変身能力を忘れた怪人達を妖力で強制的に怪人化する計画を企てていた。
この奇襲によって、ゴーマ復活は10年の後に延びた結果が、今の戦いなのだ。しかし、その戦いでアヤを残して戦士達は死亡した。
生き残ってしまったという罪悪感から、仲間達の後を追うため、逃げ出したゴーマを追撃する。
その相手が、あのシャダムであった。追いつき、刺し違えるつもりで立ち向かった。
思いの外アッサリ勝利し、首筋に刃を突きつけた。その時にアヤは、シャダムの脇腹から血が噴き出しているのに気づいた。
自分ではない。恐らく、奇襲をかけて乱戦になった際に仲間がつけたのだろう。
けれども、アヤはその瞬間に怖じ気づいてしまった。死ぬのが怖い。殺すのが怖い。自分にも、この人にも命があるのだと、わかってしまったのだ。
その後、アヤはシャダムを介抱した。なぜ俺を、と聞くシャダムに対し、そこに命があるからと返すアヤ。
敵対し、戦いながらも温情をかけ、その最中に愛が芽生えてしまった。
ゴーマ宮の真下、民衆が暮らす集落がある。そこで祝言を挙げ、2人は夫婦になった。
当時のゴーマは6000年前に15世が行方不明になり、皇帝が不在であったために元老院のみで政治を執りしきっていた。
皇族であるシャダムは皇位を迫るが、15世の生死が定かにならず、仮に死亡していた場合における第一皇位継承者が他にいたことから、承認されなかったという。
アヤとの出逢いを経て、ゴーマの在り方を考えるようになったと思えた。
自分も、ゴーマの民が人間と変わらない事に気づかされる。
やがて、戦いは融和の中に溶け込み、平和が実現される。アヤはそう思ったという。
しかし、意外な形で幸せは崩れ去る。シャダムとの子である双子の男子、阿古丸とコウが産まれてしまったのだ。
二卵性双生児のため、時をずらして産まれたため、シャダムは阿古丸しか知らなかった。
また、アヤも阿古丸を嫡子としてすぐに取り上げられ、コウは理解者であるゴーマの民の下で産んだために周囲にバレルことはなかった。
如何に息子といえど、皇家の血筋であるシャダムが掟に従わないはずはない。