「なら…………″聖なる孔雀の涙″を開け、地球の大気を綺麗にすれば良いんです!!」


クジャクは言っていた。″聖なる孔雀の涙″を使えば、すべての汚れと病を消し去れると。


「………人類を………滅ぼしてでもか?」






------!!!??








大五含め、ダイレンジャー達は驚愕するだけであった。ただ優美だけは、ため息をつく。
やっぱり、と。虞翻から聴いたことが間違いではなかったという、残念な報せに落胆をしてしまったのだ。



「道士……なぜ、人類が?」


嘉栩は理解どころか、思考も追いついていない大五に、まるで子供に絵本を読み聞かせる母親の如くゆっくりと話を始める。


「人類はその誕生以後、様々な病気と……いや、病原菌と戦ってきた。その病原菌に対し、免疫をつけることで乗り越えてきたのだ」


病原菌を躰が記憶し、免疫として抵抗力を持つ。そうすることで被害を軽減したり、菌を無力化して滅菌する。
これを繰り返し、種として強くなっていったのが人類である。現代では医療・薬学が発達し、個体での免疫がより強化されてきた。
それだけではない。人類がクジャクにとって汚れた大気の中で生きていられるのも、適応しているからである。


「だが、″聖なる孔雀の涙″によって、免疫となりえる病原菌を消滅させるとどうだ?」


大五は口が開かなかった。思考は答えに到達していたが、口に出すことを拒否しているのだ。


「俺達は、病気への抵抗力を無くしてしまう………」


代わりに亮が答える。無論、その場にいる全員がわかっているため、亮が答えずとも、誰かが言っていただろう。


「″聖なる孔雀の涙″によってクジャクは助かるだろう。しかし、それによって人類が滅びる結果になるのだ」


「現にあたしのお父さんやお母さん、友達や街のみんなは抵抗力を無くして苦しんでる………」


優美が続ける。今、街で起きていることは、恐らく世界中で起こるのだろう。


「街の人々を救うためには、″聖なる孔雀の涙″が完全に解放される前に封印するしかない」


優美が虞翻から聴いた話を、嘉栩は語り始めた。″聖なる孔雀の涙″が活発化した原因は、クジャクの生命に危険が生じているかららしい。
孔雀明王の力の一部でもある″聖なる孔雀の涙″と、化身であるクジャクは繋がっており、ある種の自己防衛反応になっているのだと。
つまり、大気を綺麗にすることで、クジャクを生存させようとしているのだ。
それこそ、人類が病原菌への薬を投与するのと同じように。


「だから大五。その″聖なる孔雀の涙″を渡すのだ」


嘉栩は手を差し伸べる。だが、大五は″聖なる孔雀の涙″を強く抱える。


「嘘だ…………そんなの………信じられるはずがない!!」



″聖なる孔雀の涙″によって人類が滅びる?。デタラメに決まっている。


「本当だとして………クジャクは助けてやらないのですか!?」


孔雀明王の化身として、あらゆる生命を守るために戦ってきたクジャクの、彼女の命はあってはならないのだという。



「ふざけるな!!。俺は……俺はクジャクが死ぬなんて嫌だ!!」


彼女が何をしたというのだ?彼女が悪いのか?。今の地球環境に適応できていないクジャクがいけないのか?


「みんな、頼む…………クジャクを助けてくれ………」


『…………』