それはまるで、陣が人間に対して負のイメージを、いや、負のイメージしか無いからだろう。
自分の体格では手伝ってあげられない。由貴は亮と一緒に助けを求めようかと思った。
その矢先、亮は陣を背中に乗せると、片手で車椅子を持ち、階段を昇っていった。



「お兄ちゃん!?」



「貴様、何のつもりだ?」


「人が優しくしてくれないんだろ?。だったら、自分が人より優しくなればいい」


いくら何でもキツいはずだ。大の大人を背負って、その上車椅子まで。
それでも亮は陣を降ろしたりはしない。由貴も陣も、ただ驚くばかりだった。
これだ。自分が憧れる男、ヒーローである亮。ダイレンジャーになる前からもだが、由貴は亮に憧れていた。
初恋とも云えるかもしれないし、兄とも云えるし、目標とも云える存在。優しく、強い。
それは遥か昔に由貴の先祖も張遼に抱いた気持ち。数奇な巡り合わせが、それを再現しているのだ。


(亮お兄ちゃん…………)



















陣は目が覚めた。亮は仕事帰りで、机で眠ってしまっている。


「はぁい…………ラーメン…………餃子…………お待ちどう…………」



「…………フッ…………」


ハッとした。笑った。思わず笑った。今まで自分が笑うといえば、相手を圧倒的な力で叩き潰す時くらいだった。
どれくらい、笑っていなかっただろう。そんな感情は亜紀を殺した時、いや、師に左腕を斬られた時に捨てたはずなのに。
亮のせい、だろう。そんな感情を思い出してしまったのは。


「…………俺は情を棄てた…………はずだったのだがな…………」


これも亮のせい、かもしれない。
ふと、花瓶にある花が散っているのを見つける。思えば、この拳は随分と汚れた。数多くの命を奪い、亜紀までも手にかけてしまった。


(亜紀…………)


今思えば、亜紀を殺して手に入れたものはあったのか?。魔装によって得た魔道妖拳は、自分が望んだものなのか?
陣はわからなくなっていた。自分とは、拳士とは何なのか。
何だろう。亮だけではなく、あの由貴という少女が原因か。大して似てるわけでもないのに、亜紀と重ねてしまう。
戦いを求めながらも、優しい目をしたあの少女の強さが亜紀まに………………違う。
重ねたのは自分だ。魔拳士に、いや、左腕を切り落とされる前の純粋な的場 陣とそっくりなのだ。
強さを求め、情に充ちていたあの頃の自分。



「…………」


戻りたいのだろうか。非情になった自分を変えたいのだろうか。
陣は巡る思いを抱えながら、ふと花びらに手を伸ばす。



「ん?」


手を見てみると、赤い何かが付着している。それは血だった。特に皮膚を切ったわけでもなく、なぜ血が付いているのか。
そのまま視線を上に向けると、腕が盛り上がっている。おかしい。シャツをどけて見てみる。


「!!?」



顔色を変えてしまう程に驚いてしまった。右腕から骨が生えている。
肉を突き破っているわけではなく、自分のではない何かの骨。


「これは…………」



「…………ん?悪い、寝ちまった…………そういや、包帯換えないとな…………」