その晩、由貴の家では唐揚げだった。普段は好きな食べ物なのに、今日は箸が進まない。


「どうしたんだ?。食べないのか?」



父がビールを飲みながら聞いてくる。自分が思ってることを、親に相談なんてできない。


「何でもない…………」


そっぽを向き、すぐに食べ終えて部屋に向かってしまう。
父は不思議に思い、母の方を向いた。


「何かあったの?」


「帰ってきてからあんな感じなのよねぇ」


学校で何かあったのだろうか。父は思い切って、由貴の部屋に向かおうとした。


「おやめなさい。由貴も年頃なのですよ」


祖母がお茶を飲みながら止める。


「年頃って…………母さん、何を言いたいんだ?」


「由貴も女の子です。それで、わからないのかい?」

「……………」


由貴の鈍感は父親譲りであった。逆に真司は察しが良い。


「姉ちゃん、恋の悩みだよ」


「何!!?」


父の脳裏に思い浮かぶのは、コウの顔だった。姉と思われる人物(リン)と謝りに来た少年。
あの時、由貴は確かにコウの事ばかり気にしていた。


「なあ、真司…………お姉ちゃんとコウ君は、どこまで行ってるんだ?」


「んーー……………チューくらいじゃないかな?」


当たらずも遠からずなところ。父の顔が真っ青になっていく。


「なあママ………由貴が嫁に行くの…………」


「案外、早いかもしれませんね」


「……………うわあぁぁぁァァッ!!」



















それから1時間後、落ち着いた由貴は風呂に入ろうとしていた。まず、ヘアゴムを解いて髪を下ろす。
上着とシャツ、ズボンから入り、新しくしたジュニアブラを外し、下着まで脱いだ。





゙ガラガラ










「由貴、お父さんは…………」










゙ドゴッッ!!゙






父の顔面へ石鹸が投げ込まれる。そのまま浴室へ入り、すすり泣く声をかき消すようにシャワーを出した。
栗色の髪が濡れ、歳の割りに膨らんだ胸や白い肌から雫が垂れていく。
シャンプー・ボディソープ・石鹸を使って躰を洗い、湯舟へと浸かる。
ホッと一息いれると、今日の出来事を振り返る。


「雅之君が、あたしを好きだなんて…………」


今まで、思い当たる節がなかったわけじゃない。コウや健一に出逢うまで、ないしは前年まで一番仲が良かった男子は雅之だった。
よく心配してくれて、助けられた部分もある。
思い返せば、ストーカーをしていたことに薄々気づいていたような気がする。
雅之は目にとまって、自分の近くにいた。気持ち悪い、とまではいかない。それほど、自分を思ってくれているのだろう。