泣きながら阿古丸は走り去った。たった今、自分の世界は崩壊したのだ。
嘲笑うシャダムも、ゴキブリのように見えた貴族達も無視して、とにかく走った。
その途中、思いもがけない人物とすれ違うも、気にする余裕など無かったのだ。









その頃、罵声は止んでいた。思いもよらない人物、それがゴーマ全員を黙らせてしまったのである。


「嘉挧…………」


予想だにしない嘉挧の登場。当然、ゴーマの面々も驚いている。


「貴様ぁ…………二度までもゴーマ宮に現れおって!!」


怒るザイドス。その手には、白虎真剣が握られている。


「道士嘉挧…………おめえさん、なぜここに……」


白虎真剣にもなぜ嘉挧がゴーマ宮に来れたのかはわからない。
無論、目的はわかるが手段が何一つ検討がつかない。


「白虎真剣を返して貰おう」


静かにそう言うなり、シャダムを見る。同じように、シャダムも嘉挧と視線を合わせた。
心中を読みあう、というよりは既に意志疎通ができているかのように、互いの顔は落ち着いた表情であった。
そんな二人を柱の陰から見ているのは、元老院会議を終えた周瑜である。


「嘉挧が来るとは…………嵐でもありますかな?貂蝉…………」


「″今は″敵だ」


貂蝉はそう言うと、去ってしまう。彼女には何かわかってしまうのだろうか。
嘉挧と貂蝉の関係は…………。


「やはり、嵐が来ますな」










ゴーマ宮の下、そこにはダイとゴーマが都を繁栄させた場所…………ダオス文明の遺跡がある。
シャダムがウォンタイガーの誕生するという預言の玉を見つけ、雛がゴーレムの製造方法を記した書物を入手した場所でもある。
封鎖とまではいかないが、ここの調査はシャダムが行っている。そんな場所にいるのは、大鎌遊女である。
夜になり遺跡が完全に闇が包んだにもかかわらず、髑髏型の眼帯が妖しく灯りが灯っている。


「はい…………阿古丸はゴーマを追放されました…………」


相手がいるわけでもないのに、大鎌遊女は話し口調で喋っている。


「バキの覚醒も後少しです。…………ええ。その時をお待ちください、皇帝陛下…………」
























マンションの外では亮達が警備をし、部屋ではリンとキッズ達が待機していた。



「あの時のコウは凄かったんだよ!」


「へえ、そうなの」


アヤはキッズ達からコウの話を聞いていた。戦いのことだけではない。学校でどういう勉強をしているか、どんな風に友達と接しているか。
普通の家庭ならば、夕飯時に子供が親に聞かすような話だ。
そういった普通のことが出来なかったアヤは、今聞けて嬉しいのだ。


「みんな、ありがとう。コウの話をいっぱい聞けて嬉しいわ」


「コウが元に戻ったら、直接聞けるって!」


健一が力強く言うと、少し悲しげに微笑むアヤ。由貴はそれに気づいてしまう。



「不安なの?」


「…………少しね。でも、コウには貴方達のような心強い友達がいる。だから、大丈夫だと信じてるの」


「おばさん…………」


由貴は下を俯く。ハッとした町子は口を開いた。



「みんな、リンお姉ちゃんがお茶を準備してくれてるから、手伝おうよ」


その一言で、健一達はその意図に気づいて立ち上がる。


「由貴ちゃんはおばさんともっと話してて」


「え…………」


「いいから」



町子と目が合う。由貴はその瞬間に、気を使ってくれてると理解した。
同時に、町子の心情も。台所へ行ったのを確認すると、由貴は思いきってアヤを見る。


「本当は、あたしが不安なんだと思うんです。コウ君がきちんと戻るのか…………また一緒に学校行けるのか」



「…………由貴ちゃんは、コウの事を好きなの?」


「…………はい」



頬を赤らめて答える。面と向かって聞かれ、不思議と正直に答えてしまう。


「コウもこんな可愛い彼女を作るなんて、罪な息子ね」


「か、彼女だなんて…………」


状態で言ったのか、はたまた本気かはわからない。
だが、由貴の心はほんの少しだけ解れていた。


「それで、不安というのは?」


「…………この前、大五お兄ちゃんは大切な人を目の前で失ったの…………」


クジャクだ。


「もしかしたら、コウ君もそうやって、あたし達の前から消えちゃうんじゃないかって…………」


クジャクは人類の、地球のために死を受け入れた。すべてを犠牲にして生きるのではなく、自らを犠牲にしてすべてを生かした。
コウならどうだろう?。戦いの中で、あまりに大人びてしまったせいかヒーローとしての責任感が強すぎる。
世界のためなら己の命さえも…………。コウならば考えそうだ。いや、考えるに違いない。



「だから、あたし…………怖くて…………」